元宝塚歌劇団花組トップスターで、退団後はドラマ、映画、舞台、さらにはバラエティーと、さまざまなジャンルで確かな存在感を発揮する真飛聖。1995年に初舞台を踏んでから30年を迎え、退団後初となるライブ『真⾶聖 30th Anniversary Live』を10月20日・21日に開催する。

全4回の公演がSOLD OUTになるなど、注目のライブを目前にした真飛に、今回のライブへの思い、さらに30年の道のりについて話を聞いた。

【写真】凛とした美しさとかわいさあふれる、真飛聖撮りおろしショット

◆「感謝の気持ちを直接伝えたい」――ファンへの思いが初ライブのきっかけに

――芸能生活30周年おめでとうございます。この30年を振り返ると、どんな30年でしたか?

真飛:ありがとうございます。17年間宝塚で舞台を踏み、芸能生活というよりは舞台人として17年歩んできたという感覚なので、“芸能生活”30周年というと、自分の中でちょっとしっくりこない感じも正直あるのですが、芸事に30年関わってきたという意味では、まあまあの期間やってきたんだなと感じていますね。

人生の半分以上芸能に携わってきて、宝塚を退団してからももう14年経つので、もうすぐ宝塚に在団していた月日と同じくらいの時間を芸能界で過ごしていることになるんですよね。あっという間という言葉がしっくりくるのか、ちょっと今分からないんですけど、よく続けてこれたなと思っています。

――そんな中、10月20日・21日と丸の内コットンクラブで、30周年を記念したライブを開催されます。このお話を聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか?

真飛:お話を聞かれたというか、今回のライブは私発信だったんです(笑)。周年にライブをやられる宝塚の先輩が多くて、いろんな方から「やらないの?」って聞かれていたんですね。これまでライブをやったことが1回もなかったですし、「いやいやいや無理でしょう。皆さんとは違いますよ」とお答えしていたのですが、「せっかくだからさぁ…」と言っていただき、「私にもできるのかな?」となり…。

マネージャーもライブをまとめた経験がなかったので、みんなで0からコツコツと準備を始めて。
自分から言ったものの、「本当にやれんのか、真飛!?」と自問自答の日々が続いたのですが、場所も日時も決まりとうとう逃げられない状況になって、腹をくくるしかないとなりました(笑)。

1人だったら無理だけど、みんながいてくれたらなんとか成り立つかもと、お世話になった上級生(安蘭けい、朝澄けい)、相手役(桜乃彩音、蘭乃はな)、下級生(壮一帆)の力を借りて頑張ります。

――退団後初めてのライブとなりますが、ライブを開催してこなかった理由は何かありますか?

真飛:“歌の人”じゃないですし…。退団後もミュージカルをやり続けるとか、毎年決まってちゃんと舞台に立ち続けている人たちと違って、私は舞台出演も2年に1度とかのペースで、最近はストレートプレイも多くて歌っていなかったんですね。なので、自分の中でライブなんてそんなことが自分の身に起こるとは想像もしていなくて。ライブはコツコツと経験を重ねてきた人がやる、敷居の高い場所だったんです。声帯もちょっとしゃべって大騒ぎしたら枯れますし、弱ってるだろうなっていうのもあったし…。

でも、1回もやっていないからこそ、自分自身にとって30年という節目の挑戦にもなりますし、映像のお仕事が多くなってファンの方に会える機会が少なくなってきている中で、皆さんに感謝を伝えるにはぴったりな場なんですよね。皆さんがいてくれたから続けてこられたという感謝を直接伝えられる空間を持たなきゃ!と思いましたし、神様がきっとこの機会にちゃんとしなさいって言ってくれているのかなとも思って。

私にとって舞台は原点で、そこには歌劇団出身ということで“歌”も“劇”もあるんです。自分の中でいろいろなことがこの節目というタイミングで重なったので、「よいしょ!」と重たい腰を上げた感じです。

◆初めてのライブは楽しみながらタイムスリップしてもらう空間に

――まもなく開催となりますが、どんなライブにしたいと考えられていますか?

