東京・シアターHにて11月上演予定のミュージカル『PandoraHearts』より、作詞・高橋亜子と音楽・富貴晴美のスペシャル対談が公開。2.5次元作品初参加となる2人がお互いの印象や、制作過程でとらえたテーマなどをたっぷり語った。



【動画】“2人のオズ=ベザリウス”がナレーションと楽曲でコラボ 『PandoraHearts』公演PV

 本作は、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』などの童話をモチーフにした望月淳による同名漫画を舞台化したダークファンタジー。

 身に覚えのない罪により、「アヴィス」と呼ばれる異世界に落とされてしまった主人公。そこで、記憶を失った少女と出会い―己の罪とは? 少女の失われた記憶とは?

 作詞を務めた高橋亜子は、代表作にミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』(脚本・作詞)ミュージカル『アナスタシア』(翻訳・訳詞)、音楽の富貴晴美は、代表作にミュージカル『バケモノの子』(作曲・編曲)
ミュージカル『ゴースト&レディ』(作曲・編曲)などがある。

■作詞・高橋亜子&音楽・富貴晴美 スペシャル対談

――お2人は本作が初タッグとのこと。一緒に仕事をすることが決まった際の心境をお聞かせくだ
さい。


高橋:富貴さんが音楽を担当されると知って驚くと同時に、いつかご一緒したいとずっと思っていたので嬉しかったです。

富貴:私も高橋さんが訳詞や脚本を手掛けられた作品をいくつも観劇していて。その度に、優しさとかっこよさが織り混ざった言葉を紡がれる方だなと思っていたので、ご一緒できて幸せです。

――いわゆる“2.5次元作品”への参加となりますが、反響はいかがでしたか。

高橋:反響はすごく大きかったですね。情報解禁後、原作が大好きだという先輩の娘さんから「亜子さんが作詞するんですね!」と、初めてメッセージがきまして(笑)。普段とはまた違う層に、この作品を通じてアクセスできているんだなというのを実感しました。


富貴:私もミュージカルファンの方からたくさんメッセージをいただきました。なかでも多かったのが「これをきっかけに、2.5次元への一歩を踏み出していいですか?」というもので。「絶対にいい作品にしたい」と思って取り組んでいるので、まだ作品も出来上がっていないのに「いい作品ですよ!」とお返事しました(笑)。もちろん2.5次元が大好きな人にも楽しんでもらいたいですし、逆に観たことないという方にもハマってもらえたら嬉しいです。

高橋:私も常々、そういった垣根がなくなればいいなぁと思っています。作り手としてそこに区別はないので、2.5次元作品だから観るとか観ないとか言うのも変だなって。

富貴:そうですよね。私も2.5次元作品だと思って曲を書いているわけではなく、1つの作品として楽曲を書いています。なので、この作品も多くの方に観ていただけたら嬉しいです。

高橋:本当にそうですね。

■初タッグの2人、お互いの印象は? 富貴「(高橋と)同じタイプだとわかって嬉しいです」

――お互いの音楽や作詞に対して、どんな印象をお持ちですか。

高橋:富貴さんの音楽を聴いていると、私の訳詞のプロセスに近いものを経て生み出されているんじゃないのかなと感じるんです。
私は訳詞をするときに、元の言語の歌詞の意味をそのまま訳すことはしていなくて、元の歌詞が生まれた“源泉の感情”に自分をくぐらせるというか。自分がその感情にアクセスして、そこから出てくる言葉を写し取っていく。それが私にとってはすごく大事な部分なんですが、富貴さんの音楽からは同じような、感情から生まれる広がりや深さを感じられるのでリスペクトしています。

富貴:ありがとうございます。私もそういう風に高橋さんが作られているんだろうなと、今回の歌詞やこれまでの作品から感じていました。お話を聞いて、同じタイプだとわかって嬉しいです。

――「PandoraHearts」からはどんな感情を拾われたのでしょうか。作詞や作曲で大事にされたことを教えてください。

高橋:原作もそうですが、今回は加えて、脚本を手掛けた山崎彬さん(脚本・演出)の想いを汲み取るという部分も大切にしました。登場人物が多く、時間軸も複雑な原作の構成を、どういう想いで脚本に落とし込んだのか。まずその意図を理解して、そこから登場人物の想いに潜っていく、二段階での作業をしながら書いていきました。

富貴:私も「なぜこのシーンで歌うのか?」をすごく考えました。
歌い始める瞬間、どういう感情から音楽が始まるといいんだろう、と。なので、脚本や高橋さんの歌詞を何度も口に出して読んで、
感情を考えました。

