2024年前期の連続テレビ小説『虎に翼』で、伊藤沙莉演じる主人公・猪爪寅子と共に激動の時代を生き、視聴者から熱い支持を集めた山田よねと轟太一。本編では語られなかった二人の法律事務所設立の裏側を描くスピンオフドラマ『山田轟法律事務所』が誕生した。

よね役の土居志央梨と轟役の戸塚純貴が、空白の時を埋める物語への思いや、役への深い愛着、そして撮影秘話を語った。

【写真】よねと轟が帰ってきた! 『山田轟法律事務所』に出演する土居志央梨&戸塚純貴

■「憲法第14条」の壁に秘められた真実

 本作は、2024年前期に放送され映画化も決定している連続テレビ小説『虎に翼』のスピンオフ。本編では描かれることがなかった、山田よね(土居)と轟太一(戸塚)が法律事務所を開くきっかけになった出来事を描く。

――スピンオフの話を聞いたとき、よねと轟のほのぼのとしたコンビの物語かと思いきや、かなりシビアな展開から始まり驚きました。台本を読んだ際の感想や、「ここを描くんだ」という驚きについてお聞かせください。

土居志央梨(以下、土居):そうですね。まさかここまで描いてもらえるとは思っていませんでした。本編では、よねが戦争中にどう過ごしていたか分からないまま、轟と再会して事務所に移った時には、壁に大きく「憲法第14条」が書かれている状態でした。あの文字を見て、「よねにはきっと、ただ事ではない何かが起こっていたんだろうな」とは想像していましたが、その謎が明かされることはもうないのかなと思っていました。ですから、スピンオフでまさかその重要な部分を扱ってもらえるとは思わず、本当に嬉しかったです。「こういうことだったのか」と、自分の中でも納得できる部分が多かったですね。

戸塚純貴(以下、戸塚):僕も最初は、トラちゃん(主人公・寅子)の「新潟編」の空白期間に何をしていたのか、といった話も(土居さんと)していたんです。
でも、やはりあの「第14条」は無視できない存在でした。僕たちもあの壁を見つめながら本編を最後までやりきったという感覚があるので、今回の切り取られ方には納得がいきました。僕自身も知らなかった部分を知ることができて、喜びを感じました。

――もしこのバックボーンを知った上で本編を演じていたら、アプローチは変わっていたと思いますか?

戸塚:そうかもしれませんね。

土居:大きく何かが変わるわけではないかもしれませんが、実際にスピンオフの撮影を経験したことで、体に残る感覚というか、経験として積み重なったものがあります。それを経て演じていたら、やはり何かしらは変わっていたのかなと思います。ただ、逆に本編を最後まで撮り終えたからこそ、今回のスピンオフで細部まで深掘りすることができたという面もあるので、どちらの順番でも面白かっただろうなとは感じます。

戸塚:本編を終えた後だからこそ生まれた「行け轟」などのシーンもありましたしね。

土居:完全に本編を撮っていたからこそのシーンだったので(笑)。

戸塚:実はもともと言われていた「行け轟」が、後から繋がったという感覚です。

――スピンオフを見てから本編を見返すと、また違う解釈や補完ができる。時間が空いたからこその面白い仕組みですね。


土居・戸塚:そうですね。新しいですよね。

■役に戻るスイッチと、撮影の裏側

――演じる側として、一年間の「空白期間」を経て再び役に入る際、感覚はすぐに戻りましたか?

土居:1ヵ月だけ演じた役とは全く違います。一年間、しかも学生時代から60歳近くまで演じていたので、自分の中に1年かけて「一人の人生を生きた」という感覚が強くありました。だからこそ、時間が空いてもすぐに戻れたのだと思います。朝ドラならではの経験ですね。朝ドラじゃなかったら、これほどスムーズに戻るのは難しかったかもしれません。

戸塚:正直に言えば少し忘れていた部分もありました。でも、やはりあのセットと……。

土居:あとスタッフさんたちの顔ね! 同じメンバーで今回もやれたので。当時の空気感に触れると一瞬で当時に戻れる感覚がありました。それは本当にありがたかったです。


――本編から一年以上空いていますが、回想シーンなどでのビジュアルの合わせ方で意識した点は?