真飛:ちゃんとやろうとか、上手くやろうとすると余計な力が入って絶対に失敗するので、皆さんに楽しんでもらえて、タイムスリップしてもらえるライブにしたいと考えています。
青春時代に聴いていた曲のイントロを聴くと「はっ!」ってなるじゃないですか。今回も鳥肌が立ったり、劇場の空間や季節などあの時の情景がプレイバックしてきたりすると思うんです。ライブという限られた時間の中でフワフワとそういう思い出の花をいっぱい咲かせてもらいたいなと思っています。

髪の毛も伸びちゃったし、あの頃に比べてまんまるくなっちゃいましたけどそれは置いといて(笑)、「あ!懐かしい」とか、「真飛、こんなふうにキザってたよね」「こんなふうに歌ってたよね~」と懐かしんで楽しんでもらえたらいいんじゃないかと思ってます。

――ファンの皆さんにとっては号泣必至なライブになりそうです。

真飛:コットンクラブって素敵な大人が集まる、お食事やお酒を楽しみながら「おほほほ…」みたいな(笑)、敷居が高いイメージがあるかもしれないですけど、みんなに騒いでほしいと思っているんです。グッズのTシャツをお家から着て来ていただいて気持ちを高めて、ラグジュアリー感に呑み込まれずに思いっきり楽しんでいただきたいです。

宝塚はお行儀がいいのでキャー!とかはないですが、今回は出しちゃってください! シーン…となったら「ここはキャー!って言うところです。もう1回やりますね!」って仕切り直すかもしれません(笑)。黄色い歓声も14年聞いていないので、ぜひよろしくお願いします! ショーを観に行くというよりは、同じ時間をみんなで楽しむ。そんなライブにしたいです。

――歌はもちろん、『ぽかぽか』(フジテレビ系※真飛は金曜レギュラーで出演中)で鍛えられたトークも楽しみです!

真飛:そ・れ・が!(笑) 時間が決まってるので、あんまりできないんですよ。


――安蘭さん、壮さんと“しゃべりの猛者”がゲストで登場されるのに大丈夫ですか?(笑)

真飛:安蘭さんの回は尺をすごく取ってます(笑)。えりたん(壮)とは、トップと2番手として一番長い時間を過ごしているので、お客さんも曲しかり並びしかり、トークしかりすごく楽しみにしてくださっていると思うので、入りきらないかも(笑)。構成の百花(沙里)先生が「もうそこまで!」と鐘を鳴らすとおっしゃっていたので、それを頼りにしたいと思います。

――6月には、所属事務所主催のワタナベ25thコンサート『ハッピーバースデー&サンキュー』にもご出演されました。

真飛:いつも歌っている人たちの中に入って大丈夫かな?と思ったんですけど、お客さんも一緒に口ずさんでくれたりして楽しかったです。動きや舞台に立つ感覚など、意外と体が覚えている感じでしたね。舞台から客席を見る感覚も懐かしいなと思いましたし、今回のライブにも活かせたらなと思っています。

ただ会場の国際フォーラムは大きかったので、今回のコットンクラブとは真逆なんですよね。コットンクラブはアットホームな感じで客席と舞台が近すぎて…。そうした会場の経験がないから昔のように二階席に目線を送る感じになっちゃったらごめんなさい(笑)。

◆『ミッドナイトスワン』のバレエの先生役が転機に

――退団後、ドラマ『相棒』『あなたの番です』『その女、ジルバ』、映画『娼年』『ミッドナイトスワン』とさまざまな作品で印象的な役を演じられ、10人に聞いたら10の真飛さんの代表作が返ってくるような印象があります。ご自身にとって転機となった作品を挙げるとするとどの作品でしょうか?

