ドラマ『ひとりでしにたい』(NHK)や、Netflixシリーズ『阿修羅のごとく』など話題作への出演が途切れず、どの作品でも確かな存在感とますますの輝きを放ち続ける松坂慶子。この秋は、ドラマ10『シバのおきて~われら犬バカ編集部~』(NHK総合/毎週火曜22時)で獣医師役に初挑戦する。
【写真】お茶目な“指圧”ポーズがかわいすぎ! 松坂慶子、キュートな魅力あふれる撮りおろしショット
◆かわいくてお利口な柴犬との共演にもうメロメロ
本作は、片野ゆか著『平成犬バカ編集部』を基にした、絡まりもつれた人の心を優しく解きほぐしてゆく、ヒューマン&ケイナイン(犬)ストーリー。傍若無人なアラフォー雑誌編集長のもと、はみ出し者や変わり者たちが集った“ガケっぷち”柴犬専門雑誌「シバONE」編集部の奮闘を描く。
松坂は、そんな編集部のメンバーと雑誌の看板犬を時に温かく、時に厳しく見守り続ける、犬の指圧のゴッドハンドを持つ獣医師・滑沢好美を演じる。
――本作出演オファーを聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか?
松坂:お仕事をご一緒したことのある監督ばかりでしたので、久しぶりにお目にかかれることがとてもうれしかったです。それに柴犬と一緒に撮影できるなんて、本当に楽しみでした。
獣医師役は初めてです。撮影前に先生にいろいろご指導いただいて、動物病院にも1日見学でお邪魔させていただきました。いろんなお話をお伺いし、飼い主さんのご様子を拝見できて、滑川先生というキャラクターに肉付けできたのでよかったです。
――動物とこれだけしっかり共演される経験はありましたか?
松坂:こんなに一緒っていうのは初めてですね。看板犬の福助くんはもう主演ですね(笑)。私の撮影が始まる前に編集部の皆さんとお会いしておきたかったので、撮影の見学に行ったんですね。
今回実際に共演してみると、本当にかわいいんですよね。お利口なワンちゃんでもうメロメロです。勘もいいですし、そのシーンに合うような状態でいてくれるんです。とても知的なワンちゃんで、いろんなことを考えたり感じているのがよく分かるんですよね。自然体っていうか、まったく動じなくって。診察台での撮影もあったのですが、普通診察台に上がると注射されたことが甦って怖がると思うんですけど、どーんと動じずにいて風格もありますね。
◆犬の立場から見て心地いいことがよくわかる作品
――演じられる滑川先生はどんなキャラクターですか?
松坂:モデルになった先生は、東洋医学を学んでるんですね。針やマッサージも取り入れて、西洋医学だけじゃなく気の流れを大事にしたりと両方をなさっている先生なんです。もっと早く出会いたかった、こういう先生に診てほしかったなって思う先生でした。
――劇中には、柴犬ちゃんたちを指圧するシーンもありました。
松坂:人間がマッサージしてもらうとリラックスするのと同じで、気持ちいいみたいでしたね。犬には鎖骨がないので肩も凝りやすいんですって。足の付け根をマッサージすると気持ちいいらしいのですが、そんなこともいろいろと勉強できる作品なんです。
――実際にワンちゃんを飼っている人は、新しい学びも知ることができる作品ですよね。
松坂:そうなんです。彼らは背が低いですからつい上から手を伸ばしてしまいますけど、ちょっと怖いような顔をすることがありますよね。彼らの目線の下から手を持っていくと怖がらないとか、急にガバッと抱きしめるのはダメなんだとか、彼らの立場から見て心地よいことがドラマの中にはたくさん出てきますので、そうしたところも見ていただきたいです。
――滑川先生は、柴犬たちだけじゃなく、編集部の皆さんにとっても頼れる存在です。
松坂:東洋医学も学んでいますから、癒やしの存在なのかしらね。人生の先輩として、重しのような存在にもなっている感じもあります。滑川先生も編集部の皆さんの仲間にまぜてもらって仲良くやってますけど、若いやる気いっぱいの人たちと過ごせて楽しいんだと思います。
――主演の大東駿介さん、飯豊まりえさん、片桐はいりさん、こがけんさん、篠原悠伸さんと個性的なみなさんがそろわれた撮影現場の雰囲気はいかがですか?
