純粋すぎる「愛」は、ときに形を変えて「呪い」となる――。『劇場版 呪術廻戦 0』が描き出す乙骨憂太と祈本里香の物語は、幼い心のままに放たれた想いが、甘美であると同時に残酷な鎖へと変わっていく過程を鮮烈に刻んでいる。

その“痛ましいほど真っ直ぐな愛”を声で息づかせたのが、乙骨役・緒方恵美と里香役・花澤香菜。二人が語る言葉には、愛と呪いが紙一重で交錯する、儚くも深い絆の温度がたしかに宿っていた。

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■無垢な声に宿る、切なさの予兆

――当時のアフレコから少し時間が経ちましたが、お二人の掛け合いの中で、特に思い出に残っている瞬間は?

緒方:アフレコは、里香ちゃんとの幼少期のシーンから始めさせていただけたんです。それがとてもありがたくて。物語の根っこをしっかり感じながら入れた気がします。

花澤:緒方さんが演じる小さな頃の乙骨くんが、本当に可愛くて。特に「こんにゃく(婚約)」って言っちゃうシーンは、胸がキュンとしちゃいました。あれはもう……そりゃ里香ちゃん、メロメロになっちゃいますよね。

緒方:いやもう、アホなんですよ(笑)。なんだ「こんにゃく」って。

花澤:でも、その“アホ”さがすごく良かったんです。子どもらしい不器用さが、里香ちゃんのおませな一面と対比になっていて。
だからこそ、後に呪霊になった彼女の存在が、より切なく響くんだと思います。

――“特級過呪怨霊”としての里香は、感情の振れ幅がとりわけ大きく、その一瞬一瞬を体現する花澤さんの表現力には圧倒されました。

花澤:加工の技術に本当に助けられました(笑)。

緒方:たしかに加工は入っていましたけど……現場では「これ、無加工でもいけるんじゃないか」って、みんなで言ってたくらいなんですよ。

花澤:嬉しいです。原作漫画を読んだときには、里香のセリフに全部濁点がついていて、「これを声にするとどうなるんだろう?」と想像もつかなくて。

実際にアフレコ現場で音響監督さんから「里香は呪霊になってしまって、歯もギザギザで、もう元の声では到底喋れない。違う存在になってしまった“気持ち悪さ”も出したい」とディレクションをいただいたんです。

そこから、“喋りにくさ”や“本能的に動く幼さ”を意識して演じました。怖がらせるためではなく、ただ「憂太に喜んでもらいたい」という一心で声を震わせていたんです。

■「一緒に逝こう」幼さが紡いだ、結婚のような誓い

――作中には「愛ほど歪んだ呪いはないよ」という五条 悟の言葉がありますが、乙骨と里香の関係性を演じる中で、お二人が感じた“愛”や“絆”のかたちはどのようなものだったのでしょうか。

緒方:乙骨はたしかに里香ちゃんのことが好きなんです。
でもそれは、大人の男女の恋愛感情というよりも、もっと幼い“好き”から始まっていると思います。彼は精神的にもまだ未熟で、「こんにゃく(婚約)」と言っちゃうくらい結婚という概念すら理解できていなかった。

男子って、女子に比べてどうしても成長が遅い部分がありますよね。だから最初の乙骨は、恋愛というより「大好きな友達」としての気持ちが強かったんじゃないかと。もし二人が共に成長していたら、それは自然と恋に変わっていったのかもしれません。

でも、物語の中ではそこで時間が止まってしまった。だから乙骨の“愛”は純粋であると同時に、とても幼いものなんだと思う。その未熟さが、呪いという形になってしまったのかもしれません。

花澤:里香ちゃんにとっては、その“幼い好き”ですらかけがえのないものでした。彼女の家庭環境は決して恵まれていなくて、乙骨くんと過ごす時間こそが心の拠りどころだった。だからこそ、彼女は年齢以上に達観していて、彼の不器用な言葉や仕草に支えられていたんだと思います。

そして私自身も忘れられないのが、夏油 傑との最後の戦いの中で乙骨くんが言う「一緒に逝こう」というセリフ。
緒方さんがあれを“結婚しよう”という気持ちで演じられていたと知ったとき、胸に深く刺さりました。

緒方:たしかにそう思ってでしたが、すごく重々しい覚悟を持って言っているというよりは、まだ何も分かっていないまま、その言葉をーーもちろん乙骨としては本気でそう思っているのですが、それは大人の決意ではなく、まだ若いがゆえの幼さから出た決意というか。

まだ理解が追いつかないまま言ってしまうからこそ、結果的に相手を縛ってしまう。たとえば、里香ちゃんが事故に遭ったときに「死んじゃダメだ、死んじゃダメだ」と必死に願う場面がありますが、それも同じで。

大人であれば、苦しんでいる友達を見たとき、「助かってほしい」と同時に「苦しんでほしくない」という気持ちも出てくると思うんです。でも乙骨は「死んじゃダメだ」と強く縛ってしまう。真っ直ぐで素敵なんだけど、そこに子どもらしさが表れていて……それが結果的に“呪い”になってしまったんじゃないかなと。

乙骨の愛はたしかに存在しているけれど、そのあり方はすべて幼い。思いやりが足りない(笑)。未成熟なままだからこそ、歪な形になってしまったのだと思います。申し訳ない。

花澤:でも、里香ちゃんにとっては、そこが愛しくて放っておけなかったんですよね。
だからこそ、彼女はずっと乙骨くんを見守り続けたいと思っていたんだと思います。

――そんな里香が「あんまり早くこっちに来ちゃダメだよ」と言葉を残して去る場面は、胸を締めつける別れの瞬間となり、多くのファンの涙を誘いました。

花澤:あれを言える里香ちゃんって、やっぱりすごい子だなと思いました。呪霊のときはあんなに真希ちゃんに嫉妬していたのに(笑)、本心ではずっと彼の幸せを願っていたんですよね。

アフレコ自体は短い時間でしたが、その限られた中に、こうしてインタビューでたくさん話せるほどの濃密な出来事が詰まっていた気がします。

漫画を読んでいるだけでは湧いてこなかった感情が、芝居や監督のディレクションを通じてどんどん広がっていって……本当に貴重な時間を過ごせました。緒方さんとご一緒できたこのタッグは、何より楽しかったです。

緒方:私も同じです。本当にありがたくて、幸せな現場でした。

花澤:だからこそ、こうして作品が復活上映で広がり続けてくれるのは、本当に嬉しいです。時間が経ってもまた多くの人の胸に届いてくれることに、感謝しかありません。

(取材・文・写真:吉野庫之介)

 『劇場版 呪術廻戦 0』復活上映は、10月17日全国公開。

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