原浩の第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作を、『空飛ぶタイヤ』『シャイロックの子供たち』の本木克英監督が実写映画化した『火喰鳥を、喰う』。ミステリアスで不穏な空気が観る者の心を揺さぶる怪作で、主演を務めるのは水上恒司。
【写真】水上恒司&宮舘涼太、美しいソロビジュアル 撮り下ろしフォト
物語は、信州で暮らす久喜雄司(水上恒司)と夕里子(山下美月)のもとに、太平洋戦争で戦死した先祖・久喜貞市の日記が届くところから始まる。日記の最後のページには「ヒクイドリ、クイタイ」と記されており、その日以来、平穏な日常の周囲で不可解な出来事が立て続けに起こる。超常現象専門家・北斗総一郎(宮舘涼太)を迎え、事件の真相を探ろうとする雄司たち。しかし、彼らは常識を超えた真相に直面し、やがてそれは彼らの中にある“執着”をもあらわにしていく――。
■役者として「何を打ち出していけばいいのか」難しい作品(水上恒司)
――先の見えない展開と、不穏さが最後まで積み重なっていく物語に心をつかまれました。本作に出演しようと思った決め手を教えてください。
水上恒司(以下、水上):原作がミステリ&ホラー大賞で受賞した作品というのもあり、ホラー的な要素のある作品だと感じていました。僕自身、『世にも奇妙な物語』に出演させていただいたことがあるのですが、長編は初めて。まずそこに惹かれましたね。
この作品には多様な面があり、どこにフォーカスするかによって全く印象も変わる。僕ら役者も「何を打ち出していけばいいのか」がかなり難しいと感じたくらい、アプローチの仕方がたくさんある作品だったので、それも魅力に感じました。
宮舘涼太(以下、宮舘):僕は単独での映画出演が初めてだったので、とてもありがたいお話をいただいたと思いました。原作を読むと、これまで目にしたことのない物語と、個性的な登場人物たちが描かれていて。僕が演じる北斗はセリフも膨大で、言葉のひとつひとつにも重みがあったので、そこに強く惹かれました。
――完成した作品をご覧になって、いろいろクリアになった部分もあるのではないかと思います。いかがでしたか?
水上:完成した映画を観てまず驚いたのが、本木(克英)監督の演出です。撮影の最初の2、3割は、正直まだ監督の狙いを汲み取れていませんでした。僕は台本に書かれていない部分を埋めるのも役者の仕事だと思っていて、「あ、こいつ面白いことやってるな」と思わせたい気持ちがあるんです。
でも、本木監督の場合はそれが一切なく、無駄を撮らないんです。今の映像制作ではたくさん素材を撮って後から選ぶことも多いですが、監督はその逆。頭の中に明確な“画”あって、必要なものだけを撮る。
撮影が2、3割進んだ頃、監督の過去作『シャイロックの子供たち』を観て意図を理解できたんです。役者にとって現場の雰囲気を掴むのはとても大切で、要領を得られたことでそこから落ち着いて臨めたと思います。ただ、意図が分かったからといって100%楽しめたわけではなく、技術や度量の不足を感じる場面もありました。それもまた、新しい挑戦でしたね。出来上がった作品は本当に「面白い」と感じました。
――宮館さんはいかがでしたか?
宮舘:僕は撮影が始まって2週間ほど経ってからクランクインしたので、すでにできあがった雰囲気の中に飛び込んでいった感じでした。夏休み明けにやってきた転校生みたいな(笑)。最初のシーンが水上くんとの2人芝居で、本木監督の頭の中のビジョンを受け止めつつ「大丈夫なのかな?」と思いながら進めていた部分もあって。でも完成した映画を観たら、「なるほど」と。監督の狙いが随所に散りばめられていて感激しました。
北斗という難しい役を、監督と何度も話しながら作り上げていったんですが、公開を経てお客さんにどう映るのかが楽しみです。
■「生きるも死ぬも僕次第」という覚悟を持ちました(宮舘涼太)
――本木監督とは『映画 少年たち』(2019)以来2度目の現場でしたね。
宮舘:『映画 少年たち』の時は大人数の現場だったので深くお話できなかったのですが、今回は、衣装合わせやヘアメイク合わせの段階から緻密なコミュニケーションを取らせていただきました。「北斗は不思議な子なんだよね」という監督の言葉に、「それは大体わかります」と答えたやり取りから始まり(笑)、どう不思議さを表現し、物語を進めるキーパーソンの役割を担うのか。撮影中も合間に打ち合わせを重ねられたのは大きかったです。
――水上さんは、今回初めての本木組で学んだことはありましたか?
