『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』のヨハネス・ロバーツが監督・脚本を務める密室パニックシチュエーションスリラー映画『おさるのベン』。本作は、発症すれば致死率ほぼ100%のウイルス・狂犬病と、人間にもっとも近いとされる動物・チンパンジーを掛け合わせたパニック・シチュエーションスリラーだ。

家族として愛されてきた存在が、ウイルスによって制御不能な脅威へと変貌してしまう。本作が突きつけるこの恐怖は、実は単なるスクリーンの向こう側の話ではない。我々の日常のすぐ隣に横たわる、いつ起きてもおかしくはない最悪のシナリオなのである。

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 大学生のルーシーは、幼少期からハワイの実家でチンパンジーのベンと生活していた。久しぶりに実家を堪能する彼女は、ベンと再会し友人たちに紹介する。しかし、プールパーティを催した夜、かわいがっていたベンは突如豹変し、家にいる者たちを襲い始めて…。

■スティーヴン・キング『クジョー』の悪夢が現実に――致死率ほぼ100%「狂犬病」の絶望

 現代医学をもってしても、ひとたび発症すれば有効な治療法がなく、ほぼ100%が死亡に至るとされる狂犬病。世界では今なお、年間推計5万9000人もの命を奪い続けている、決して過去の遺物ではない、現在進行形の脅威だ。

 狂犬病は、ウイルスを保有する動物に咬まれることで、唾液中の病原体が体内に侵入し感染する。感染後、一定の潜伏期間を経て発症すると、やがて狂躁期と呼ばれる段階に至り、激しい興奮や制御不能な攻撃性を示すようになる。

 このウイルスの恐怖の原点は、スティーヴン・キング原作の映画『クジョー』(1984)にある。ヨハネス・ロバーツ監督が「本作は『クジョー』へのラブレター」と公言する通り、温厚なペットが突如として殺戮マシーンと化す絶望的なリアリティは、まさに同作の系譜にあるものだ。


 日本では、厳格な検疫制度のもと、1956年を最後に狂犬病の発症例は確認されていない。しかし、海外との往来が日常となった現在において、ウイルスが何らかの形で国内に侵入する可能性を、完全に否定することはできない。

■映画『NOPE/ノープ』の惨劇は実話だった! 握力300kgの猛獣と化すチンパンジーの真実

 狂犬病が引き起こす凶暴化が、もしチンパンジーに起こったとしたらどうなるか――。

 彼らは人間に最も近いとされる霊長類でありながら、
人間の数倍もの筋力を発揮し、推定握力は300kgにも達する。ひとたび理性のタガが外れれば、それはまさに、知能を持った猛獣だ。この危うさが、現実の悲劇として露呈したのが、2009年にアメリカで実際に起こった「トラビス事件」である。

 長年人間と共に生活し、テレビCMにも出演したチンパンジーのトラビスが、突如として豹変。飼い主の友人の顔面をずたずたに引き裂き、顔や両手、両耳を引き裂くという凄惨な事件を引き起こした。

 映画『NOPE/ノープ』(2022)でも、この惨劇を彷彿とさせるシーンが描かれ、多くの観客を震え上がらせたのは記憶に新しい。我々が動物園やテレビで目にする賢く利口なチンパンジー像は、実は彼らの一側面に過ぎないのである。

■本当に恐ろしい表現は“現実に根差している”

 怖い映画を本当に恐ろしいものにするのは、怪物やジャンプスケア、流血描写そのものではない。

 「本当に怖いのは、“それが現実に根ざしている”と感じられることです」と、プロデューサーのウォルター・ハマダは語る。
『おさるのベン』が突きつけるのは、我々が安全だと信じている世界の、すぐ隣に潜む恐怖なのだ。

 映画『おさるのベン』は、2月20日より公開。

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