内面から湧き出る個性で、さまざまな作品を盛り上げてきた桐谷健太。今年、俳優生活10周年を迎えた彼の映画デビューは井筒和幸監督の「ゲロッパ!」だった。
その井筒監督が珍しく原作モノに挑んだ「黄金を抱いて翔べ」で、桐谷は井筒作品に4度目の出演を果たした。原作は「マークスの山」で直木賞を受賞している髙村薫のデビュー作。大阪のメガバンクの地下に眠る金塊を強奪しようとする男たちの運命が、裏切りや陰謀、駆け引きといった渦を巻きつつ進んでいく。

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 「めちゃくちゃパンチが効いていて、かっこいい作品!」と桐谷が語る本作で彼が演じるのは、裏社会の調達屋・幸田(妻夫木聡)と、計画を企てた北川(浅野忠信)らのメンバーに加わるシステムエンジニアの野田。その他のメンバーは、北川の弟・春樹(溝端淳平)、元国家スパイで爆破工作のプロ・モモ(チャンミン「東方神起」)、元エレベーター技師のジイちゃん(西田敏行)の合わせて6人。

 「井筒さんに呼んでもらったからには、絶対に最高のものにしたいという気持ちがありました」という桐谷。井筒監督への思いはやはり特別で、「井筒さんの作品に入るときは誉められたいっていう気持ちが強いんです。ようやったなぁって言われたい。ヨシヨシしてもらいたいんですよ(笑)」と明かす。

 熱い気持ちが報われたのはオールアップのとき。「ものすごく嬉しい言葉をもらったんです。もう、俺、半泣き状態ですわ。
あ、でもその言葉はナイショですけどね(笑)。ヒントを言うなら、これからに続いていくような言葉。俺が今までやってきたことは間違ってないねんなと。このままもっともっとやっていこうって。井筒さんも、俺に対して一過性のものじゃなく思っていてくれているのも分かりましたし。でも、そうはいっても俺がダメになったら使ってもらえませんからね。そこはシビアにしっかりやりきる。井筒さんと仲良くさせていただいているからとか、そんな甘えは一切ないです」。

 大切な言葉をもらえた野田役。作る上でプラスになったのが彼の背景だ。「野田は父親に対してコンプレックスを持っているんです。おやじを超えたいと思ってる。
彼はこの計画が命も危ないと分かってきたら、一度逃げるんですが、戻ってくるんです。その行動の奥にはお金のことだけではなくて、俺にだってデカいことができるんだ、俺はこんなもんじゃないんだという父親への屈折した思いがある」。そして「野田だけではなく、チームのみんながそれぞれ何かを抱えている。もちろん目的として一攫千金もあるでしょうが、その抱えているものがないと、ここまでやらないと思いますね」と続けた。

 ところで、本作では東方神起のチャンミンが日本映画デビューしているのも話題だ。桐谷は共演者たちと時間が許す限り、色々と語り合い、チャンミンにも積極的に話し掛けた。「すごく純粋ですよね、彼は。本当に一生懸命取り組みますし。女の人が可愛い!っていうでしょ。その気持ちが分かりましたね。日本語で“アリガトウゴザイマス”とか言われると、かわいいなぁって(笑)。どんなタイプの女の人が好きなの?とかも聞きましたよ。
答えはあえてナイショですけど。ワハハッ」。2つめのナイショが出てきてしまったが、明るいだけでなく、きちんと礼儀正しさもある桐谷に笑い飛ばされると為す術もない。

 そんな桐谷。常にポジティブに映るが、それはここ最近になって変わってきたのだとか。「世界って自分が作っているんですよね、自分の考え方が変われば全部変わる。つまり楽しいことやおもしろい方向というのは、自分で作っていくことができる。そういう考え方ができるようになりました。これも一つずつ積み上げてきた、これまでの仕事全部のおかげだと思っています」。

 そして未来へと目を向けた。「まだ経験していないことをしたいし、常に変化していきたい。役者をやる前だったら夢見がちに『ハリウッドに行って、うふふふ~』とか思ったりしていたものが、今は逆に『しっかりやったらイケルぞ』って。
でもそのためにも強くなりたいし、優しくなりたいし、毎日上がって行かなきゃと思ってる。野田たちは金塊というデカさを狙ったけれど、そういう意味では、俺は一生をかけてデカいことをやり遂げたいんです」。(取材・文・写真:望月ふみ)

 「黄金を抱いて翔べ」は11月3日(土)より丸の内ピカデリーほかにて全国公開
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