宝塚歌劇団雪組トップスターとして一時代を築き、退団後はさまざまな舞台作品でその輝きと存在感を発揮し続ける麻実れい。今年初舞台から55年を迎えた彼女が「不思議の国のアリス」のモデルとなった女性を演じる、舞台『ピーターとアリス』が2026年2月に上演される。
【写真】オーラあふれる麗しさ! 麻実れい、インタビュー撮りおろしショット
◆「不思議の国のアリス」のモデルとなったアリスは「強い女性」
世界中で愛される名作「ピーター・パン」と「不思議の国のアリス」、そのモデルとなった2人が数十年後に出会い、現実と幻想を交錯させながらそれぞれの辿った人生を語り始める。そこへ“ピーター・パン”と“不思議の国のアリス”が現れ、過去と幻想が複雑に交錯してゆく。大人になった2人が辿り着く、人生の終幕とは――。
麻実が80歳になったアリスを演じるほか、ピーター役で佐藤寛太、“不思議の国のアリス”役で古川琴音、“ピーター・パン”役で青木柚と個性と実力を兼ね備えたキャストが顔をそろえる本作。麻実とは『おそるべき親たち』『インヘリタンス-継承-』とさまざまな名作を生み出してきた熊林弘高が演出を務める。
――ディズニー映画の印象が強く、『ピーター・パン』と『不思議の国のアリス』のモデルとなった人物がこんな人生を歩んでいたとは驚きでした。オファーを聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか?
麻実:どんなお話なのだろうと思って、いろいろと調べました。「ピーター・パンと不思議の国のアリスねぇ…」とも思ったのですが、ドラマが80歳の老齢の女性から始まっているので、それだったら年齢的にも彼女を演じられる気がしてお受けしました。
台本を読んでみると、舞台空間がファンタジックな世界なのですが、そこで繰り広げられることは非常にリアル。辛いに“超”がつくようなお話かもしれませんが、この世界に飛び込める喜びを感じながら、丁寧に作っていきたいと思っています。
――『不思議の国のアリス』にはどんな印象をお持ちですか?
麻実:少女時代は漫画の「りぼん」や「なかよし」ばかりをよく読んでいて、小説的なご本は読んでこなかったんですよね。
――アリスは、自分をモデルとした「不思議の国のアリス」が大ヒットしたことで、葛藤を抱え、光と影でいうと、自分のほうが影のように感じてしまうようなこともあったのかなと想像します。
麻実:作品中でも2人のアリスが衝突しちゃうんですよね。でも、アリスおばあちゃんは強いんです。いろんなことをかいくぐって生きてきて、ある程度の計算もできるような、男勝りとまではいきませんけど強い人だなと思います。
――『不思議の国のアリス』の作者ルイス・キャロル、『ピーター・パン』の作者ジェームズ・バリー。台本を拝見すると、作品のモデルとなった子どもたちに向けるそれぞれの接し方には、どこか性癖的な匂いが感じられて、そこも衝撃でした。
麻実:特に女の子はおませさんですから、もしかしたら、よくないことが起こるかもしれないって想像はつきますよね。
私自身もちょうどアリスの年のころに、近所の神田明神でカメラマンに追いかけられて写真を撮られることが嫌だと思ったことがありました。大人が集まってきて一生懸命に写真を撮って、それが写真展で入賞しちゃったり…。おかげ様で写真が大嫌いなんです、私。小学校の中高学年からの写真が全然ないの。宝塚に入ってからは撮られるようにはなったんですけど、トラウマとして残っているんですよね。質が違うけどアリスにもそういうものがあったかもしれないですよね。
◆最後のアリスの長台詞は「私の人生の支えになりそう」
――アリスは、『不思議の国のアリス』が有名になって、周囲から期待の目で見られることに対して葛藤したのではないかと思います。麻実さんご自身は、周囲から期待される自分と、本当の自分との違いに悩まれたことはありますか?
麻実:それはないですね。おかげさまで考える余裕もなくずっと走り続けて、気が付いたら55年間。1日も休演もせずに頑張ってきました。
でもアリスが大人になるように、私自身も、芸能というものにフィニッシュを打たなければいけない年頃になっています。今回80歳のアリスを演じさせていただきますが、最後に1人で演じる長台詞があるんですね。それが私の人間としての支えになるような気がしています。ずっとは続けてられないですよね。こういう職業だから、いい時をお客様にお見せしなくちゃいけない。もし舞台を下りることになったら、今までなかった自分の時間をゆっくりととりたいですね。そして静かに年を重ねていきたいです。今の自分の居場所にしがみつくという思いもないですし。
――麻実さんが演じるアリスと対をなす、“不思議の国のアリス”を演じる古川琴音さんの印象はいかがですか?
