シリーズ累計発行部数1160万部を誇る歴史大河小説を映像化した連続ドラマ『北方謙三 水滸伝』。その中心に立つのが、“はみ出し者たち”を束ねる主人公・宋江(そうこう)を演じる織田裕二だ。

宋江について「普通の人」だと分析した織田は、誠実さと不思議なカリスマ性で人々の信頼を得ていく男の軌跡を鮮やかに体現。観る者の胸を高鳴らせる。壮大なスケールで描かれる本作で座長を担う織田だが、臨む上で心がけていたのは「意気込まないこと」だと告白。自らの人生を「実験人生」だと目尻を下げた彼が、「キツかった」という20代。意気込まない今に至る道のりを明かした。

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◆“同志”として共演!反町隆史とのタッグは「ものすごく楽しみだった」

 壮大なスケールと緻密な人間描写で熱烈な支持を集める、巨匠・北方謙三の小説『水滸伝』を初めて連続ドラマ化した本作。下級役人の宋江が記した“世直し”の書「替天行道」が時代に抗う者たちの心を震わせ、旗のもとに集結した108人が、国家という巨大な敵に挑んでいく姿を描くスペクタクル群像劇だ。

 織田が演じた宋江は、表向きは戸籍係として働く下級役人でありつつ、腐敗した世を憂い、正義を信じて立ちあがろうとする男だ。織田は、そんな宋江について「どこにでもいる、普通の人」だと分析する。

 「特別に変わった人だという解釈はしていません。普通の人が小さな幸せを求めていたら、それすらも許されない世の中になってしまった。『権力を握ると、どうして人はこうなってしまうのだろう』と思うような悲しい出来事が、宋江の目の前で次々と起こる。
『これはおかしいよな』『自分に何ができるのだろうか』と考えていった結果、変化を促してくことになるんです」。

 普通の男のもとに、裏社会に生きる者や、軍を追われた者など、大勢のはぐれ者たちが集っていく。やがて国家を揺るがすほどの大きな力を束ねていく宋江だが、彼のリーダー性の秘密について、どのように感じているだろうか。

 織田は「宋江が『替天行道』という書に、自分の想いを書き記して。それが、もともとみんなが抱えていた矛盾や、『俺もそう思っていた!』という心の隙間にあったモヤモヤに火をつけたんですね。宋江は、みんなの心に寄り添えた人だった。だからこそ、みんなが彼のもとに集まっていったんじゃないかな」と想いをめぐらせる。

 宋江とはまったく違ったリーダー性を発揮するのが、反町隆史演じる晁蓋(ちょうがい)。静と動、水と火のようにまったく異なる資質を持つ2人が手を取り合っていく展開にワクワクとさせられる。それぞれのリーダー性と彼らの化学反応を目にできるのも本作の見どころとなるが、反町と“同志”として対峙することに、織田は「ものすごく楽しみにしていた」とにっこり。

 「宋江と晁蓋の出会いのシーンでは、お互いに『これからが楽しみだ』という顔をしていました。僕自身もまさにそうで、反町くんと一緒にこれからどのような音を鳴らすことができるのか。
ピタッと揃ってきれいな音が鳴るのか、ぶつかり合って不協和音が響くのか。話の展開によってどういったハーモニーができるのか、ものすごく楽しみでした」と大きな笑顔を見せる。

◆理想のリーダー像は?

 今年、最新作『踊る大捜査線 N.E.W.』が公開となる国民的大人気シリーズ『踊る大捜査線』をはじめ、織田はこれまでも数々の作品で真ん中に立ち、日本の映画やドラマ界を牽引してきた。そんな織田が理想とするリーダー像とは、どのようなものだろうか。

 織田は「周りが優秀ならば、リーダーは助かる。周りの力を信じていればいいし、ステキな共演者、ステキなスタッフがいれば、何とかなるんです。主人公というのは、あまりシュートを決めなくていいものだと思っていて。ここぞ!という時に1回、決めればいいのかなと思っています」と周囲の躍動する力を信じることが大切だといい、「今回は特に、そう感じる作品でした。108人の主人公がいて、みんながスターであり、みんながヒーロー。その中で一番地味なのが、宋江」と楽しそうに話す。