水上:役者が現場に持ち込むものが作品を動かすこともあれば、「いらない」と切り捨てられることもある。今回の現場はその両方でした。現場ごとに求められるものが違うし、以前通用したやり方が別の現場では不要になることもある。だからこそ、その場の空気を嗅ぎ分けて対応する必要があると痛感しました。
経験則から生まれる「自分のやりたいこと」が通じないこともあります。そこで新しいものをどれだけ生み出すことができるか。
――主人公の雄司は周囲の変化に翻弄される“受け身”の役でした。演じる上で難しさはありましたか?
水上:難しかったです。雄司は“キャッチャー”だと思っているんです。いろんな投手からボールを受けるように、相手からの感情や言葉をひたすら受け止める。ボールを落としてしまうこともあれば、拾ってアウトにできることもある。その連続なんです。
ただ、僕は「分かりやすいものをいかに疑うか」ということを20代のうちは大事にしていて。雄司も分かりやすい部分がある役ですが、それを疑いながら演じる難しさがありました。物語を動かすのは僕ではなく、矢印を投げかけてくる人たち。その矢印をどう受け止めるかで物語が形作られる。だからこそ、宮舘さん次第だなと感じました。
宮舘:本当に「生きるも死ぬも僕次第」だという覚悟を持ちました。水上くんが言ったように、ボールを投げるのは僕。そのボールを受け取ってもらえるのか、落とされるのか。投げないことには始まらないので、説得力を持って北斗として物語を動かせるかどうかが課題でした。その点については監督ともたくさん話し合い、演技面でたくさん学ばせていただいた現場でした。
■水上恒司のアメとムチがさく裂? 役者としてお互いすごいと思うところ
――共演してみて、お互い役者としてすごいと思ったところは?
宮舘:言葉が合っているかわからないんだけど、水上くんは“憑依できる人”。役によってヤンキーにもなるし、時代劇でひげを生やすこともある。そういう引き出しの多さがすごい。
水上:(野球部員のように)あざっす。
宮舘:(笑)。
水上:今の発言に少し補足を……。
宮舘:これ補足されるの!?
水上:いや、聞いてください。
宮舘:そうかな~。じゃあ言わせてあげよう。
水上:憑依しているように見えるのは嫌じゃないんですが、僕自身は「憑依している」とは思っていなくて。
宮舘:そうだね。僕が言いたかったのは見えないところでの努力や台本への向き合い方、その熱量がすごいという意味を込めてました(笑)。
水上:(からかうように)語弊がありますけどね!
宮舘:あったかな!?
水上:僕は宮舘さんについて、できればご本人がいないところで言いたいくらい思っていたことがあるんです。北斗という役は、コミュニティの中に突然入り込んでくる“異物”のような存在。いわばウイルスなんです。僕らはそれに対して白血球のように排除しようとする。だからこそ、異物として入り込む“図々しさ”がすごく大事なんです。
撮影当時も今も、宮舘さんご自身の中に図々しさがあるのかもしれないけれど、基本的に消している。もし本当に図々しさを持っていないのだとしたら、北斗という役にそれを創り上げて投影し、ボールとして投げていたわけで──それはものすごく複雑で、難しいことやってのけてますよね。そこは評価されるべき部分だと思いますし、僕自身も興味深く感じています。
宮舘:(急に褒められて)アメとムチなんですよ。ムチの方が多いですけど。
水上:(劇中の北斗のように)こうやって思念を刷り込んでます。
宮舘:なるほど、これは思念か。PRにぴったりだね!
