「SFラブロマンス」と銘打って幕を開けた『ちょっとだけエスパー』』(テレビ朝日系/毎週火曜21時)。テレ朝連ドラ初主演の大泉洋と、これまたテレ朝連ドラ初となる人気脚本家・野木亜紀子(『アンナチュラル』、『海に眠るダイヤモンド』)がタッグを組んだ完全オリジナル作品とあって、抜群の注目度のなか、他の秋ドラマより少し遅れて10月21日にスタートした。

先週放送された第5話終盤には、「ホンモノ来た!」と叫ばずにいられない、登場しただけで説得力抜群の麿赤児(まろあかじ)演じる、新キャラ“白い男”が登場。そしてラスト、物語の色を変えそうな新たな展開が待っていた。

【写真】2人の関係性は――? 兆(岡田将生)は四季(宮崎あおい)と対面

◆1万人を救うことで……。自分たちの使命は正しいのか

 人生詰み状態だったサラリーマンの文太(大泉)は、「ノナマーレ」の兆社長(岡田将生)から渡されたEカプセルを飲み、最終面接に合格。「今日からあなたには、ちょっとだけエスパーになって、世界を救ってもらいます」と告げられ、触れた人の心の声が聞こえる“ちょっとだけエスパー”になる。そして“人を愛してはならない”という不可解なルールのもと、見知らぬ妻・四季(宮崎あおい/「崎」は「たつさき」が正式表記)と社宅で生活。仲間とともに、ミッションをクリアしてきた。

 特別ミッションを行った第5話の終盤では、能力の発現した四季をあわせた「ビットファイブ」こと、文太、円寂(高畑淳子)、桜介(ディーン・フジオカ)、半蔵(宇野翔平)の5人と、「Young3」こと市松(北村匠海)、紫苑(新原泰佑)、九条(向里祐香)の前に、なぞの“白い男”が登場。

 「ジャンクション(分岐点)を戻しに来た」と言って、Young3を指さして空に向け、指をパチンと鳴らし、雪を降らせて消え去った。今もなお人気を誇るSFドラマ『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』(TBS系)へのリスペクトとオマージュを感じて「おお!」と思わず声が漏れる印象的なシーンとなったが、ここでの麿の圧倒的ホンモノ感がとにかくすごかった。画面のこちらにまで、なんらかの影響が及んでくるのではないかとビビッてしまうほどの、半端ない説得力だ。

◆舞踏家・麿赤児の存在感をいかんなく発揮してくれるだろう“白い男”

 俳優、舞踏家、演出家として活躍する麿は、現在、82歳。
1965年に唐十郎の劇団「状況劇場」(紅テント)に参画し、翌年には暗黒舞踏の創始者・土方巽に師事。1972年に舞踏カンパニー、大駱駝艦(だいらくだかん)を旗揚げした。『さよなら渓谷』『おーい、応為』の大森立嗣監督、俳優の大森南朋と、長男、次男ともに活躍しているのも知られたところだ。

 今回、なぞの“白い男”として登場したが、おそらくこれまでにも多くの人が、“舞踏家・麿赤児”の裸体に白塗りのインパクト大ビジュアルを、一度は目にしているだろう。その存在感と実力は映像界でも発揮されており、近年も『牙狼〈GARO〉』(テレビ東京)『ルパンの娘』シリーズ(フジテレビ系)や、映画『翔んで埼玉』、今年、綾瀬はるか主演で放送されたドラマ『ひとりでしにたい』(NHK)などなど、「麿さんでなくては!」と思える役柄が多い。

 『ちょっとだけエスパー』公式サイトでは、第5話放送後に相関図が更新され、麿演じる“白い男”が加わった。しかしバランス的に、白い男の左右に空きスペースが残されている。物語全体に絡む新キャラ投入は、これで終わりではないのかもしれない。

◆世界に必要なのは、結局ヒーローではなく愛?

 「いつかSFを作りたい」と言い続けてきたという野木にとって、念願の初SF連ドラになった『ちょっとだけエスパー』。毎話驚くばかりの展開はさすがとしか言いようがないが、5話まで行きついたことで、情報が増える一方、気になることも出てきた。

 まず第5話ラストで、四季の脳裏によぎる重傷を負った人物が、文太から兆へと切り替わった。兆こそ四季の本当の夫なのだろうか。
さらに、あの事故(爆破?)は過去ではなく、これから起きる出来事であり、それによって死ぬのは夫ならぬ、四季なのではないかという予想が浮かぶ。

 今回、文太は兆から最終目的が「10年後に起きる1万人が死ぬ大惨事を止めること」だと伝えられた。でも、真の目的が四季を救うことだとしたら。1万人の中に四季が含まれているのだろうか。“人を愛してはならない”と掲げるノナマーレの発端には、“エクサバイト”な兆の愛があるのかもしれない。

 さらに文太は、市松に触れた瞬間、「お前のせいで1000万人が死ぬ」という心の声を聞く。1万人を救うことが、1000万人の死につながる? それらの未来をともに回避する、第3の未来はないのか。

 また、ヒーロー(善)とヴィラン(悪)という対立の言葉が出ているが、どちらも自分たちの“正義”を抱えており、視点によって立場そのものが変わってくる。そして“白い男”の正体は。未来の兆なのか。あのホンモノ感からは、あくまで中立にいる“何か”の可能性もある。

 兆に集められたメンバーの中での、文太の異質さも気になる。
円寂の過去が明らかになったことで、円寂、桜介、半蔵は「愛ゆえに」罪を犯した3人だと判明した。しかし文太は、「みんなやってた横領だった」と口にしていた。

 そして、いま、偽りの妻・四季への愛が生まれている。これからどんな方向に展開していくにせよ、文太を通じて、本ドラマのキャッチコピー「世界には、<ヒーロー>が必要だ」ではなく、「世界には、<愛>が必要だ」に着地するのでは。と、言ってみたものの、結局はあれこれと疑問を噴出させただけ。野木さんの創造する世界を予想することなど不可能なのだ。つまりは、このまま手のひらの上で転がされる喜びに浸るしかない。(文:望月ふみ)

 ドラマ『ちょっとだけエスパー』は、テレビ朝日系にて毎週火曜21時放送。

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