日本では特集上映などで限定公開され、幻の名作と噂ばかりが先行した伝説のイタリア製スリラー、『笑む窓のある家』(1976)がついに正式劇場初公開となる。これにあわせ、日本ではビデオで紹介されたプピ・アヴァティ監督のゾンビ映画『ZEDER/死霊の復活祭』(1983)も限定公開される。

こちらは中古のタイプライターを手にした小説家が、死者が蘇る神秘領域“Kゾーン”の謎に迫ってゆくストーリーだ。イタリアの有名な錬金術師カリオストロ伯爵に材を取った「Balsamus l'uomo di Satana(バルサムス、悪魔の男)」(1970・未公開)で監督デビューを飾り、キャリアの初期には民話や伝説に基づく土着性の強い作品を好んで発表していたアヴァティ。彼が紡ぐ奇怪な物語は、教会権力への疑問とミステリアスな錬金術への傾倒が根底にあり、聖職者の秘密と死を超越したオカルト世界を密接に結びつけた作品が多い。作り手が執着する恐怖の源泉をもう少し掘り下げて、イタリアン・ホラーの更なる深淵を覗いてみよう。

【写真】想像を絶する“ラスト4分”が待つ 『笑む窓のある家』狂死した画家が遺したフレスコ画

【異常すぎる執着、イタリアン・ホラーの深淵にあるものとは?】

●『ビヨンド』(1981)ルチオ・フルチ

 『笑む窓のある家』には死の瞬間を絵画に描きとる妄執に憑依された狂える画家が登場するが、同じく冥界に魅せられた画家が恐怖の水先案内人となるのが本作。ニューオリンズのホテルに逗留し、一心不乱に呪われた絵画を仕上げる彼もまた、人々から激しい暴行を受け、壁の奥に半殺しのまま塗り込められる。歳月が流れ、いわくつきのホテルを相続した美女の周囲で無惨な変死が続発。謎の古書「エイボンの書」の予言通り、現世と冥界の境界が崩れて死者が歩き出し、この世の終わりが到来する。

 アヴァティ監督の『ZEDER/死霊の復活祭』も同趣向のテーマを掲げており、イタリアン・ホラーの根底に流れる終末観が興味深い。

●『地獄の門』(1980)ルチオ・フルチ

 『ビヨンド』と並ぶ、流血王ルチオ・フルチ監督の名作。魔女裁判の黒歴史を持つダンウィッチの町で神父が自殺。最悪の冒涜行為により地獄の門が開き、死者たちが甦って彷徨い始めた。
おぞましい光景を遠視した美人霊媒師はショックで絶命するが、太古の予言書「イノック」の記述通りに墓場から甦り、事件記者と共にダンウィッチに向かう。神父ゾンビの眼力に捕らわれた女性が内臓をゲロゲロと口から吐き出したり、頭蓋骨を握り潰されて脳味噌が飛び出る鬼のような流血描写で悪名高い本作だが、聖職者の背信が招く“地獄”を前にした絶望と無力感は、『ZEDER/死霊の復活祭』にも通じる底知れぬ絶対的恐怖である。

●『インフェルノ』(1980)ダリオ・アルジェント

 ドイツの名門バレエ学校に魔女が巣食う『サスペリア』(1977)の続編。実は魔女は三姉妹で、世界に災厄を巻き散らす彼女らのために、ヴァレリなる錬金術師がニューヨークに建てた呪いの館が今回の舞台となる。魔女の秘密を探る鍵を記した古書「三人の母」を巡り、次々と残忍な殺人が展開する。妖力で不死者となったヴァレリのモデルは、恐らく中世の大聖堂に魔術的シンボルを読み解く奇書「大聖堂の秘密」を著した正体不明の錬金術師、フルカネリ。

【イタリアン・ホラー作家たちの微妙で奥深い関係性】

 『ZEDER/死霊の復活祭』でも、死者が甦る“Kゾーン”の背景に錬金術師の存在があり、その謎を追う小説家に扮した主演のガブリエレ・ラヴィアは、『インフェルノ』で魔術を信じないテレビマンを演じた俳優。なんとも微妙な関連性、ちょっとした“錬金術師ユニヴァース”の趣きだ。

 実は「怖い映画が大好き」と告白するプピ・アヴァティ監督。過去に9歳年上の先輩ルチオ・フルチ作品に脚本で携わり、2歳年下のダリオ・アルジェントに密かな対抗心を燃やして、『サスペリアPART2』の主役候補だった俳優のリノ・カポリッキオを『笑む窓のある家』の主演に起用したことも。イタリアン・ホラーの名手たちの不思議な距離感、共鳴関係を眺めると、異常なるその世界がまた一段と味わい深くなるはずだ。

(文・山崎圭司)

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