■お互いがキャッチャーだからこその信頼感/自身にとっての執着は?
――お二人とも仲が良さそうに見えますが、役柄的に同じ女性を好きになるので距離を置いたりはしましたか?
水上:いや、特にないですね。
宮舘:雨で撮影が止まったとき、久喜家の玄関でしりとりしてたよね。
水上:あれは泣く泣くですよ。
宮舘:出た! ムチです。
水上:(笑)。連絡先は交換しましたね。でもそれ以来一切連絡とってないですね。あんまり仲良くないですから。
宮舘:またムチだね! ウナギとか食べに行きましたよ。僕が奢りました。
――いいですね。先ほどからムチが多めですが、水上さんから見た宮舘さんのいいところは?
宮舘:ぜひとも言葉にしていただきたい。
水上:じゃあ、強いて言うなら…ってのは冗談です。宮舘さんはほんとに周りがよく見える方。僕は野球部でキャッチャーをしていたんですが、割と周りを見るポジションなんですよ。今、座長と言われる立場を任せていただくことが増えて、全体を見渡すということにつながっているなと思います。役者全員がそうではないですが、宮舘さんは常に全体を見ている。だから僕がムチを打っても安心して受け止めてもらえるんです。
宮舘:本来僕がキャッチャーなのかもね。
水上:お互いキャッチャーなんですよ。だから共鳴する部分もあり、思い合えるんだと思います。
――「執着」や「強い思い」が本作のテーマでもあります。これまで執着したことで乗り越えられたり、今につながっているという経験はありますか?
水上:僕はあまり執着がないんです。仕事も「いつ辞めてもいい」と思っているし、恋愛でも振られたら泣きますけど「しょうがない」と割り切れる性格。ただ、“親への恩返し”のようなものには執着したことがあります。でも親からは「恩返しなんていらない」と言われて怒られました(笑)。勝ちたい気持ちや、誰かのために頑張る気持ちはありますが、結果が出たらきっぱり諦められる。現実的に計算して、ある意味ずる賢く物事を成し遂げようとするタイプかもしれません。
――今年主演作が次々続いているのは、やはり強い思いで引き寄せているのでは?
水上:そういう部分もあると思います。でも映画って所詮“娯楽”じゃないですか。ただ、その娯楽に人の心を大きく揺さぶる力があるのも事実で、その崇高さも理解しています。だからこそ、熱い気持ちを持ちながらも、それをどう軽やかに表現するかを常に考えています。
それに、僕は「誰かのために演じる」ことはないんです。もしその人がいなくなったら、芝居をやめるのか?と考えたら、そうじゃない。デビュー当時から一貫して「自分のため」に芝居をしてきました。それが結果的に、僕にとっての“執着”なのかもしれません。
――宮舘さんはいかがですか?
宮舘:今回本当に莫大なセリフ量で、何度読んだり言ったりしても覚えられない瞬間があったんです。天体を説明するシーンがあるんですけど、星の名前がなかなか覚えられなくて…。くじけそうになったんですが、でも人間の心理を描いた物語やドロドロ感、ラブストーリーの要素など、作品の面白さをどうにか届けたい一心で頑張りました。その“執着”が原動力になったと思います。
――やり遂げたことで自信になりましたか?
宮舘:はい。お芝居の楽しさを強く感じられました。もっと学んで、もっと作品に出て届けていきたい。グループ活動にも良い影響があると思いますし、メンバーの中でお芝居をしている人もいるからこそ、自分にしか届けられない、自分にしかできない役に今後も出会っていけたらと願っています。どうだ!(キメ顔&ポーズ)
水上:(拍手)。
(取材・文:川辺想子 写真:高野広美)
映画『火喰鳥を、喰う』は、10月3日より全国公開。