元宝塚歌劇団星組トップスターで、2015年の退団後はミュージカルをはじめとする舞台はもちろん、映画、ドラマとさまざまな作品で輝き続ける柚希礼音。退団からの10年を駆け抜けた彼女が次に挑むのが、宝塚時代の後輩・礼真琴との夢の共演が実現するブロードウェイミュージカル『BOOP! The Musical』だ。

舞台となるニューヨークに滞在し原点を思い返すことができたという柚希に、さまざまな困難を乗り越え上演へと至った本作について、愛弟子とも言うべき礼真琴への思いなどをたっぷり語ってもらった。

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◆『バーレスク』公演中止にショックも、制作陣の頑張りに感銘うけ出演決意

 日本では「ベティーちゃん」として知られる1930年代に米国で誕生したアニメーションキャラクター「ベティー ブープ」を主人公とする本作は、白黒アニメーションの世界から突如カラフルで活気あふれる現代のニューヨークへとやって来た彼女が、新しい仲間との出会いを通じて「自分の本当の望みは何か」「自分はいったい何者なのか」といった人生の大きな問いに対する答えを見つけるまでのストーリー。柚希は、ベティー ブープ(礼)の祖父的存在のグランピーとも縁のある、天体物理学者・ヴァレンティーナを演じる。

 本作上演時期には当初、クリスティーナ・アギレラ主演で2010年に映画化された作品を舞台化したウエストエンドミュージカル『バーレスク』が礼真琴主演で予定されていた。柚希もオーディションを経て、映画でシェールが演じたテス役を勝ち取ったが、制作準備を進める中で上演を断念せざるを得ない状況になり、1月に公演中止が発表された。

――『BOOP! The Musical』の前に、『バーレスク』についてもお話を聞かせてください。柚希さんと礼さんのがっつり組んでのお芝居は、学年差があったので宝塚時代もあまりなかったことでとても楽しみにしていたので残念です。

柚希:かなり前からオーディションをしてテス役に決まったので私も残念です。『バーレスク』は女性も男性もすごくカッコよくて色っぽくて大好きな世界観なので、礼真琴ちゃんのアリと私のテスで絶対カッコよくやるぞ!と気合いも入っていたのですが…。

映画でシェールさんがやられたテスを演じられるのも、礼真琴ちゃんが宝塚を退団して初めてのミュージカルでがっつりと組めるのも楽しみにしていたので、公演ができないと聞いた時はショックもありました。

でも、梅田芸術劇場さんの制作陣がものすごく頑張ってくれた結果、この『BOOP! The Musical』の上演が決まって。作品も役も変わったので出ないという選択肢もあったのかもしれませんが、この限られた期間でのプロデューサーの皆様の頑張りが本当にすごくて、私にできることがあるのであれば何でもしたいと思い、出演させていただくことになりました。


今回のプロデューサーには私が宝塚を退団してからずっとお世話になっていて、愛情と導きがすごい方なんです。これはもう今までのご恩も愛も全てを懸けて出させていただき、絶対にいい作品にできるように頑張るぞ!と気合いに満ちあふれております。

もちろん絡みは少なくなりますが礼真琴ちゃんとご一緒することや、『キンキーブーツ』や『PRETTY WOMAN The Musical』のジェリー・ミッチェルさんの演出を受けられることも楽しみですし、いろいろなエンターテインメントが詰まったカラフルで華やかな作品ですので、きっと皆さんに楽しんでいただけると思います。

――公演中止が決まった時は、礼真琴さんにはどんな言葉をかけられましたか?

柚希:中止が決まった直後は、次の作品が決まるかもしれないからとにかくじっと待とうと思って、共演者のみんなとも連絡を取らずにいました。『BOOP!』が決まったあたりに、礼さんと直接会って「気持ちを切り替えて、とにかく一緒に頑張ろうね!」という会話をしました。

――そうして決まった『BOOP!』ですが、演じられるヴァレンティーナにはどんな印象をお持ちになりましたか?

柚希:これまでなかなかオファーいただくことがないような役どころで新しい感覚です。美しくて、ゴージャスで、面白さもあって素敵な女性なんです。包容力のある愛情深い一面も出せたらいいなと思っています。

――先日、ニューヨークにも行かれていたとか。

柚希:そうなんです。やっぱりニューヨークの風を入れないと、『BOOP!』はできないと思ったんですよね。宝塚退団後、3ヵ月間ニューヨークで暮らしていたこともあったので、お世話になった方にも会えましたし、ここに住んでいたな、ここでゴマ油を買ったな(笑)、英語学校の帰りにここを歩いたなと、その頃いろいろ葛藤したり悩んだりしたことも思い出して、あの時があったから今の自分がいるんだなと改めて感じました。
今の時期に行けたことで、すごく初心と感謝を思い出しましたし、リセットもインプットもできてとてもいい時間を過ごせたと思います。

◆宝塚らしい面もありながら礼真琴だけの世界があるのが魅力

――礼真琴さんは、柚希さんの大劇場トップお披露目公演『太王四神記 Ver.II』から星組に配属されたんですよね。

柚希:宝塚に入る前にお手紙をくれて、その子が宝塚に入り、しかも星組に配属になったと思ったらすごい子で! 新人公演で私の役をしてくれたりといろいろご縁や絆のある礼真琴ちゃんの退団後初ミュージカルですから、愛情いっぱいに支えたいと思います。

――初めてお会いになった時の印象は覚えてらっしゃいますか?

