大泉洋主演、野木亜紀子脚本で話題を集めた連続ドラマ『ちょっとだけエスパー』の最終回が放送され、文太(大泉)たちの決断が描かれた。まったく予想できない展開で、放送のたびにぐいぐいと引き込んでいった本作。

本編で明言されていた通り「パラレルではなく地続きな1本線の」世界だったことで、より強くメッセージが伝わった。

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◆1万と1000万ではなく「1000万人よりたった1人」だった

 当初から、世界を救うにしては、文太たちに与えられるのが、あまりに“ご近所ミッション”連続すぎると感じていた。兆(岡田将生)は「影響範囲を小さくするためです」と言っていたが、どこか腑に落ちなかった。それもそのはず、兆の言う“世界”とは“四季(宮崎あおい・「崎」は正式には「たつさき」)の世界”を指していたのだから。 

 クリスマスマーケットのイベント会場で兆と対峙した文太。34人の命を救おうと決めた文太が言う。「小さな1匹のミツバチが、地球の命運を変えることもあるように、世界が変わる」と。たしかに。34人もの命を救えば、その影響は計り知れない。

 中盤は、四季を含む1万人の命を救うことによって未来が変わり、結果、1000万人が亡くなる世界線になってしまうのだろうと予想した。しかし実際には“1万人を救う”というのは、ミッション遂行の気持ちを焚きつけるための言葉であり、四季ひとりを救えるなら1000万人が犠牲になっても構わないという、さらにはっきりとした対比だった。正直、驚いたが、一層命の重さを考えることに繋がった。


◆今までのタイムスリップものに一石「歴史の改ざんってのは、どこ視点?」

 ディシジョン・ツリーの壊れた最終回は、名言の連続だった。自分はいらない人間だと絶望した円寂(高畑淳子)が、駐車場をまるごと電子レンジ化して結城(吉田鋼太郎)を閉じ込め、心の声を爆発させる。それを文太が、桜介(ディーン・フジオカ)、半蔵(宇野祥平)の手を取り共有させた。「必要とされたかった。誰かに愛されたかった。この世界に愛されたかった。愛したかった、自分を、この世界を」と。円寂の叫ぶ「おかしいわ」から強烈に哀しさが伝わる。

 3人に制止された円寂が「殺し損ねちゃったわ」とつぶやくと、文太が返す「愛し損ねたんです。俺たちみんな、愛し損ねちゃったんですよ」と。身を寄せて泣く彼らに苦しくなりながら、4人と1匹、一緒でよかったと感じた。そして最終回のタイトルが重なった。
「Sì,amore.」=愛してる。

 そこから、市松(北村匠海)、久条(向里祐香)、紫苑(新原泰佑)の危機を知り、解決策を見つけようとかけつけた文太らは、「この時代の兆を捜して殺すのが早いと思う」と言う九条に「兆は必要な人間だ。俺たちにとって大切な人が不幸になる」と伝える。

 ノナマーレのオフィスで、兆から“すべては大切な人を救うため”という彼の目的を聞いた市松。さらにそこで会った四季からは「ごめんね」と言われ、老化状態に陥った際には、介抱してくれた文太が、四季との関係を「仕事だから」と自身に言い聞かせるように口にしていた。そのため、目の前で語られる「俺たちにとって大切な人」というのが四季であり、兆の“大切な人”でもあると、市松は気づいていたようだった。

 そして「分かったフリも限界なんで」と、文太がボードを使って視聴者にも本作の世界を、改めて整理してくれた。歴史の改ざんが新たなジャンクションを生み、未来の兆自身を変える可能性があると伝えたことにより、パラレルワールドではなく、世界が1本線であることを念押しした形となった。そして文太が「死ぬはずだった34人、全員を救う」と提案。「歴史の改ざんってのは、誰視点の、どこ視点?」「今ここにいる俺たちが今を変えて何が悪い?改ざんじゃない、今から歴史を作るんだよ。俺たちが」という言葉に、「おおう! 確かに!」と拍手したくなった。

◆もう社畜ではない文太の心からの声「愛してる」

 1000万人という大きな単位に揺さぶられることもあったが、34人の命を救ったら、未来が大きく動くことは想像にたやすい。
兆の目的はあくまでも「四季を救うこと」。そのために何人が犠牲になっても関係ないと考えてきた。犠牲になるはずだった多くの人を救うことで、四季を取り巻く世界そのものが大きく変わっていく可能性があるとは考えていなかっただろう。さらに文太たちは、この場にフミト(=兆)も呼んだ。