高橋:普段、自分で脚本も書く場合は、先に音楽構成を考えて間を芝居で埋めていく感覚で作っているんです。今回はそれとはまた違った作り方だったので、難しかったですね。とくに大事にしたのは、言葉ひとつひとつが、そのキャラクターや、彼らが抱える孤独や苦しみを切り取れるようにする、という点です。

富貴:キャラクター1人ずつがどういう人物で、何を考えているのか。その人物の本質が分かる歌詞を高橋さんが書かれていたので、楽曲も1曲ずつ、メロディを聴けばその人物が浮かび上がるよう意識して作りました。普段の構成では、盛り上がるポイントを決めてそこに決めの楽曲を書くのですが、今回は全曲、決めの楽曲を書いている気分で。1曲書き終えると燃え尽きるぐらい、どの楽曲もハイカロリーでした。

■制作の過程で捉えた本作のテーマとは

――先日、オズ役の横山賀三さんが歌唱する「アヴィスの闇に」が使用された公演PVも公開されましたね。

高橋:すごく素敵でしたね。

富貴:横山さんというより、あれはもうオズでした。
すごく良かったです。

高橋:どの楽曲も出来上がったものを聴くと「おお!」となるのですが、まだ作家の脳で聴いているので、なかなか音楽に浸れなくて。歌詞とメロディの調和はどうかとか、考えなきゃいけない部分が残っているので、はやくそこを抜け出してどっぷり浸りたいです(笑)。

富貴:私はキャストの皆さんの過去の出演作品や歌っている姿をたくさん調べてから、楽曲制作に取り掛かったんです。この人がこの役を演じるなら、こういう風に演じてくれるだろうと想像したり、どう歌うのか聴いてみたいなと期待を込めたりしました。実際に皆さんがどう表現されているのか、今から皆さんの歌唱を聴けるのを楽しみにしています。

――改めて、お2人が制作の過程で捉えた本作のテーマとは?

高橋:最初はアヴィスという場所がイメージできなくて。論理的に理解したいタイプなので、他の作品や神話から似たものを探して、手がかりにしました。自分の中にアヴィスのイメージを作って、自分をオズと一緒にアヴィスに落とすことで、言葉が出てきた気がします。そのときも、作品の描いているもの……存在する意味や孤独などを根底に持ちながら、そこから何かを掴もうというイメージで作詞をしました。登場人物全員が痛みや過去を抱えていて、誰も素直にそれを言葉にしないじゃないですか。だからこそ、心を結び合えたときに、より強く引き合うし支え合う。
闇の中で痛みを抱えながらも、その絆があるところに向かいたい。そういうイメージを持ちました。

富貴:私は大学で働いている関係で学生の話を聞く機会が多いのですが、みんな葛藤しながらも、一筋の光を信じて頑張っている。その一筋の光というのは、自分を支えてくれる人との出会いでもあると思っていて。その姿はオズたちにも通じるものがあって、闇の深さは違えど、彼らも私たちとあまり変わらないんじゃないかと思っています。ファンタジーではあるけれど現実的で、「自分のことだな」と思えるストーリーだからこそ、若い方にも響く物語だと捉えました。

――劇場で耳を澄ましてほしいポイントを教えてください。

高橋:歌詞ではないのですが、最初の一音をすごく楽しみにしています。どういった音楽で作品の世界に連れていってもらえるのか。個人的にはすごく耳を澄ませたいポイントです。

富貴:前半に出てきたメロディを、後半の歌やBGMに組み入れているので、それを見つけて楽しんでもらえると嬉しいです。このメロディが流れているときはこの感情、というような仕掛けをしているので、ぜひ探してみてください。


――最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

高橋:この「PandoraHearts」という作品がもともと好きな方には、「こんな景色があるんだ」と思ってもらえるようなものをお見せしたいですし、舞台をきっかけに原作を知ったという方にも楽しんでいただきたいです。ファンタジーな世界観ですが、気持ちの面では地続きで。私たちの心を映し出す鏡みたいな作品なので、多くの方に触れていただけたら嬉しいです。

富貴:原作はもちろん、脚本や歌詞を読んでいても、強いメッセージ性を感じます。音楽もそこに魂をぶつけて作曲しましたので、キャストの皆さんがこれをどう歌って完成形を作りあげるのか、私も楽しみにしています。舞台はお客様に観てもらってはじめて最後のピースがはまると思っているので、ぜひ最後のピースをはめに来てほしいです。お客様も含めて、全員で1つのチームとして作品を盛り上げていけたらいいなと思っています。

(インタビュー&文:双海しお)

 ミュージカル『PandoraHearts』は、東京・シアターHにて11月7~16日上演予定。

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