アーティスト、タレント、俳優とさまざまな顔を見せるあのが、初の著書『哲学なんていらない哲学』を上梓した。本書は「みんなちがってみんなつらい」など、独自の視点で世界をとらえた1冊だ。

なぜ今、言葉を紡ごうと思ったのか。そして、負のエネルギーをプラスに変換する「あの流」の思考法とは。インタビューで見えてきたのは、「自分のできなさに目を向ける」という逆説的な強さだった。

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■感情は流動的だからこそ「今」書き残す

 音楽、バラエティ、演技とジャンルを超えて活躍するあのが、デビュー5周年の節目に放つ1冊。過去の葛藤から現在地、そして未来への決意までを赤裸々につづる。既存の枠に囚われない自由な表現で構成され、まさに「あの流」が分かる哲学書。何者にも縛られないあのの「現在」が凝縮されている。

 初の著書となる本作。多忙を極める日々の合間を縫ってつづられた言葉たちだが、その執筆動機は戦略的なものではなく、内側から湧き上がる純粋な衝動だったという。自身の心が常に変化し続けるものであると知っているからこそ、その瞬間ごとの感情を捕まえておく必要があった。

 「きっかけというか理由はあまりなくて、書きたいと思って書きました。今まで本を書きたいとちゃんと意識したことがなかったのですが、初めて書きたいと思いました。
きっとその感情がずっと続くものか分からない、この本でも書いているように感情が一定ではなくてどんどん変わっていくものだから、今書いておこうと思ったんです」

 筆を執ることは、自身の思考を整理する作業でもあった。当たり前のこと、あるいは他人から見れば取るに足らないこと。それらをあえて「どうでもよくない」と宣言するために言葉を紡ぐ過程で、あの自身もまた、自分という人間を再発見していく。

 「今まで持っていた考えを記しているつもりだったのですが、やっぱり書いていて、自分はこういう考えなんだなとか、こういう思いなんだなというのが結構整理できたり、気づけたりしました。そういう意味では救われるというか、どんどん整理されて研ぎ澄まされていく感じはありました」

■「哲学なんて」という言葉に込めた逆説的な想い

 『哲学なんていらない哲学』という、一見すると矛盾を含んだ刺激的なタイトル。そこには、難しい言葉や高尚な理論にアレルギーを持つ人々へ向けた、あのなりのメッセージが隠されている。否定的な言葉の裏側にこそ、真実が宿っているという実感があるからだ。

 「『何々なんて』という、ちょっと否定的な言葉を言われることが僕は多いし、僕も言っちゃってる時がある。ぶっちゃけ『哲学なんて、なくても生きていけるでしょ』とか思っていたけど、でもなんかそういう考えで生きている時点で、それが哲学になっているとも言えるんですよね。気づかないうちに哲学のもとに生きているっていう感覚が、自分には合っていたんです。なんかそういうのが僕自身あるから、『哲学なんて』って思ってる人が読んでもらえるタイトルにしたかったし、やっぱりそういう否定をする所にもう既に哲学があると思っているから、こういうタイトルにしました」

 書き上げた今、本音を漏らせば「あまり読んでほしくない」という羞恥心もある。それは、自身の根幹にある「当たり前」をさらけ出したからこその葛藤だ。
しかし、その個人的な「当たり前」が、誰かの視点を変える可能性を秘めていることも理解している。

 「自分にとっては当たり前なことだったり、当然なことをあえて今回は形にした。だから改めてそれを読まれるっていうのはちょっと小恥ずかしいんですよね。けどきっと、誰かの当たり前が僕にとっての当たり前じゃないというのもあるし、だからこそ僕の当たり前がみんなにとっての当たり前じゃなかったりしたら、新たな思考だったり感情がもしそこで生まれる可能性があるとしたら、すごく恥ずかしいけれど、出す意味があるのかなと思っています」

■自分の「できなさ」を武器に変える覚悟

 SNSなどを通じてファンから寄せられる重い相談。それらを受け止め、共鳴することで自身も痛みを感じることがある。しかしあのは、その「負」の感情に呑み込まれることはない。むしろ、そのネガティブなエネルギーを燃料とし、創作や表現へと昇華させる強固なシステムを内面に構築している。

 「僕のなかでは『気が病む』って、決して悪いと思ってなくて、負のエネルギーを変換ができるタイプなので、エネルギーに変えるというか、負を負にしないっていう思考回路なんです」

 世間一般では、自分の長所や「できること」を伸ばそうとするのが定石だろう。だが、あのは違う。自身の欠落やコンプレックスを直視し、それを原動力に変える。あのが放つ圧倒的なエネルギーの源泉は、自らの弱さを「武器」と認める覚悟にあった。

 「やはり復讐心があるから、何でも負の言葉や負のパワーを自分の得にするというか、自分の武器に変えるという覚悟のようなものを持っているんです。
自分には良いところがないなと思うことが多くて、そういうのも原動力になっているかもしれません。良いところがないのなら、これだけ負のパワーをもらうんだったら、それをどうにか活かせないかなというのが、僕のなかにはあったので。できるところに目を向けて伸ばしていこうという思考は多いと思いますが、僕は自分の『できなさ』に逆に目を向けるというか。そうすれば負の感情もエネルギーに変換できるんだと思います」。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 あの『哲学なんていらない哲学』はKADOKAWAより発売中。

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