 予定外の状況を前にした兆に、「世界はどんどん変わってる。試してないことは、まだいくらでもあるはずだ!」と叫ぶ文太。そして「変えるんですよ。あなたと我々で」と訴えた。

 だがそこにフミトだけでなく、四季も現れる。自分の未来や、兆の行動の原因が自分だと知り、2人のぶんちゃんと自分をこの世から消すしかないと、追い詰められていた。ノナマーレの社員や、1000万人の命“など”と、四季以外の世界を軽く考えていた兆だが、四季が、文太を消そうとすることは止めた。愛する人に、人殺しなんてしてほしくないのは当然である。


 自暴自棄になった四季を止めたのは文太。文太の愛が止めた。「10年だってかけがえない!」という文太の言葉に深くうなずいた。そして続く「俺の半年は、一生分だった」に涙した。「忘れてしまっても、相手が死んでも、愛は残る」「愛してる。四季を愛してる。四季のいるこの世界を、俺は愛する」。

 直後にパネルが落下。巻き込まれる文太と、円寂、桜介、半蔵。
そこに登場したのは、やはり白い男(麿赤児)だった。

 彼の正体は、2070年の兆。兆の次の京(ケイ)。
「過去を踏まえることはできても、変えることはできない。変えられるのは、今ここにいる者」「彼らに任せよう」と諭す。第5話で「ジャンクションを元に戻す」と言って、市松らを少し先の時間へと飛ばした白い男が、ここではパネルの下敷きになる寸前だった文太ら4人を飛ばした。第5話では雪が、そして今度は桜の花びらが。四季を想い続けるように舞った。

◆「四季とフミトのラブラブ大作戦」でフミトに託された文太の愛

 直後の映像によって、この時代から兆が引き上げたらしいことや、ナノ・レセプターを白い袖が映りこんだ男が回収したこと、ナノ・レセプターを想像させる銀色を背景に、四季とフミトがそれを飲んだらしいことが伝わった。フミトのナノ・レセプターも必要では? と感じることや、その後の四季のひとり暮らしのセッティングなどを考えると、文太らを助けた京、守らなければならなかった大切な人でありながら、自分自身で深く傷つけてしまった四季の姿を前にした兆と、文太らが、なんらかの形で協力したのかもしれない。

 さて、なぜ文太らが「四季とフミトのラブラブ大作戦」を決行したのか。ディシジョン・ツリーが崩壊したなら、四季と文太が結ばれればいいのではないかという疑問もあるだろう。だが個人的に、もっとも残酷だなと感じていたのは、四季が、10年後の自分自身の死の瞬間を自覚したことだった。痛み、寒さ、絶望。死。
そこで終わるのではなく、四季は、その瞬間を思い起こさせられたのである。これほど残酷なことがあるだろうか。

 兆のことは、「四季を救うため」と言いながら、それは兆自身を救おうとする行動なのではと感じていた。1年後に出会い、その1年後に結婚して生活した8年間(ろうそくの8年)。事故の前に強烈な後悔があるならばまた違うが、その8年は幸せなものであったはず。それこそ、まさしく文太の言う「10年だってかけがえない!」である。それが、いまを生きる四季に、最期の瞬間を植え付けることになった。この半年間の記憶を持ちながら、文太や皆とともに生きていくということは、フミトとの未来の思い出もさることながら、四季が自身の死の記憶とともにあるということ。

 今の四季を救うために、文太たち、兆、京ができることは、ナノ・レセプターを飲ませることだったのではないだろうか。そして四季を一生分愛した文太は、“ぶんちゃん”のストラップを通じて、フミトに自分自身の愛も託した。そのためにも、フミトの当日の記憶も消す必要があったのだろう。そして新たに出会った2人だが、ここからどう歩んでいくかは、今の2人次第だ。

◆自分の1日が、誰かのディシジョンを作っているかも

 2026年を迎え、見事「ラブラブ大作戦」を完了させたbitファイブ、マイナスワンの言葉が刺さる。「生きていくことが私たちのミッションね」「僕たちが生き続ければ、未来の形は変わってくる」「それが四季と世界と、俺たちを救う」。

 1日1日を生きることが、自分を、世界を作っていく。生きる、生きていく。太くてまっすぐなメッセージが染み渡ってくる。それが大変なんだと分かってはいるけれど、大切な人を、自分を救うにはそれしかないのだ。もし今たったひとりだったとしても、自分が1日生きたことで、見ず知らずの隣人のディシジョンが新たに生まれているかもしれない。自分は必要ない、苦しいと感じている小さなハチたちの、1人でも2人でもいいから、どうか本作のメッセージが伝わってほしい。そう感じるラストだった。(文・望月ふみ)

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