ドビュッシーの名曲「月の光」の美しい旋律が、止まっていた時間を再び動かしていく——。フジテレビが12月24日のクリスマスイブの夜に贈るのは、第36回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞した新鋭・石田真裕子によるオリジナルドラマ『ドビュッシーが弾けるまで』。
【写真】國村隼&尾崎匠海、インタビュー撮りおろしショット
◆初挑戦の「ピアノ演奏」にプレッシャーも「楽しくなってきました」(國村)
世代も性格も異なるふたりの男が、音楽という共通言語を得て、それぞれの喪失や後悔と向き合いながら未来への一歩を踏み出していく――。『波うららかに、めおと日和』や『監察医 朝顔』シリーズなど、心に寄り添う作品を生み出してきたベテラン・平野眞が演出を手がける、聖夜に送る意欲作だ。
國村が演じる渡会喜一郎は、商店街で時計店を営む70歳の職人。頑固で、感情表現が下手。でも誠実で、純粋だ。3年前に最愛の妻を亡くし、孤独と後悔の中で時間を止めたまま生きている。
「僕自身、こんな仕事している人間のくせにコミュニケーションが下手だったんです」。國村は笑いながらそう話す。プライベートでは人と話すのが得意ではないかもしれない――そう語る言葉には、職人気質の喜一郎への共感が滲んでいた。
一方、尾崎が演じる佐々木匠は28歳のレストランのウェイター。天性の才能をもつピアノの腕前はプロ級だが、とある出来事をきっかけに音大進学を断念し、夢に蓋をしたまま過ごしている。
「めちゃくちゃ前に出るタイプではない気がして」と尾崎は話す。「年齢的にも佐々木匠は28歳で、僕は今26歳なんですが、この年齢だからこそ共感できる部分はたくさんありました」。夢と現実の狭間で揺れる20代後半――だからこそ理解できる感情がある。
本作を語る上で欠かせないのが、ピアノという存在だ。喜一郎と匠をつなぐのは、ドビュッシーの「月の光」。劇中、70歳にして初めてピアノに挑戦する喜一郎の姿は、まさに國村自身の挑戦そのものでもある。
「初めて鍵盤というものを触りました」。國村が練習を始めたのは、撮影の約1ヵ月前、10月末のことだった。手を目の前で広げた國村は、尾崎の手と並べ、こう笑う。「僕の場合、ピアノを弾くには彼(尾崎)に比べて身体的な条件が不利でもありますし(笑)。オクターブなんて言われても、僕の指じゃ届きませんよ。それでもやっているうちに、それが音楽の力なんでしょうか、結構楽しくなってきました」と、その表情は明るい。
バイエルの上巻から始めた練習は、今ではすべてマスター。目指すは「月の光」だ。「今、キーボードをお借りしているんですけどね。楽しくなってきてしまったから、これ、買おうかなって思っているぐらいなんです」。――そう語る國村の中に、音楽への愛着が静かに育っている。
一方、INIのメンバーである尾崎も、ピアノに関しては「初めてに近かった」という。「台本を読んだら、正直、とても良くて。しかもプラスでピアノが必要になる。音程を取る練習として、ピアノってめちゃくちゃ良いので、僕にとってはいいこと尽くしの挑戦なんです」。そう前向きに捉えつつも、「匠の場合はすごく上手な人という役柄ですから」と、プレッシャーも隠さない。練習時間を確保するため、夜の時間を使って取り組む日々だという。
◆「本当にストレートで素直」――尾崎の姿勢を称賛
実は二人は、取材のわずか数時間前に初めて顔を合わせたばかり。
ホン読みを終えたばかりという尾崎が「國村さんは引き出しがすごいので、全部吸収するつもりで本番に挑めたらなと思ってます」と先輩俳優への思いを語れば、一方の國村は尾崎について「こうしてやろう、ああしてやろう、という思惑だらけのお芝居とは全く真逆で、本当にストレートで素直」と評価。役者にとって「素直さ」は重要な要素かという問いには、こんな説明をする。
「自分が今どこにいるのか、自分の現在地を知ることから始めることが、たぶん僕らの仕事には一番大事で。素直なところから台本に入っていって、キャラクターをイメージする。ノウハウなんて要らないんです。この仕事、自分がどうしたいかやし、自分がどう感じるかやから」。
妻の死、喪失、後悔、夢を諦めることで止まってしまった時間――。作品が扱うのは決して軽くないテーマだが、そこに絶望はない。音楽という光が、ゆっくりと、けれどたしかに、ふたりの人生を照らしていく。
ところで、本作では、心をほぐし、時計を進めてくれる存在が音楽だが、それぞれに行き詰まった時、心をほぐしてくれる存在は?と問うと、尾崎はこう答える。
「僕はグループに入る前、自分の意見などをあまり言えないところがあったんです。でも、昔スタッフさんに悔しいことを言われたとき、それが逆に自分の中では『やってやるぞ』という燃料になって。悔しい思いや落ち込むことも、とらえ方次第で、前に進める推進力になるとそこで気づけたのは良い経験でした」。
悔しさをバネに変える。否定的な言葉をエネルギーに変える――若さゆえの、まっすぐな強さがそこにはあった。
一方、國村の答えは対照的だ。
「僕の場合、能天気になることですかね。いろんなことを思い悩んで考え込んでしまうと、行き詰まってくるけど、なんで行き詰まっているのやろうと考えると、いらんこと考えているからや、と。そうすると、しばらく能天気で生きてみようとなるんです。たぶんもともとズボラな性格なんですね(笑)。この年齢まで生きてきて、こういうところは昔からあまり変わらんなと思います。そういういい加減なことが救いになっているのかもしれないな」。
また、聖夜に描かれるこの物語が持つ意味について、國村はこう話す。
「匠も喜一郎も時間が止まっている。しかも僕の役、時計屋なんですよ(笑)。人と人の思いやつながりには、時間というファクターを超えて、止まっていたものが動き出すような力があると思います。放送がクリスマスイブなんですけど、聖夜のイメージにふさわしく、亡くなった人への思いを馳せてみたり、止まっていた人同士の関係がいい形で動き出したりする作品になるんじゃないかな。それに、今の時代、すっきりしない思いや、社会的な閉塞感みたいなものを感じている方が多いと思うんです。そういう方々が、時間が止まった人間たちが音楽でつながり、音楽でほぐされ、時計の針を再び進め始めるこの物語を観て、ある種の希望を感じてもらえればと思います」。
尾崎もまた、現代の閉塞感について語った。
「今の時代、SNSで自分が好きなものだけを観られるようになっていって、どうしても視野や考えが狭くなっちゃっている気がしていて。でも、音楽の力や、世代の違う人同士の交流が描かれているこの作品は、自分の世界を広げてくれるきっかけになるんじゃないかと思います」。
何かを始めるのに、遅すぎることはない。70歳の喜一郎が初めてピアノに触れるように、28歳の匠が再び夢に向かって歩き出すように。
スペシャルドラマ『ドビュッシーが弾けるまで』は、フジテレビ系にて12月24日22時放送。

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