2025年も残すところあとわずかとなった。今年の日本映画界は、吉田修一の原作を、李相日監督が映画化した『国宝』が、22年ぶりに邦画実写の歴代興収記録を塗り替えるなど大きなトピックがあったが、どんな映画が受け入れられヒットを記録したのか――振り返ってみたい。



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■圧倒的な強さを誇るハイクオリティのアニメ作品

 12月22日時点、2025年の興行収入トップを記録しているのは、『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』だ。2020年に興収407.5億円を記録した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』には、現状及ばないが、公開157日間で、386.1億円を超える文句なしの数字。前作が117分だったのに対して、本作は155分という尺。それでも圧倒的な映像の美しさは、多くのファンを魅了し、何度もリピーターが出ている。第三章まで続く作品としては最高のスタートを切った。

 興収146.6億円を記録し、2023年の『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』以来、シリーズ3作連続で100億円超を達成した『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』。昨年の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の158億円にはやや届かなかったものの、GWの風物詩として広く認知されているシリーズの強さは安定感抜群だ。『鬼滅の刃』同様、最も数字が読める作品だけに、クオリティの高さを維持し続ける製作陣へ頭が下がる思いだ。

 12月21日時点で興収98億円を突破し、大台が間近に迫っているのが、『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』。こちらは上映時間100分というコンパクトな中に、映画らしいダイナミックさと、しっかりとした起承転結が組み込まれ、非常にクオリティの高い作品となった。原作は海外でも大人気。世界的な展開にも期待ができる映画であり、こちらの人気シリーズとして今後、興収ランキングの常連となるだろう。


 その他、毎年恒例となった映画『ドラえもん』、『映画クレヨンしんちゃん』も安定した数字を残している。『映画ドラえもんのび太の絵世界物語』は、45億円を突破し、前作超え。内容的にも子供はもちろん、大人も楽しめるサスペンス的な要素もありつつ、難解ではないストーリーラインは、より間口を広げている印象。『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』も、ミュージカルチックな展開は、新たな『クレヨンしんちゃん』を思わせる内容だが、夏映画らしい仕上がりで、興収も23億円を突破するなど強さを見せている。

 12月5日に公開されたディズニーアニメーション『ズートピア2』は、公開3週目にして興収60億円を突破とロケットスタートを切った。前作も公開後、可愛らしいキャラクターはもちろん、骨太なストーリーで老若男女楽しめる映画として大きな反響だったが、76.3億円という数字だった。本作は約9年と間隔は空いたが、その分多くの人に知れ渡り、100億円は通過点といえるような勢いだ。最近不調だったディズニーアニメーションだが『ズートピア2』で大爆発しそうな予感だ。

■22年ぶり歴代邦画実写興収記録を塗り替えた『国宝』

 今年の映画界の最大のトピックスは映画『国宝』の大ヒットだ。6月6日に公開された本作。吉田修一の歌舞伎を題材にした原作を、『悪人』『怒り』などの李相日監督が映画化。主演に吉沢亮、共演に横浜流星を配し、1年以上もかけて歌舞伎の稽古に取り組んだことも話題になった。
公開前は175分という長尺、歌舞伎という題材ということで、正直大きなヒットは厳しいという見方も多かった。実際、公開週の興行通信社のランキングでは、『リロ&スティッチ』、『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』に次ぐ3位スタートで、オープニング3日間の興収は3億4600万円だった。

 この数字だと、着地点は20億程度だとみられていたが、2週目に前週を超える興収4億5100万円を記録すると、3週目にはさらに数字を伸ばし5億1500万円となりついにトップ。そこからは口コミによる評価が螺旋階段を上るように日本中に広がり、あれよあれよという間に社会現象になっていった。約3時間という長さながら、リピーターも多数現れ、ついには2003年に公開された『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の173.5億円を超え、邦画実写映画歴代興収1位に輝いた。

 邦画の実写映画でもう一作、注目すべき映画は、KOTAKE CREATE(コタケクリエイト)が開発したゲームソフトを実写映画化した『8番出口』。監督は、『君の名は。』などをプロデュースした川村元気。二宮和也を主演に起用し、ストーリー性のないなか、ただひたすら繰り返される動きだけで物語を成立させ、これまで味わったことのないような映画体験を観客に与えた。観た人により賛否が非常に分かれているが、興収は50億円を突破。新宿の地下街には、「8番出口」とコラボした「東京メトロ脱出ゲーム」が開催され、黄色の「8番出口」のバッグを持った人が多数歩いている姿が見受けられるほど。
こちらもある意味で社会現象になった作品だ。

 その他、劇場版第2弾となる『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』も、2023年公開の、『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』の45.3億円を超える52.6億円を記録するなど、大ヒットを記録していた。

■苦戦を強いられる洋画作品

 2025年の洋画実写映画のトップは、5月に公開されたトム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』が、洋画実写映画としては唯一50億円を突破し、全体では5位につけている。前作の『ミッションイン:ポッシブル/デッドレコニング PARTONE』が54.2億円だったので、ほぼ同等の数字だったものの、微減だった。8月に公開された人気シリーズ『ジュラシック・ワールド 復活の大地』は、50億一歩手前で、こちらも60億円を超えた前作から数字を落としてしまった。

 その他、『マインクラフト/ザ・ムービー』、『リロ&スティッチ』が30億円を突破したが、『キャプテン・アメリカ: ブレイブ・ニュー・ワールド』、『サンダーボルツ*』、『スーパーマン』、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』など、マーベル、DC作品は軒並み10億円前後で収束。また、ワーナー ブラザース ジャパンが、2025年12月31日をもって日本での劇場配給業務を終了すると発表するなど、洋画にはかなり厳しい結果となっている。12月19日公開の『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』がどこまで数字を伸ばせるのか、注目していきたい。

 今年は『鬼滅の刃』、『国宝』のようなメガヒット作が劇場を盛り上げ、まだ数字は出ていないが、全体の動員数的には数字を伸ばしている可能性がある。一方、公開作品が増え、優勝劣敗も顕著になっている。初速が悪ければ、2週で打ち切りになる映画も増えている。そんななか、やはり映画にとって大切なのは口コミの力だろう。


 『国宝』はもちろん、若い世代の間で口コミが広まり火をつけ興収25億円を超えた『366日』、現在公開中で30億円の大台に迫っている『爆弾』など、「良い映画」は公開後に数字を伸ばしていく傾向が見て取れる。良質の映画が、その評価通りの成績を残すことを期待しながら、2026年も映画を観続けていきたい。

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