元宝塚歌劇団雪組トップ娘役で、退団後は、ミュージカル、ストレートプレイとさまざまな作品で名だたる演出家からオファーがやまない咲妃みゆ。2026年は松尾スズキ作・演出のCOCOON PRODUCTION 2026『クワイエットルームにようこそ The Musical』の主演で幕を開ける。

初舞台から15年を迎えた咲妃に、松尾ワールドの魅力や、これまで、そしてこれからの咲妃みゆについて話を聞いた。

【写真】咲妃みゆ、透明感あふれる可憐さ! インタビュー撮りおろしショット

◆念願叶い初挑戦!“松尾スズキワールド”の魅力を熱弁

 『クワイエットルームにようこそ』は、「大人計画」の主宰であり、作家・演出家・俳優としてマルチに活躍する松尾スズキによる小説。精神科病院の閉鎖病棟を舞台に、精神的な問題を抱える人々の絶望から再生までの日々をリアルに描き、第134回芥川賞にノミネートされるなど高い評価を受けたほか、2007年には、松尾が自ら脚本・監督を務めて映画化し、大きな注目を集めた。「いつかミュージカルに!」という思いを胸に、松尾が長い期間構想を温めてきた作品がついにお目見えする。

 松尾作品への出演を熱望してきた咲妃が主人公の明日香を演じるほか、松下優也昆夏美桜井玲香、笠松はる、りょう、秋山菜津子。さらに「大人計画」からは皆川猿時、池津祥子、宍戸美和公、近藤公園と、個性派キャストが集結することも話題を集めている。

――念願の松尾作品出演となります。台本を読まれてみての感想はいかがですか?

咲妃:映画版とは違う構成になると伺っていたので、どんな台本が出来上がるのか楽しみにしていたのですが、原作をしっかりと活かしつつ、ミュージカルならではの構成になっていて見ごたえもあり、お客様に楽しんでいただける舞台になるだろうなと感じました。

――特にどんなところが見どころですか?

咲妃:病棟と明日香の家を行き来したり、妄想の世界に飛んでいったりとシーンが目まぐるしく変化するのですが、それが隙間なく続くんです。スピーディな展開を楽しんでいただけると思います。

ミュージカルということで楽曲も盛りだくさんです。歌詞を読ませていただくと、「おもしろ~い!」って(笑)。
私が近年携わらせていただいたミュージカルの歌詞とはまた違う言葉遊びがふんだんに盛り込まれているので、音楽との融合でさらに面白くなるんじゃないかなと感じました。

また、松尾さんの愛情がたっぷり注がれた登場人物の群像劇のようにも感じていて、誰が主役というよりは、登場する1人1人が物語の中で色鮮やかに個人の輝きを放てる物語になっています。その中で私も明日香としての輝きを放てるように頑張らないと!と思う次第です(笑)。

――松尾作品の魅力はどんなところにあると感じていますか?

咲妃:松尾さんのどの舞台にも共通する部分だと思うのですが、今回の作品も「そんなに細やかな人間模様まで描けてしまうんだ!」と思わせてくれる松尾さんの発想力がとっても魅力的だなと。このセリフを自分が発することができる喜びもありますし、共演させていただくキャストさんが発した時にどういう化学反応が起きるんだろうと想像するとすごく楽しみです。

人それぞれいろいろな生き方がありますが、日常の思いもよらないところにまで手を伸ばしてくださるような台本に私はゾクゾクしました。誰も置いてきぼりにしないのが松尾さんの作品で、私が魅了され続けるポイントの1つなので、今回も皆さんそれぞれの観点でこの作品を楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。

◆演じる明日香とは2つの共通点

――演じられる明日香についての印象はいかがですか?