松坂:みなさん熱心でやる気があって、真剣に取り組まれていて素晴らしいですね。
何より、かわいいワンちゃんが現場にいるので、とても温かい現場になっていますね。普通だと助監督さんが「よーい、スタート! カチン」って撮影を始めるんですけど、ワンちゃんが緊張せずに自然にリラックスしたままいられるよう静かに始まるんですね。大声を出す人も、感情的になる人ももちろんいなくて、大変穏やかないい感じの現場です。みんなでワンちゃんの居心地がいい現場を目指しています(笑)。
◆面白いことにチャレンジするのが仕事の原動力
――先日まで放送されていた『ひとりでしにたい』で演じられたヒップホップ好きな雅子さんも話題となりました。綾瀬はるかさんとのラップバトルも最高でした。
松坂:たくさん練習しました(笑)。私はのんびりしてますし、ラップも裏打ちとかそういうのが分からなかったんですね。ずいぶん教わって、結果雅子さんなりのラップに落ち着いて、みなさんに喜んでいただけてよかったなって思います。
――『シバのおきて』『ひとりでしにたい』もそうですが、『阿修羅のごとく』『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』『らんまん』『舞妓さんちのまかないさん』と話題作への出演が続きます。
松坂:私の場合は15くらいから仕事をやっていて、映画に育ててもらって、NHKやテレビに育ててもらってここまで来たという感じなんですね。なんで続けられたのかっていったら、ものを作りたいっていう現場の静かな情熱というか、そこに一緒に参加して仕事するっていうことがすごく楽しいんです。いい現場でいい方たちと仕事をさせてきていただいたからずっと続いているんだと思います。
――デビューから58年、これまでさまざまな作品で印象的な役を演じてこられましたが、ターニングポイントになった作品を挙げるとすると、どの出会いになりますか?
松坂:そうですねぇ……。NHKで銀河テレビ小説というものがあって、石坂洋次郎先生の小説をドラマ化した『若い人』という作品に19歳くらいのころに出させていただいたんですね。それまで子ども向けの作品が多かったのが、初めての文芸作品で、江波恵子という重要な役をやらせていただいたのがターニングポイントだったかしらね。その後も、大河ドラマ『国盗り物語』に抜擢していただいたり……。大きな役をいただいて、のるかそるか、できるか失敗するかっていう状況に立たされた時に、なんとかやり遂げることができたっていうのが大きかったですね。
ほかにも野村芳太郎監督の『事件』、山田洋次監督の『男はつらいよ』、つかこうへいさんが原作の『蒲田行進曲』もそうですね。今までやったことのないものに出会って、なんとか乗り切ったことがターニングポイントになってますよね。『死の棘』もそうですし。
最近で言うと、『一橋桐子の犯罪日記』は楽しかったですね。
――好奇心が旺盛なところも、魅力につながってるんですね。
松坂:やろうかな、やめようかな、って迷った時はやろうということにしているんです。面白がりなんですよね。面白いと思うことにチャレンジすることが仕事の原動力なのかもしれないですね。
――松坂さんといえば、チャーミングさと色気の両方を感じる美しさが魅力的ですが、その輝きの秘訣はどんなことなのでしょうか?
松坂:もうちょっと心がけたらいいんじゃないかっていつも自分に思うんですけど、きっと仕事をし続けてるからですよね。仕事に入るとね、一番いい状態の自分にしていこうと思いますから。
――松坂さんにとってお仕事とはどんな存在ですか?
松坂:私が台本を手にするまでの、この作品が練り上げられる長い過程に思いを馳せると、心して演じなくてはと緊張します。
でも、子どもが砂場でお砂遊びするのを見ると、お城を作っては壊し、山を作っては壊しって飽きることなくやっているでしょう。そんな砂場で遊んでるみたいに楽しんで仕事ができたらいいなって思うんです。
――今後チャレンジしてみたい役どころはどんなものでしょうか?
松坂:人生100年って言われていますね。チェン・カイコー監督の日中合作映画『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』で、秦怡さんという女優さんが楊貴妃の侍女の役を94歳で演じてらっしゃるのがすごく素敵で憧れました。俳優って人を演じる仕事だから、自然に年を重ねてその年ならではのよさや面白さが演じられる人であり、女優になれたらいいなと思います。
今回のドラマのおかげで、シバ犬ちゃんのマッサージという特技(笑)が増えました。友達のワンちゃんにも喜ばれています。これからどんな出会いがあるのか楽しみに、シバ犬ちゃんのように歩いて行きます!
(取材・文:佐藤鷹飛 写真:高野広美)
ドラマ10『シバのおきて~われら犬バカ編集部~』は、NHK総合にて9月30日より毎週火曜22時放送。