実力派女優・沢尻エリカが、強い存在感を示す最新映画『#拡散』。本作で演じるのは、ワクチン禍で妻を亡くした男の嘆きに火を灯す新聞記者・福島美波役。

真実と虚構、善意と悪意がSNSの荒波に飲み込まれていく現代社会を題材にした作品で、沢尻は何を捉え、表現者としてどう向き合ったのか――。あふれる情報に惑わされないための「生き方」の真髄を語った。

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■現場で見つけた「記者」の視点と、富山の地で感じた即興のエネルギー

 『#拡散』は、コロナ禍で巻き起こった「ワクチン」騒動を題材に、真偽不明な怪情報やフェイクニュースが世にあふれ、ネット上で瞬く間に拡散され、真実が覆い隠されていく、そんな現代社会のカオスな実像を、空恐ろしくなるほどのリアリティと圧巻のエネルギーで痛烈に描き切った、衝撃のヒューマンドラマ作品。

 沢尻が対峙したのは「新聞記者」という、情報を発信する側の役どころ。これまで常に注目の的であり、報じられる側にいた彼女にとって、他者を観察し、事実を追い求める立場を演じることは、世界を眺める解像度を大きく変える経験となったようだ。

 「『この題材を映画にするのか』という驚きが最初にありました。台本を読むと、誰もがどこかの立ち位置で共感できるポイントや、既視感を覚える出来事が散りばめられています。あえて特定の思想に寄ることなく、世界中が経験した困難を一つの物語として形にできたことは、非常に意義深いと感じています。記者を演じるにあたっては、これまでとは異なる視点で人を観察することを意識しました。好奇心がより強まり、『これは何だろう』という疑問から想像を膨らませていく。自分の中にはなかった新しい視点を持てたことは、大きな発見でした」。

 物語の舞台となったのは、雄大な立山連峰を望む富山県。
わずか2週間という極めてタイトなスケジュールの中で、沢尻は劇中の緊迫感とは裏腹に、ロケ地ならではの豊かな時間に身を浸していた。冬の富山が見せる一瞬の晴れ間、そして厳しい自然が織りなすコントラストが、スクリーンに映し出される物語に圧倒的な説得力を与えている。

 「撮影は非常にスピーディーでしたが、現場はとても優秀で、テンポよく進んでいきました。何より、富山の景色が本当に美しくて。去年の11月頃、変わりやすい天候の中でも奇跡的に光が差し込み、抜けの良い景色の中で撮影できたことが強く印象に残っています。仕事が終われば、スタッフの皆さんと一緒にサウナへ行ったり、ご飯を食べたり。地元の空気を大満喫しました。美味しい食事に癒やされながら、その土地の力をもらって駆け抜けた日々でした」。

成田凌への絶対的信頼と、予測不可能な「表現者」としての進化

 劇中で共鳴し合う介護士・浅岡を演じた成田凌とは、今回が二度目の共演となる。以前から培ってきた信頼関係は、言葉を超えた芝居のやり取りを可能にした。俳優として円熟味を増した今の沢尻は、緻密に役を作り込むこれまでのスタイルから、現場の空気に反応する「瞬発力」を重視するスタイルへと、軽やかにシフトしている。

 「成田さんには絶対的な信頼がありました。
彼に引っ張ってもらった部分も大きかったです。お芝居について細かく話し合うことはありませんでしたが、彼は常にいい意味でこちらの予想を裏切ってくる。思わず笑いを堪えてしまうような絶妙な表情を見せることもあり、その表現の豊かさに圧倒されていました。今回は、あまり作り込みすぎず、その瞬間のエネルギーを大事にするやり方を取り入れたんです。今まで経験したことのないアプローチでしたが、現場の空気感に身を委ねることで生まれる発見があり、自分にとって大きな収穫となりました」。

 「天才」と称された沢尻の瞬発力は、経験を重ねることで、より「人間臭さ」を纏うようになった。正義感に燃える一方で、内側に「濁り」を抱えた記者の造形は、現場で監督と対話を重ねる中で、より身近な存在へと引き寄せられていった。

 「監督からは、意識が高く、向上心の強い女性だと説明を受けていました。ただ、そこに人間なら誰しもが持っている偏屈さや、割り切れない思いを滲ませたいと考えたんです。現場の空気の中で役が作られていく感覚があり、当初の想定よりもずっと『人間臭い』人物になったと感じています。誰もが心の底に持っているであろうグレーな部分を描くことで、多くの人に共感してもらえるキャラクターになったのではないでしょうか。もっといろいろな表現のバリエーションを持って、自分の内側にはない価値観も出していけたらという、次への課題も見えてきました」。


■あふれる情報の海で、あえて選ぶ「現実」という名の拠り所

 SNSによって誰もが発信者となり、真偽不明の情報が瞬時に拡散される現代。本作が描くテーマは、まさに今の人々が直面している危うさそのものである。情報の濁流に飲み込まれ、時に誤解や偏見にさらされることもある立場として、沢尻はどのように自分自身を保ち、世界と向き合っているのだろうか。

 「SNSやネットの情報は、どうしても感化されやすいものです。一つの意見を聞けば納得し、別の意見を聞けばそれも一理あると感じてしまう。でも、世の中には多様な考えがあって当然です。どれが正解でどれが正義かということよりも、お互いの意見を理解し、尊重することが大切なのだと思います。私自身、ネットはよく見ますし、事件のコメント欄から人々の機微に触れることも好きです。ただ、そこに依存しすぎない、信じすぎないという距離感は常に意識しています。疲れた時には、動物の動画など、たわいもないニュースを見て癒やされています(笑)」。

 「拡散」という暴力によって人生が狂わされる描写もある本作だが、沢尻の視線はどこまでも冷静だ。たとえ意図しない形で言葉が一人歩きしたとしても、それを拒絶するのではなく、一つの現象として受け入れる強さがそこにはある。


 「もし誤解や炎上が起きたとしても、世の中がそうなってしまったら、受け入れていくしかないと思うんです。厳しい意見であっても、何も言われないよりは、伝えてもらえることの方がありがたい。そこで自分の至らなさに気づけたのなら、それを糧にまた先へ進めばいいだけですから。今の世の中は白黒はっきりさせたがりますが、生きていく上ではもっと曖昧な、グレーな部分があっていい。特にコロナ禍では、日本人の良い面と悪い面がパニックの中で一気に出たように感じました。正論ばかりでは疲れてしまう、そんな社会の脆さを改めて実感しています」。

 インタビューの最後、沢尻が口にしたのは、デジタルなつながりを凌駕する「手触りのある現実」への信頼だった。どんなにテクノロジーが進化し、情報のスピードが加速しても、彼女の拠り所は常にシンプルで温かな場所にある。

 「結局のところ、私たちが生きているのは現実社会です。ネットの中だけが世界ではない。誰かに支えられ、いいことをしてもらったらお返しをする。そんな単純なつながりの中にこそ、本当の温かさがあると感じています。
世の中の進歩が早すぎて、時々ついていけないと感じることもありますが、人間は一人では生きていけません。だからこそ、シンプルに、現実世界での人との触れ合いを一番に大事にしていきたい。それが、この複雑な時代を生き抜くための、私の拠り所なんです」。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 映画『#拡散』は、2月27日より全国公開。

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