柚希:組子として入ってきて、ダンスを見ただけですごい子が入ってきた!と星組が沸きました。それまでお手紙をくれたり、パフやスリッパを作ってくれたりしていたので、そういう時は女の子らしいかわいい子だと思っていたんですけど、入ってきたらもうすっかりカッコよくって。どんどんカッコよくなっていきましたし、宝塚らしい面もありながら、また違った礼真琴だけの世界があるので、そこもすごい魅力だなと思っています。

――組配属されて最初のトップさんというのは特別な存在なのでしょうか。

柚希:私の場合は稔幸さんですが、もう雲の上すぎる方ですね。退団後まだ共演はさせていただいてないですが、お会いした時に気さくに話してくださるだけで本当にうれしいです。

湖月わたるさんとは『マイ フレンド ジキル』で、安蘭けいさんとは『カム フロム アウェイ』で共演させていただきましたが、背中を追い続けたトップスターさんと一緒の舞台に立つことは夢のようで信じられないです。退団して今も舞台上で輝いてらっしゃる姿を袖から見ていることにも感動しますね。昨年末に『マイ フレンド ジキル』で湖月わたるさんとご一緒して、今回礼真琴ちゃんと共演という流れもグッとくるものがあります。


――ご自身の宝塚退団後初めてのミュージカルにはどんな思い出がありますか?

柚希:『プリンス・オブ・ブロードウェイ』という作品で、海外の皆さんとの共演でした。先ほど話したようにニューヨークで3ヵ月稽古したんですけど、それまで宝塚のトップスターとして組子はもちろん周りのみんなに支えられていたのが、1人で何もかも自分でやる生活へとスパッと急にリセットできたので良かったなと思います。

退団して、女性になっていいよ、また自分に戻ったらいいよと言われたんですけど、その女性に戻るというのがわからなかったんですね。でも、アメリカの皆さんとご一緒したことによって、バンと仁王立ちで立っているような、カッコいい女性像でもいいんだなと思えたのも、身を縮めすぎることなくいられたので良かったです。

――退団後初ミュージカルの礼さんに何かアドバイスはありますか?

柚希:そのまんまで、のびのびといてくれたら。たぶん礼さんもちょっと人見知りというか、初めての方とはドキドキしちゃうと思うんです。私もそうでしたけど(笑)。でもどの現場も本当に素晴らしい方々ばかりで、皆さん温かく見守ってくださるんですよね。今回私も、礼さんが緊張しない場を作る手助けができて、一緒に楽しく舞台を作れるよう頑張りたいと思います。

◆目の前の作品に1つ1つ向き合った先に「これだ!」と思える出会いがあったら

――昨年は退団10周年を迎えられ、1月にシャンソンのアルバムをリリースしコンサートを開催、春にミュージカル『ホリデイ・イン』、その後すぐに舞台『先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~』、秋には『マタ・ハリ』の再演、年末に『マイ フレンド ジキル』とフル回転でした。

柚希:働き者でした(笑)。全部できるかわからないと思いましたけど、やってみよう、やってみたいと思う作品が続いたんですよね。
スケジュールはとてもハードだったので、『バーレスク』の稽古が始まる前にちょっと1ヵ月休みたいとリセット期間を設けて、そこで休めるからここは走るぞ!というつもりで駆け抜けました。

退団10周年という年にこれだけいろんなジャンルのさまざまな役をさせていただけたのは本当にありがたかったですし、どれが欠けてもダメだったというような自分がいましたので、全てのものから助けてもらったり、背中を押してもらったりしながら歩みました。

――この10年で作品に向き合うスタンスに変化は生まれましたか?

柚希:宝塚時代はゴールがあったので、そこに向かって本当に全速力で走ったという感じだったんですね。でも辞めたらゴールがわからなくなって、全速力だけだと無理!となったこともありました。今回ニューヨークに行って、全てがまたリセットされた結果、やっぱり毎公演全力で行こう!と思えるようになった感じがあります。

――先日『BARFOUT!』での連載をまとめた『柚希横丁』を出版されるなど新しい挑戦が続きますが、次に挑戦してみたい作品や役はありますか?

柚希:『マタ・ハリ』という作品がすごく好きだったので、マタ・ハリのように魂を込めて人生を懸けて挑む役に挑戦したいとずっと思っていたんですけど、それはどんなジャンルのどんな作品でも変わらずで。

宝塚時代もトップさんになりたいとか最初は到底思っていなかったんです。そんな遠い夢よりもあの8人口の男役さんに入ってみたいとか、そういうちょっとした目の前の憧れを叶えていったら、いつの間にか2番手になってトップさんになったという感じでした。これからも目の前のことを思いっきり考えていくようにした先で、「これだ!」と思えるような作品や役にまた出会えたらうれしいなと思います。

(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)

 『BOOP! The Musical』は、東京・東急シアターオーブにて5月27日~6月21日、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて7月4~22日、福岡・博多座にて7月30日~8月16日上演。

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