戸塚:髪型は轟に入るにあたり伸ばしてはいましたが、色はメイクさんにご協力いただいて。

土居:メイクさんが当時の映像を何度も見返して、スクリーンショットを撮って細かく確認してくれました。「もみあげの長さはこのくらいだね」とか。それに合わせて髪を切ったりして、回想と違和感がないように調整していました。

――よねの「怒り」が凝縮されたシーンの連続でしたが、撮影は順撮りだったのでしょうか。

土居:全く違いました。純貴くんのパートを序盤に撮ったり、セットやロケ地の都合でバラバラでした。本編の時からずっとそうだったので慣れてはいますが(笑)。一つひとつのシーンに対する集中力を保つのは大変でしたね。

――戸塚さんは重い展開の中で空気をガラッと変える役割を担うことに、プレッシャーはありましたか?

戸塚:今回のスピンオフに関しては、プレッシャーは特に感じませんでした。学生時代から演じてきて、最初の頃に「空気を変える」「キャラクター性の強い役」という方向性は、監督やプロデューサーとしっかり話し合って土台ができていましたから。その土台の上での撮影だったので、プレッシャーはなく、むしろ、よねさんと瞬間的にあの当時に戻れたという感覚の方が強かったです。


■よねを支えた「希望」と、これからの二人

――平山祐介さん(マスター役)との共演はいかがでしたか? よねにとって「希望」となる重要な存在でしたが。

土居:平山さんがマスターとしての雰囲気をずっと保ってくださっていました。どんなに苦しいシーンでも、マスターのあの喋り方、あの空気感があるだけで、よね自身も「この人のために自分を曲げない」という覚悟を再確認できる。本当に感謝しかありません。本編の時は平山さんの撮影日数は三日間くらいと短かったのですが、それでも視聴者の皆さんに「マスター」という存在を刻み込んだ。今回、改めてしっかりとお芝居で向き合えて、本当に楽しかったです。よねにとって、どれほど大切な人だったのかが改めて分かりました。

――伊藤沙莉さんが登場するシーンも印象的です。

土居:あれは本当に面白かったです。

戸塚:登場の仕方が現実離れしていて良かったですよね。

土居:沙莉も忙しいスケジュールの中、朝イチで来て、すぐ帰るみたいな感じで。すぐに声を枯らして帰っていきました。
「ふぇーい!」とか大声出して(笑)。もう声出ないって言っていました。楽しかったです。

――事務所の名前を「山田・轟」にするか「轟・山田」にするか、ジャンケンで決めるシーンも。

戸塚:ジャンケンでしたね。もちろん俺が最初だから轟が前だろうってところから始まり……。

土居:でも事務所を誘ったのは私だし。

戸塚:じゃあ、じゃんけんだってくだりがあって。そこは漢らしく譲ったのかな(笑)。

――今後、この二人の「よろず相談所」のような、日常を解決していく物語も見たいという声が出てきそうですね。

土居・戸塚:いいですね! ぜひやりたいです。

土居:二人が買い物に行ったり、ご飯をどうするか相談したりするだけの日常ドラマとか、面白そうですよね。


戸塚:どちらが料理を作るか、とかね。連ドラになったら恐ろしいことになりそうですけど(笑)。でも連ドラになったらとんでもないことになりそうですよ。

 1年間という長い時間をかけて役を生き抜いた二人だからこそ醸し出せる、阿吽の呼吸。シビアな過去を経てタッグを組んだよねと轟の揺るぎない信頼関係は、スピンオフを通してより一層の深みを増した。本編の補完として、あるいは新たなバディの物語として、二人のこれからをさらに観てみたいと思えるような作品になっている。

(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 虎に翼スピンオフ『山田轟法律事務所』は、NHK総合にて3月20日21時45分、NHK BSプレミアムにて3月29日16時45分放送(72分、全1回)。

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