麻実:とってもかわいくて。非常に繊細なお嬢さんですよね。頭がいいし、華やかだし、そういう意味では、逆に私が引っ張ってもらえるんじゃないか、そんな気がしています。
ピーターを演じる佐藤寛太さんとは、劇中同様年の差がすごいんですよね。
――麻実さんは、熊林さんの作品には欠かせない存在です。麻実さんから見た、熊林さんはどんな方ですか?
麻実:もう何十年も一緒の仲間ですからね。普通のイメージからかなり飛んでっちゃうところがある方なので、あまり飛びすぎたら(ドスを効かせた声で)「ちょっと!」って言うこともあるんです(笑)。
私にとっては弟のような友人のような存在ですね。彼の普段の生き方が面白いんですよ。こんな無欲な男がいるかなっていうくらい、希少な存在だなと思うんですね。自分の思うことを大切にする、生活を大事にする、物を粗末にしない、そんなまっすぐな人間ですから、私に何かできることがあるのであれば参加したいなといつも思っています。
『おそるべき親たち』では大きな賞をいただきましたけど、あのころは(佐藤)オリエさんに(中嶋)しゅうさん、そして麻実でしょう。熊林さんを囲んで「そうじゃない!」ってダメ出ししたこともありますし(笑)、悩んでいそうな時には、「熊ちゃん、こういうふうにしてもいいかもね。やってみようか?」って言ったりもしました。ちょっとでも支えられたらなっていう思いがベースにあるので、やっぱり弟のような存在ですね。
◆初舞台から55年「幸せとしか言いようがない」
――今年、麻実さんは初舞台から55年を迎えられました。振り返ってみると、どんな55年でしたか?
麻実:幸せとしか言いようがないですよね。とにかく作品に恵まれ、演出家に恵まれ、スタッフに恵まれ、お客様に恵まれ、それに尽きますね。こんな幸せな人はいないんじゃないかしらって思います。
私らしく、いただいた役をとにかく楽しんで苦しんで頑張ってきたっていう感じかな。人それぞれかもしれないですけど、苦しみが苦しくないんですよ、私。いやらしいでしょう(笑)。苦しいと「ちくしょう!」と思って頑張っちゃうほうなんです。
――55年の中でターニングポイントを挙げるとすると、どんなことになりますか?
麻実:全ての出会いがターニングポイントですね。宝塚を卒業して、英国の演出家と組んだ『マクベス』から始まり、その時のお相手が江守(徹)さん。その後に(中村)吉右衛門さんとも『マクベス』をご一緒させていただきました。とにかくすべてがすごい作品ばかりで、大きな方たちと組ませていただいて勉強もさせていただいて。
――この55年間、一度も休演がないというのは、驚きました。
麻実:すごいでしょう? 私すごいんです(笑)。でも、なんにも気をつけたりしていないの。きっと、神様が守ってくれているんじゃないかな。家族、お客様、そして神田明神さんも守ってくれているんでしょうね。
――今年は、関西万博の会場で開催された『未来へのOne Step! ~世界を結ぶ愛の歌声~』にもご出演されました。宝塚OGが集った公演へ久しぶりの参加となりましたが、いかがでしたか?
麻実:私は1970年に大阪万博での公演で初舞台を踏んで、2005年には愛・地球博でも世界的なバレリーナの方とご一緒させていただいたんです。それで今回の関西万博。全部に参加できているって幸せなことですよね。
まだ開幕してすぐの時期だったので、きれいなできたてのホールで宝塚のOGたちと宝塚の歌や踊りを披露させていただいて。私は司会をさせていただいたのですが、下級生たちが本当に頑張ってくれました。宝塚の生徒は強いし、根性があるし、宝塚って本当にすごいなって改めて思いましたね。お客様が大喜びしてくださったのもうれしかったですし、とてもいい思い出になりました。
(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)
舞台『ピーターとアリス』は、東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて2026年2月9日~2月23日、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて同年2月28日~3月2日上演。

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