咲妃:登場してから幕が下りるまで、ずっと彼女の中でせわしなく心が動き続けている印象があります。彼女の生き方そのものが何かに追い立てられているようであることも、台本を読ませていただく中で感じました。

あと、物理的にこれほど長く舞台上にいさせていただくのは初めてなんです。それはすごくありがたいことでもありますが、作品全体において自分が担わせていただく責任が大きいということでもあるので、しっかりと作品を引っ張っていけるように頑張らんといかんなと(笑)。一俳優としてこれほどやりがいを感じる作品に出会えるのは幸せなことだなと意気込んでいます。


――そんな明日香とご自身に共通点はありますか?

咲妃:何かにずっと追い立てられている明日香は、ストレスが蓄積するがあまり精神科病院に行くことになってしまったんですね。あまり外では言いたくないですけど(笑)、私も割と締切に追われるタイプなので、皆様にご迷惑をおかけしないように鋭意努力はしますが、ちょっと近しいところがあるなと(笑)。納得のいくものをお届けしたくて、最後の最後までこだわる気持ちが働いてしまい、いろいろギリギリになるところが共通点だな、すごくわかるなと思います。

ほかにも、私はよく変わっていると言われるんです(笑)。本人としては協調性を持って生きているつもりなので、明日香同様自分の思いと周りの皆さんが抱く印象はちょっと違うのかなと。そんなところも似ているのかもしれません。

――今回魅力的な共演者の皆さんがそろわれました。

咲妃:過去に共演させていただいた方、Wキャストでご一緒させていただいた方、たくさんの方と再共演が叶うのでとてもうれしいです。心強い限りといいますか、私は私のやるべきことを全うすれば大丈夫だ!と勝手に安心させていただいています。

松下優也さんは、『ケイン&アベル』というミュージカルで親子役の間柄だったのですが、今回はまた全然違う関係性で、パートナーとして舞台上でお芝居させていただけるのがとっても楽しみです。力を合わせて一味も二味も変わったカップルを作り上げていけたらなと思います。

昆夏美さんと桜井玲香さんは、それぞれWキャストでご一緒させていただいたことがあって、プライベートでも仲良くさせていただいています。
松尾さんの作品で共演が叶うなんて願ってもみない喜ばしい出来事ですね。

今回の座ぐみは全てのキャストさんがエネルギッシュなので、置いてきぼりをくらわないように一緒に歩んでいきたいなと思います。

特に楽しみなのは、映画でも同じ役を演じられたりょうさんと宍戸美和公さん。映画版とミュージカル版ではまた違ったお芝居が拝見できるのではないかなと今から楽しみです。

◆初舞台から15年 「面白い俳優だな」と思ってもらえる俳優人生を歩みたい

――咲妃さんは今年初舞台から15年を迎えられました。この15年を振り返るとどんな15年でしたか?

咲妃:本当にたくさんの経験が詰まった15年で、どれもが今の自分にとって欠かすことのできないものだったなと感謝が募ります。いつまで舞台に立たせていただけるかわからないですが、これからも経験を重ねていけるものと信じてますし、どんどん進化する俳優であれたらなと思っています。

――今回の松尾スズキさんもそうですが、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん、福田雄一さんと名だたる演出家からのオファーが続きます。

咲妃:こんな有難いご縁が自分に待っているなんて、15年前は想像していなかったですし、そのすべての出会いは決して自分の力だけで得られたものではないと心から思うので、感謝しかありません。いろいろな挑戦をさせていただく中で、「この俳優面白いな」と演出の方々に思っていただけたことが、とてもうれしいです。

福田雄一監督は、舞台『千と千尋の神隠し』をご覧くださったときに、「あ!きっとこの女優さんはコメディいけるな」と思われたそうなんです。その時演じさせていただいた役はコメディ担当ではなかったのですが、どういう方が舞台をご覧くださるかわかりませんし、何をキャッチしてくださるかもわからないものだなと思いました。


――ご自身の中に、コメディは得意!という感覚は…。

咲妃:得意だとは1ミリも思ったことはないのですが、センスは隠し持ってるねと言っていただくことがあります、実は。いろいろな共演者の方が、そういう要素を引き出してくださったおかげで、コメディのセンスを見出してもらえたのかなと思います。

――咲妃さんは、「日本初演」「世界初上演」などの作品にご出演されることが多いように感じます。主催や演出陣からの信頼の表れだと思いますが、初演物に挑まれるときの心境はいかがですか?