真飛:間違いなく『ミッドナイトスワン』ですね。
内田(英治)監督との出会いはかなり大きかったなって思います。バレエの先生の役だったのですが、私は3歳からバレエをやってきてバレエの先生をよく知っているし見てきているからこそ、「こうだよね」と形から入っちゃった自分がいました。

でも、内田さんにはそういうのは通用しなくて…。「最初真飛さんの芝居は好きじゃなかった」ともはっきり言われました。その時に、頭でっかちに「バレエの先生たるやこうじゃなきゃいけない」と思っていたけど、それだったら私がやらなくたっていいし、本当のバレエの先生がやればいい。私が演じることになったということは何か違うことを求められているんだと気付きました。

それから何回もリハーサルをさせてもらい、少しずつ役を掴んでいく中で、草なぎ(剛)さんのあのナチュラルなお芝居にもすごく影響を受けて……。丁寧に作業していった時間だったので、鮮明に覚えている作品、撮影現場でした。

――一方、退団されて14年が経ちますが、宝塚への思いはいかがですか?

真飛:宝塚を辞めて、こっち側の芸能界というところに行くことになったときに、やっぱり宝塚って限られた人しか知らないなって思ったんです。“タカラヅカ”という5文字は大体の人が知っているけれど、観たことないよねで終わるパターンが多いというか。チケット取るの大変なんでしょ、観れないんでしょで終わってしまうともったいないなと思ったんですね。素敵な世界だし、同じ方向をキラキラした瞳で見つめ一生懸命にやっている姿ってすごく感動するし、真っすぐな気持ちが飛んでくるから、もっと多くの人に知っていただきたいっていう思いがありました。


なので、映像作品をやるときにも、宝塚に恥じないような姿勢で、「この人、宝塚なんだ。へー、宝塚も観てみようかな」という人が少なからずいればいいなと思いながら向き合っています。実際、私を知って宝塚を観ましたっていう方もいるんです。微力でも、宝塚の何かに貢献できる1人になれたらうれしいし、唯一無二の場所なのでぜひ観ていただきたいと思っています。

宝塚時代は、どう自分を高められるか、自分との戦いの連続でした。真飛聖がどうやったら少しでも男役として極められるかというのをずっとやっていました。そういう時間ってあそこにしかなかったと思うんです。かけがえのない時間であり、二度とあの仲間たちとの絆を超える仲間とは出会わないと思うし、出会えなくていいとも思っているし、出会えなくて当たり前だとも思っている。それほど今でも大事な存在で、宝物。本当に恵まれてたなって思います。

今回のライブには宝塚を観たことがない人もいらっしゃると思うんです。全曲宝塚の曲で構成するので置いて行かれるんじゃないかと不安になるかもしれないですが、「今はこうだけど、昔はこういうことやってたんだ」「へー!面白い」「かっこいい曲だな」とポジティブに楽しんでいただける空間にしたいなと思います。


――初見の方も「EXCITER!!」にはハマること確実だと思います!

真飛:お!うれしい! でも、「EXCITER!!」やるとは限らないですよぉ~(笑)。ないんか~い!ってなったら衝撃ですよね(笑)。

――(笑)。来年には、海外作品でブレンダン・フレイザー主演の映画『レンタル・ファミリー』にご出演するほか、新国立劇場 小劇場にて日本初演の一人舞台『ガールズ&ボーイズ』に挑戦されるなど、まだまだ新しい挑戦が続きますね。

真飛:……困りましたね(笑)。しかも3年ぶりの舞台。まさかそんなお話が私に来るとは…と今でも思っています。でも、台本を読むと、断る理由が見つからなかったんですよね。

新国立劇場の方が「なんで引き受けちゃったんだろう?と怖くなって何回か後悔すると思います。でも一緒に乗り越えましょう!」と言ってくださったので、「よろしくお願いします!」と握手しちゃったりして(笑)。考えてもしょうがない、前向きにやるしかない!と思ってます。起こってもいないことを考えてマイナスに思うよりは、決めちゃったんだったら、とりあえずやりましょうとマインドを変えるしかないですよね。

30周年はライブに挑戦して、31年目に原点の舞台に戻るっていうのは自分の中ではいいタイミングだったと思いますし、まずはライブ、そして一人芝居とひとつひとつ乗り越えていきたいですね。

(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)

 『真⾶聖 30th Anniversary Live』は、丸の内コットンクラブにて10⽉20⽇・21⽇開催。

 一人芝居『ガールズ&ボーイズ』は、東京・新国立劇場 小劇場にて2026年4月上演。

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