今から46年前の1980年に全世界を震撼させた世紀の問題作『カリギュラ』(1979)が、装いも新たに劇場に凱旋中だ。奇しくも『カリギュラ』が封切られた1980年前後は、ハリウッドに若手の天才監督たちが台頭。
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※以下、製作費は諸説あり。日本円換算は1ドル=約263円の“カリギュラ”レートで計算。
■『カリギュラ』(1979)
古代ローマ帝国の若き皇帝として神と同等の権力を握り、放蕩の快楽に酔い、血みどろの蛮行に狂った男の没落を描く本作は、アメリカの成人雑誌「ペントハウス」誌の社長、ボブ・グッチョーネが製作を指揮。『スター・ウォーズ』(1977)を凌ぐ1750万ドル(46億円)を投じた豪華絢爛な歴史大作として製作されながら、製作者グッチョーネが独断で過激な性描写を追加。破廉恥なハードコアポルノと批判を浴びた。
今回上映されている「究極版」は露骨な性描写を削除、権力の腐敗を風刺したオリジナル脚本に沿って再編集された新バージョン。だが、「映画史の汚点」と叩かれた旧バージョンも公開国の倫理に応じて改変され、道徳観の踏み絵となったのは文化の裏側を覗く点で意味があった。
■『地獄の黙示録』(1979)
予算超過と泥沼現場の常習犯、名匠フランシス・フォード・コッポラの戦争巨編。元々は『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカス監督が温めていた企画で、1902年に出版されたジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」をベトナム戦争下に翻訳したもの。1978年公開の『ディア・ハンター』がアカデミー賞作品賞に輝き、アメリカ映画界は泥沼化したベトナム戦争の意義を問う時期にあった。ベトナムの奥地に独立王国を築いた狂気の米軍大佐と、彼を討つ密命を帯びた主人公が死臭漂う地獄巡りに臨む本作はその総決算になる―。誰もがそう期待した。
しかし、主役の交代や大物俳優とのトラブル、予期せぬ悪天候やコッポラの完璧主義により撮影は大幅に遅延。製作費は当初の1200万ドルから『カリギュラ』の1.8倍に当たる3150万ドル(約83億円)に膨れ上がった。1979年のカンヌ国際映画祭には未完のまま出品され、『ブリキの太鼓』(1979)とパルムドールをダブル受賞。ブーイングを浴びた。とはいえ、映画の前半部分はヘリコプター部隊の急襲を筆頭に、五感を圧倒する凄まじい映像スペクタクルが展開。狂える大佐と対峙する後半は、魂の奥底に迫るかの如き濃密な血の匂いが漂う。
「これはベトナム戦争を描く映画じゃない。
■『1941』(1979)
『ジョーズ』(1975)『未知との遭遇』(1977)で一躍ハリウッドの寵児となった天才スティーヴン・スピルバーグ、初めての失敗作。こちらの製作費は『カリギュラ』の倍額に当たる3500万ドル(約92億円)。1941年の年末、ロサンゼルス沖に突如、日本軍の潜水艦が出現。官民あげての大騒動が始まる。コッポラと同じ戦争の狂気をドタバタ喜劇に落とし込み、ハリウッド攻撃を企む日本軍に“創造の天国と破壊の地獄”の対立を重ねる。
『ジョーズ』のセルフパロディで幕を開ける滑り出しは上々だが、無数の登場人物が入り乱れ、特撮を駆使したダイナミックな見せ場と横滑りするコミカルな芝居がイマイチ噛み合わぬまま続く。
興行成績はまずまずながら、自身の過去作に比べると大幅に低く、スピルバーグは酷評を受け入れて驕りを悟り、アクションや特撮の演出を第二班に譲らなかった頑固さを悔いた。また、第二次世界大戦を茶化す姿勢に反発する古参映画人も少なからずいた。「物語は大混乱だが、現場は制御できた」。スピルバーグは告白する。「僕はこの映画が嫌いじゃないし、恥じてもいない。ただ......十分に面白くなかっただけだ」。
■『天国の門』(1980)
『地獄の黙示録』や『1941』を超える「大惨事」。それが鬼才マイケル・チミノ入魂の本作。予算は『カリギュラ』もひれ伏す衝撃の4400万ドル(約116億円)。舞台は19世紀のアメリカ。大牧場主と東欧移民の抗争を通して貧富の差で薄汚れた理想=アメリカン・ドリームの喪失を見つめた壮大な西部叙事詩だ。
『ディア・ハンター』でアカデミー賞の監督賞・作品賞を得たチミノは、本作で無制限の「創作の自由」を与えられた。完成したセットを作り直し、再撮影を重ね、雲の形が気に入るまで撮影を延期。予算は瞬く間に膨れ上がり、粗編集版は5時間半の長尺に。それを2時間半まで縮めて公開したが、興行成績は予算の10%にも満たずに大爆死。製作会社のユナイテッド・アーティスツは経営危機に追い込まれ、チミノはハリウッドから干された。本作の失敗で監督主導の映画作りは衰退。映画スタジオの支配力が強まり、ハイコンセプトな作品が幅を利かすようになる。
■『ザナドゥ』(1980)
『天国の門』には移民たちが束の間、憂さを晴らす“天国の門”というローラースケート場が出てくるが、こちらは地上に降臨した女神がローラーディスコの理想郷を作る物語。人気歌手オリビア・ニュートン=ジョンの主演作で、予算は『カリギュラ』を超える2000万ドル(約53億円)。クライマックスの群舞が展開する歓楽の都=ザナドゥのセットには100万ドル(2億6千万円)が費やされたが、ローラーディスコ文化は短い旬を過ぎており、批評・興行の両面で惨敗した。
本作とゲイ・ディスコグループのヴィレッジ・ピープルが主演する『ミュージック・ミュージック』(1980)の2本立て上映を観た映画宣伝マンのジョン・J・B・ウィルソンは、毎年の最低映画を選出する「ゴールデンラズベリー賞」を設立。
■『地獄』(1979)
最後に番外編を1本。当時の日本映画界もやはり大作主義に舵を切り、フランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカスが製作に加わり、カンヌ国際映画祭グランプリを制した『影武者』(1980)の製作費が(公開時の宣材曰く)約12億5千万円。日本では映画化不可能と言われた『復活の日』(1980)は軽く20億円を超えた。そんなスケール重視の話題作のなかで、ドス黒い異彩を放ったのが本作。予算面では比較にならないが、誇大妄想的な世界観では追随を許さない。
他社同様、大作路線を狙う東映が日活ロマンポルノ出身の神代辰巳監督を招いて放った恐怖譚で、美しい女レーサーがサーキットに浮かぶ母の生首を目撃。事故を起こして故郷に帰省し、実家の複雑な愛憎関係を知るのが前半。後半は非業の死を遂げて地獄に堕ちた彼らが巨大な引き臼ですり潰され、針の山で串刺しになるトラウマ地獄絵図が待ち受ける。
完成した映画は東映の客層と合わず、洋画系の大劇場「テアトル東京」で単品封切り。呪われた母娘の2役を演じた主演の原田美枝子は宣伝隊長も兼任し、上映館を「テアトル地獄」に改名、入口に卒塔婆を置いて観客を迎えた。
いろいろ書いたが、個人的にはどれも思い出深い作品ばかり。気分が高揚する盆暮れ正月には必ず観返す定番映画だ。華やかで力強く、それでいて儚い。人力で編んだ霞のような「天国」と「地獄」に垣間見る一瞬の夢。過ぎたひとつの時代を象徴する名画たちなのだ。(文:山崎圭司)
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