<フォト>青山真治監督・とよた真帆 撮りおろしインタビュー
2002年に結婚し、映像では何回か仕事をしているものの、舞台の演出家と主演女優としてガッツリ組むのはこれが初のふたり。ニュースにも上ったが、当人たちは「自分たちが夫婦であることすら、みんな知らないんじゃないの?」とあっさりしたもの。だが、青山監督の心の内には、とよたで主演作をやりたいという思いは常にあった。
「そもそも一緒に仕事がしたいと思わなければ結婚なんてしていない。僕はこの人(とよた)ありきですべて生きてきたつもりですから。この人の映画が撮りたいし、この人の主演する舞台が演出したいと、ずっと思いながら過ごしてきた。今回の戯曲を渡されたのは3年ほど前ですが、この人でやれるかどうか考えながら温めてきた」と監督。
本作は原作に監督の手がかなり入っている。では、その改編はとよたのためだったのか。「それはないです。
一方のとよたは、原作を読んだ時点の印象を、あまりよくなかったと話す。「120年も前の戯曲ですし、女というのはこういうものなんだという、短絡的な完全に男目線な話で。ストリンドベリさんに失礼ですけど…。今とは感覚が違いすぎる。大昔の話として見るにはいいけれど、それを今やる必要があるんだろうかと。でも監督が絶対におもしろくなるからと。そして実際にやりたいと思える戯曲に仕上がってきたんです」。
そして続けた。「女の人は確かにわがままで奔放なんだけれど、自分の意思で正直に生きている。本質的な部分は変わってないんですけど、それぞれの言い分が理解できるものになっていました。
さらに核心を突いた。「前の旦那が今の旦那に“キミは女になったんだ!”と言うセリフがあるんです。前の旦那は男は男であり、女は女であるという考え。でもあとのふたりはそんなことは別に考えていなくて、ただ人生を楽しもうとしているだけだと僕は捉えているんです。男対女とかということが話題になること自体が、愚かなことなんだという物語なんじゃないか、そう持っていこうと思ったんです。結局、男、女という性別の問題というのは、ただのゲームにすぎないんですよ」。
監督ととよた自身も、“男”である“女”であるといった縛りは嫌いなよう。
舞台は生ものだと昔から言われるが、中でも青山監督の現場は相当に自由なのだとか。すると、より公演日によって違うものが生まれる作品になる予感が。これにはふたりとも大きく頷く。「だいぶ違うんじゃないですか。動きも自由だし、アドリブもかなり入っているし、観ている方には、どれがセリフでどれがアドリブなのか分からないと思いますよ」。
そんな現場に「毎日、おそろしく楽しく臨んでいる」とほほ笑むとよたに、それでも苦労している場面はないかと訪ねたが、返ってきたのは次の言葉。「私、もともといろんな物事に対して苦労って考えないんですよ。好きで女優をやっているし、大変な現場だったとしても、それはやらなきゃならないことだから、苦労ではない。
ふたりともざっくばらんで終始、笑いに満ちていたインタビュー。ちなみに現場にはとよたさんの運転で来ているそうで、監督は「おれ、免許持ってないもん。助手席の似合う男なんだよ」と放ち、さらに笑いが起こっていた。
最後に監督に見どころPRのお願いをしてみた。「エロいです!男も女も、みんなエロい。いや、人間がさらけ出されているという意味でのエロさですよ(笑)。それをぜひ堪能していただきたいですね」。(取材・文・写真:望月ふみ)
「私のなかの悪魔」公演情報
作:ストリンドベリ 翻案:笹部博司 翻案・演出:青山真治
出演:とよた真帆、佐戸井けん太、髙橋洋、足立理
3月25日(月)~31日(日)
東京・あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)