咲妃:0から作り上げるというのは、皆さんで団結しないと成し遂げられないことですので、そういう時の結束力が私はとても好きなんです。稽古でトライ&エラーを繰り返しながら、絶対にこの作品を届けるんだという強いエネルギーが満ち溢れている創作現場に身を置けることがすごく好きですし、自分がどういう役割を担えるかなと考えるのも好きなんだと思います。挑戦し続けることは自分の目標の1つですので、これからも率先して未知数の場に挑んでいきたいです。

――2025年はご出演のドラマ『波うららかに、めおと日和』も話題になりましたし、映画『やがて海になる』も公開に。映像作品での経験はご自身にとってどんな糧となっていますか?

咲妃:映像に携われたからこそ、舞台とはまた違う役への向き合い方、アプローチを学ぶ機会があったりと、得難い経験が数多くありました。1シーンを作り上げるうえでどれほど多くの方が関わり、そしてたくさんの方々の思いが集結した映像が視聴者の方に届いていくことには、舞台創作と似た感動があると感じています。

――『めおと日和』は、来年宝塚でも舞台化されますね。

咲妃:そうなんです! びっくりしましたけど、朝美絢さんが主演されるということでぴったりだなと思いましたし、とても楽しみです。


――宝塚では咲妃さんとご縁のある鳳月杏さん、朝美絢さん、永久輝せあさん、暁千星さんがトップスターとして活躍されています。退団後、外からご覧になる宝塚は咲妃さんの目にはどのように映りますか?

咲妃:私が在団していた頃にOGの方が「あの舞台に立っていたことが信じられない!」とおっしゃっているのをよく耳にしていました。当時は「本当にそうなのかな?」と思っていたのですが、自分もいま同じように感じています。とてつもない運動量なんですよ、宝塚って。ほとんどの作品をシングルキャストで務め上げていらっしゃることが、本当にすごいなと思いますし、徹底的に宝塚的美学を追求する信念の強さは唯一無二だと思います。110年以上受け継がれてきた思いがあるので、それを今後も継承していく方々への尊敬が、卒業して年を重ねていくごとに増していっています。

――咲妃さんもその歴史の継承者のお一人ですから。

咲妃:そうだったはずなのですが、ちょっと信じられない。夢の世界にいたのかな?と思うくらいですね。本当にたくさんの財産をいただいた場所であり、これから重ねていく16年目、17年目以降もふるさとあってこその私なので、その感謝の気持ちを持ち続けて、一OGとして歩んでいきたいなと思っています。

――今後、どんな咲妃みゆという俳優の姿を見せていきたいですか?

咲妃:役柄でいうと、母親のような、大切な存在を守る役にチャレンジする機会に恵まれるとうれしいです。『千と千尋の神隠し』で母親役をいただいたのですが、すごく特別な気持ちになったんです。
誰かを見守る、育てる時にはたらく感情への興味がすごくあるので、そういうお役に出会えたらうれしいなと思います。

あとは年齢を重ねていく中で、これまで演じたことのないようなお役で舞台に立つ機会が増えていくといいなと思います。そのためには自分の色を定めすぎないことが大切かなとも思うので、いろいろな挑戦をさせていただく中で、面白い俳優だなと多くの方に思っていただけるような、そういう俳優人生を歩んでいけたらと願っています。

(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)

 COCOON PRODUCTION 2026『クワイエットルームにようこそ The Musical』は、東京・THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)にて2026年1月12日~2月1日、京都・ロームシアター京都 メインホールにて同年2月7日~11日、岡山・岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場にて同年2月22日・23日上演。

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