終末後の世界を描いた大人気ゲームを実写化した大ヒットドラマシリーズ『フォールアウト』のシーズン2(全8話)が、17日から毎週水曜日に1話ずつPrime Videoで配信されている。本作の舞台となるのは核戦争が起きてから200年後。

鬼才クリストファー・ノーランの弟であるジョナサン・ノーランが製作総指揮を務め、シーズン2は早くも米批評サイト「Rotten Tomatoes」で批評家95%、オーディエンス96%と高評価を受けている。今回クランクイン!は、来日した主人公ルーシー役のエラ・パーネルと、ルーシーの父ハンク役のカイル・マクラクランにインタビュー。衝撃のシーズン1のフィナーレを振り返りながら、シーズン2の魅力を聞いた。 ※シーズン1の最終話に触れています。ネタバレにご注意ください。

【写真】本当の親子みたい! 仲良しすぎるエラ・パーネル&カイル・マクラクラン

■襲撃のシーズン1最終話を振り返る

 Vault 33という贅沢な核シェルター育ちのルーシーは、Vault32の男性と結婚を控えていたが、実は地上に住む荒くれ者のレイダーがVault32の人々のふりをしており、Vault 33は襲撃を受ける。さらに、ルーシーの父でVault 33の監督官であるハンクが誘拐され、ルーシーは父親探しの旅へ。そこに待ち受けていたのは衝撃に満ちた世界、ウェイストランドだった。シーズン1では、複雑かつ奇妙で、非常に暴力的な世界で物語が繰り広げられた。

 序盤にハンクが連れ去られてしまったため、シーズン1のエラとカイルの共演シーンは、第1話と最終話の第8話のみだった。第1話は撮影の最初の週に、第8話は最後の週に撮られたそうで、ルーシーとハンクは、現実世界でも久しぶりの再会を果たしていたという。

 エラは「このシーンの撮影をすごく覚えています」と回顧。
「長い間カイルに会っていない中で、セットに入ったら彼がいて、しかも体中にあざがある状態で檻に閉じ込められていて…。かなり痛めつけられていたので、とても悲しかったです。本当に胸に来るものがありました」と話す。

 そんな最終話で明かされたのは、ハンクがVault-Tecの人間だったということ。Vault-Tecは、表向きは核シェルターのVaultを建設する企業だったが、実は自社の利益のために200年前の核戦争を引き起こした黒幕だった。その後、地上に文明が戻り、シェイディ・サンズで新カリフォルニア共和国が誕生するも、利益にならないためVault-Tecがまたもや核爆弾を投下。そこにはVault-Tecの計画に気付き、ハンクから逃げたルーシーの母も住んでいた。

 第1話の良き父親から一転し、ヴィランとなったハンク。カイルは「すごく複雑なキャラクターです。彼はシーズン1で殺されませんでした。だからこそ、これまでずっと抱えていたものを追い求める自由と力をようやく手に入れたんだと思います。それは復讐のチャンスかもしれませんし、もしかすると、ハンクが愛する人たちの信頼を取り戻す機会かもしれないですね」と語る。


 一方でルーシーは箱入り娘から驚きの成長を遂げた。エラは、ルーシーが父親との関係に折り合いをつけることがシーズン2の大きなテーマだと言い、「自分を育て、善悪を教えてくれた父親としてのハンクと、考えられないほどの悪事を働いたハンク――。そんな2つの姿にどう折り合いをつけていくのかが大きなテーマになっていると思います。ルーシーは、なぜハンクがそんなことをしたのかを理解したいんです。“答えが欲しい”ということがこの旅の原動力になっていきます」と話す。

 ルーシーとハンクの関係性は物語が進むにつれて複雑化していくが、エラとカイルは取材中にお互いの話に笑い出すほど仲良し。撮影中のエピソードも、とても楽しそうに振り返ってくれた。

■「「笑えないくらいトイレが遠かった(笑)」

 ゲームの世界を忠実に再現すべく、複数の大陸でロケが実施された本作。ニューヨークのスタジオに設けられた冷たいVaultのセットから、息をのむようなナミビアの海岸線まで、ロケーションは多岐にわたる。