 『水滸伝』の壮大な世界観を作り上げるために、規格外のロケを敢行。雪山や洞窟、山や湖など雄大な景色が、“はみ出し者たち”のドラマをさらに盛り上げる。
「本作の撮影は、8ヵ月に及びました。作品全体では、50以上の場所でロケをしています。これまで40年近く役者をやってきましたが、このスケールでの撮影はこれまでにありません」と圧倒的なスケールで描かれる本作だが、座長として覚悟したのは「意気込まないこと」だという答えが返ってきた。

 「最近、意気込まないようにしている」と吐露した織田は、「僕は“実験人生”を歩んでいて。いろいろなことを試しているんですが、ひとつ前の作品で意気込まないで取り組んでみたら、それがとてもうまくいって。今回はとてもスケールの大きな作品なので、どうしても肩に力が入る。そういった時こそ、意気込んでしまうとロクなことがないんじゃないかなという気持ちもありました」と明かす。

◆もし生まれ変わったら、俳優はやりたくない!?

 自身の歩みを、“実験人生”と語った織田。「僕は熱しやすく、飽きっぽいので」と破顔しながら、「仕事の臨み方にしても、ひとつのやり方を続けるよりも、いろいろなことを試してみたくなる。楽しいこと、ワクワクするようなやり方って、どんなものだろうってね。少年が学校帰りに道草をして、『どこかに行っちゃったな。今度はあっちに行ったか!ああ、戻ってきた!』みたいな感じかな(笑)。
螺旋階段を上がっていくようでもあり、ぐるぐると正解を探しながら、年齢とともに上にあがっていくイメージ」と自身の歩み方を説明しながら、「今は、“意気込まない”というターン」だと述べる。

 人生を大いに楽しんでいる様子の織田だが、もし生まれ変わったとしたら「もう一度、俳優業をやれと言われたらイヤかもしれない」と告白する。

 「学生時代には、やりたいことが見つからなくて。俳優なんて、縁遠い世界だと思っていました。偶然のようにこの世界に入り、まだ海のものとも山のものともつかない状態だった20代前半は、とてもキツかったですね。芽が出ずに、一人前としても扱われない。それでいて『こんなに働いていいのか?』と思うくらい働き、眠れずにキャパオーバー。頑張ったし、一生懸命にやったという自負もありますが、その頃をもう一度やるのはちょっと大変かな」と苦笑いを浮かべつつも、「でも働き方改革もあり、撮影現場も変化しました。今の状況ならば、そのツラさはまったく違うものになる。仕事としては、ものすごくステキな職業に就いたと思っていますよ」と晴れやかな表情を見せる。

 俳優業の醍醐味だと感じているのは、「人と人が集まってひとつのシーンを作ろうとした時に、すべての呼吸が合って、奇跡のような瞬間が生まれることがある」こと。

 織田は「少しでも呼吸が狂うだけで、そういった感覚は味わえない。
どうやったらあの奇跡が訪れるだろうかと、そういった瞬間を追い求めています。ひとつのキャンパスに、みんなで絵を描くような作業。思えば、無茶なことをやっていますよね。でも芝居好きが集まると、そういった瞬間が必ず来るはずだと信じています」と力を込めつつ、「年齢を重ねるごとに、一人では何もできないことや、みんなの力が集まることの大きさを実感しています」と仲間とものづくりすることの尊さを噛み締める。

 さらに「若い頃は、『こういうことをやりたい、こうじゃなきゃダメだ』という想いも強かったですね。でも今は人に任せることも大切だと思っているし、『こういう役はどうだ?』と声をかけられて、『はいよ!』と飛び込んでいくのも面白い。そう言ってもらえなければ叶えられない巡り合わせもありますから。台本についても、『俺の読み方は間違っていたのかな、こういう読み方をしたら面白くなるんじゃないかな』と足りないパズルを組み立てていくのも面白い」とインタビューの終了時間まで、椅子から立ち上がっても俳優業への想いをあふれさせた織田。どんな話にも前のめりになって、正直に胸の内を語る姿は、軽やかでありつつ、すさまじく情熱的。その場にいるすべての人を魅了するような佇まいが、劇中の宋江とリンクした。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 連続ドラマ『北方謙三 水滸伝』は、WOWOW、WOWOWオンデマンド、Leminoにて2月15日より毎週日曜22時放送・配信(全7話)。

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