テレビ朝日系ドラマ『しあわせな結婚』で穏やかな夫婦役を演じた松たか子と阿部サダヲが、今度は宮藤官九郎が作・演出を手掛ける舞台『雨の傍聴席、おんなは裸足…』で再共演を果たす。演じるのは離婚裁判で激しく争う芸能人夫婦。
【写真】阿部サダヲ&松たか子、やっぱりお似合いな撮りおろしショット
■宮藤官九郎が描く「何が起きるか分からない」世界へ
宮藤官九郎が作・演出を手掛ける『大パルコ人』シリーズ、4年ぶりの最新作『雨の傍聴席、おんなは裸足…』。物語の舞台は、離婚裁判が行われる法廷の傍聴席。阿部サダヲ演じるミュージカル俳優と、松たか子扮する演歌歌手の夫婦が、子どもたちの親権をめぐり壮絶なバトルを繰り広げる。歌あり、ダンスあり、バンド演奏ありの“オカタイ”ロックオペラ。芸能人夫婦と二世というテーマに、宮藤ならではの視点で切り込む。
――お2人はドラマ『しあわせな結婚』での共演も記憶に新しいですが、今回は宮藤官九郎さん作・演出の舞台での共演です。松さんは宮藤さんの演出を初めて受けられますが、意気込みや楽しみにされている点をお聞かせください。阿部さんは久しぶりの『大パルコ人』シリーズへのご出演となりますね。
松たか子(以下、松): 先日、脚本をいただいたのですが、すごいスピード感に圧倒されてしまいました。以前出演した、劇団☆新感線の『メタルマクベス』は、シェイクスピアの「マクベス」をベースにしていましたが、100%宮藤さんの脚本を受け取ったのは初めてで。そのスピード感に自分が読むスピードが追いついていない感覚を味わい、「これをやるんだ」と。
――演出面で、何か想像して楽しみにされていることはありますか?
松:初めてなので全く分かりません。とにかくいろいろ試して、「違う、違う」って言ってもらえるように頑張ろうと思います(笑)。
――「解き放たれた阿部さん」と言われていますが、阿部さんはいかがですか。
阿部サダヲ(以下、阿部):どうなんですかね。僕もまだ、読んでも何がどこで行われているか分からなくて。裁判所で裁判はやっているんですけれど、その最中にいろんなことが、いろんな場所で起きているんです。どこかに中継でも入っているのかな? と思うくらい。歌もどんどん入ってくるし、皆さんバンドもやるじゃないですか。いつ移動してるんだろうって。実際、本を読んだだけじゃ分からないことがすごく多いですね。
――宮藤さんが作・演出される舞台の脚本は、ドラマや映画の脚本とは違うものなのでしょうか。
阿部:宮藤さんの頭の中ではでき上がっているから、それをいちいち説明せずに書いているんだと思います。だから舞台の時は、稽古が始まってから「ああ、なるほどね」「こういうことなんだ」と思うことが多いかもしれません。ト書きがほとんどないんですよ。
松:確かにそうですね。
阿部:「ここでこうして」みたいなことは書いてない。だから急に入ってくる人がいるとか(笑)。それが分からない。とにかく会話だけで進んでいくスピードがすごいですよね。
――今回初めて参加される松さんに、宮藤さんの舞台を楽しむコツをアドバイスするとしたら?
阿部:ええ? ないですね(笑)。
松:ええー!(笑)
阿部:なんだか、笑っているうちに終わるという感じです。
松:(笑)。分かりました、分かりました。
■演歌歌手とミュージカル俳優、互いの声に惹(ひ)かれ合う
――今回は松さんが演歌歌手、阿部さんがミュージカル俳優という役どころで、歌も大きな見どころですね。
松:私、演歌を歌うとしたら「津軽海峡・冬景色」です。歌ったことがあるのはそれぐらいという意味です(笑)。演歌歌手役は初めてなので楽しみです。本番ではたぶん着物も着ると思うので。
阿部:僕はミュージカル俳優役ですけど、歌い上げる系の本当のミュージカルって、ちゃんと見たことがないのかもしれないです。
松:ええ! そうなんですか?
阿部:僕が見たのは松さんが出演している『ラ・マンチャの男』くらいかな。
――改めて、お互いの舞台俳優としての魅力をどんなところに感じますか?