 そんな中でエラが苦労したというのが「トイレ問題」。「笑えないくらいトイレが遠かったんです(笑)。砂漠用のゴルフバギーみたいな乗り物に10分くらい乗らないとたどり着かなくて。
もう完全にちょっとした旅なんですよね。最終的には、撮影中に水をたくさん飲むのはやめておこうとなってしまいました」と笑う。

 また、カイルもパワーアーマーを着用しての撮影に一苦労。「パワーアーマーは上半身と下半身に分かれていて、全身のカットはわたしではなく、体力がある屈強なスタント・パフォーマーが撮影しています。わたしが映るカットになると、上から少し角度を着けて撮っているのが分かると思います。わたしは上半身だけ着用していました」

 「ストラップやボルトで固定するので、指一本入る隙間もありません。でも腕だけは動かせます。でも肩より上には上がらないんです。すごく重くて、背中のあたりに負荷がかかるので、猫背のような姿勢になってしまいます。数時間もすると、イスに座らずにはいられなくなるので、すごく背の高い専用のイスを作っていただいていました」

 すると「パワーアーマーの胸元に段になっているところがあって、カイルがそこにコーヒーを置いていたんです」とエラが笑いながら暴露。「コーヒーはストローがあるから一人で飲めるんですけど、食べ物は食べられないから、サンドイッチは人に食べさせてもらいました(笑)」とカイルは照れたように笑う。

 これだけ撮影が大変だったのは、制作チームが“本物”にこだわっていたから。
「VFXを用いる前に、可能な限り実物を使ってロケ地で撮影したい」とジョナサンが語っていたように、本作の撮影ではセットや衣装、小物に至るまで細部にまでこだわりが光っている。

 ルーシーたちを襲うクリーチャーたちも同様で、ヤオ・グアイは頭に発泡ゴムをかぶったスタントマンが演じており、ガルパーは実物大のパペットを用いて撮影され、その後VFXが重ねられた。

 こうした撮影方法は、視線の位置を調整できたりと俳優たちの芝居の手助けになる。クリーチャーデザインが魅力のデヴィッド・リンチ版『デューン/砂の惑星』に出演していたカイルは、実物があると演技のスケールを合わせられるので「すごく助けになる」と称賛。

 「『ミステリアス・アイランド』という作品に出て、あまり出来は良くなかったのですが(笑)、その作品は怪物たちがすべてCGで描かれていました。見えないものに対して芝居をしなければいけない時、俳優たちは自分は何を見ているかを想像しながら、感情やリアクションを調整しなければいけません。すると自分の芝居がオーバーなのか、足りていないのか常に疑問が生まれるんです。必ずしも、監督やVFX担当の人が説明する通りに作品ができるとは限らないからです」

 「『デューン/砂の惑星』のサンドワームとの撮影では、実際に反応できるものが用意されていました。正直あの時は抑えすぎてしまって、『もっとできたな』と今でも思いますが(笑)」

 俳優と制作陣が連携し、妥協のしない撮影方法をかなえたからこそ、ファンを満足させるのみならず、ゲームをしたことがない人をも引き込むクオリティーとなった『フォールアウト』シリーズ。その人気の理由をエラはこう分析する。

 「レトロフューチャーなゲームのトーンが本当に好きで、この雰囲気が人々を魅了したんだと思います。あと1950年代っぽい美学や、笑いどころがありつつも、胸に来る瞬間もあるところも魅力ですよね。
でも成功のレシピなんて存在しないと思うんです。もしあったとしたら、みんなが傑作ばかりを作れているはずだからです。『フォールアウト』は奇跡的にいろんな要素がハマった作品であると同時に、もともとゲームがやろうとしていたことをきちんと受け継いで形にしています。その結果が、人気につながっているんだと思います」(取材・文:阿部桜子)

 ドラマシリーズ『フォールアウト』は、毎週水曜日に1話ずつPrime Videoで配信(全8話)。

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