松:舞台でも何でも素敵ですけど、阿部さんのお芝居を観ると、本当に切ない気持ちになるんです。(阿部が主人公・フクスケを演じた舞台)『ふくすけ』を観た時は、「男だったら絶対この役をやりたい!」と思うほどの衝撃を受けましたし、松尾さんの作品に出られている時の阿部さんを観ると、松尾さんから阿部さんへの深い愛を感じて、それがまた切なく見える。そういう印象がすごくあります。宮藤さんのこともよくご存知ですし、今回は阿部さんを見ながら勉強させてもらおうと思っています。
阿部:いや、もう声ですよね。松さんの声の通り方は信じられない。
■ダメな親だけど“親バカ”。「天才」たちとの化学反応
――演じる役柄については、今どのようにとらえていらっしゃいますか?
阿部:僕が演じるミュージカル俳優は、離婚したいって言っているんですけど、結局は嫌いじゃないんでしょうね。ずっと裁判してるんですけど、不思議な感じで。最後はちょっと優しくなって終わるっぽいです。
松:私が演じる演歌歌手も、そうなった理由が子ども時代のエピソードなどで描かれるのですが、結局は相手のことが嫌いではないんだろうなと。
阿部: 結局、2人とも“親バカ”なんですよね。子どもから見たら「ダメな親たちだな」って思うかもしれないけど。
松:ダメな親を頑張ります。
阿部:宮藤さんの中に、芸能人夫婦の子どもはダメになっちゃう、みたいなイメージがあるんですかね? 二世とかよく出てくるんですよ。その生きざまがすごく気になるんでしょうね。
――物語のキーワードの一つに「天才」がありますが、お2人が思う「天才」とは? また、これまで出会った中で「この人は天才だ」と感じた方はいらっしゃいますか?
阿部:難しいですね。言われたら言われたで嫌だろうなって。宮藤さんも天才だって言われることが多いけど、本人はあんまり好きじゃないのかもしれないとこの本を読んで思いました。野球部の頃に見ていたイチロー選手とかもそうですけど、天才と言われる人もすごい努力をしているじゃないですか。何なんですかね……。(松さんを見て)天才でしょ?
松:天才じゃないです(笑)。でも、言われると嫌ですよね。昔、「天才は凡人にはない努力ができる人である」という言葉を聞いて、なるほどと思った記憶があります。そっちの意味に望みをかけたいというか。私、自分以外の人は大抵「天才だな」って思うんです。でも今改めて考えると、「天才」というより「あ、完璧だ」って思ったことはあるかもしれないです。人に対して。「今のこの人完璧」って。
――今回、未知の作品に飛び込むチャレンジについては、どう感じていますか?
松:こういうチャンスをいただけるのは、すごくうれしくて幸せです。まだ宮藤さんの頭の中にしかなくて、誰も見たことがないものだから、限りなく自由でいいはずなんですよね。面白くなるように頑張るというシンプルな目標に向かっていける仕事に出会えるのは、本当に幸せ者だなと思います。
――阿部さんから見て、松さんのコメディエンヌとしての魅力も、今回の楽しみの1つではないでしょうか。
阿部:松尾さんの作品に出ている時の松さんもすごく面白いですけど、宮藤さんのセリフを言うのもまた新鮮だと思います。演歌歌手という役なので、そんなに動きが派手じゃない中でどういう風にやってくるのかなっていう。ポイント、ポイントですごく面白いセリフもあるので、期待していてください。宮藤さんや僕はもちろん、みんな松さんが出てくれるのはうれしいと思っています。
――最後に、楽しみにされている皆様へメッセージをお願いします。
阿部:僕は『大パルコ人』シリーズには久しぶりの参加で、宮藤さんの舞台演出も久しぶりなので、とても楽しみにしています。共演したことのない方もたくさんいて、どういう舞台になるのか本当に想像がついてないんですけど、絶対面白くなる気がするので、ぜひ観に来ていただきたいと思います。
松:私もこれから始まる稽古を、一生懸命、楽しく頑張りたいと思います。新しくなったPARCO劇場も、大阪のSkyシアターも初めてですし、とても新鮮な気持ちです。その気持ちのまま、千秋楽まで元気に迎えられるように頑張ります。
阿部:あと、『しあわせな結婚』というドラマは1回忘れていただいた方がいいです。あのドラマのイメージで見に来ると「全然違うじゃん!」ってびっくりすると思うので(笑)。
松:そんな風に裏切るのは最高に気持ちいいですね(笑)。
(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)
大パルコ人(5)オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』は、東京・PARCO劇場にて11月6日~11月30日、大阪・SkyシアターMBSにて12月4日~12月14日、宮城・仙台サンプラザホールにて12月20日・21日上演。