アニメーションをつくり上げる要素は「キャラクター」と「シナリオ」「音楽」と多数あるが、今回はその中でも「美術」や「背景」という世界について取り上げてみる。

 どちらかというと“裏方”の役割にも感じられる役割ではあるものの、スタッフロールに記載される名前は少なくない。
彼らは一体どんな仕事をして、作品にどんな影響を与えているのだろうか。

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 まず、アニメ制作における「美術」(美術監督)という役職が、どんな仕事に携わっているのか、という部分から追っていこう。

 美術監督は主に、作品全体における(絵としての)世界観の構成を担当している。具体的には、背景に登場する小物や、背景そのもの関する詳細な設定(美術設定)を行い、それらの制作に指示を飛ばすのが主な仕事だ。また、それらの仕事を分担・専門化する際には、「美術コンセプト制作」のような具合に別の役職名が使われる。

 美術は非常に専門性が高い仕事であるため、それらの役職は多くの場合、専門の美術スタジオ(背景スタジオ)から抜擢・委任されることが多い。背景を制作するスタジオとしては、多くの制作チームを抱える「スタジオ・イースター」や、『鋼の錬金術師』(初期シリーズ)などの背景を手がけた「草薙」。美術監督としては、スタジオジブリのアニメ映画でお馴染みの男鹿和雄氏などが有名だ。

 また、大きなアニメ制作会社では、自社内に美術スタジオを保有している場合も少なくない。その中でもProductionI.Gは特に珍しい体制を取っており、同社専門の美術スタジオとして「IG小倉工房」(美術監督の小倉宏昌氏が設立)を併設している。 何となく分かってきたかもしれないが、アニメーションにおいて「美術」に関係する役職のほとんどは、背景の制作に関わっている。単に「背景と言って思い出すアニメは?」と問いかけられたら、なかなかタイトルは浮かんでこないかもしれない。
しかし逆に「背景が無いアニメ」など想像できないだろう。作品から感じ取れる世界観を作るにあたって、背景はもっとも重要なファクターのひとつなのだ。

 背景が特に強く作品に影響を与えている例としては、新海誠監督が手がけた作品や、先年に大ヒットを飛ばしたアニメ映画「おおかみこどもの雨と雪」などが挙げられるだろう。前者はデジタル処理を用いた緻密な背景で幻想的な作風を作り上げ、後者は“都会と田舎”の対比的な表現において背景が大きな役割を果たしている。

 「キャラクターコンテンツ」と呼ばれるアニメーションの世界では、どうしてもキャラクターの動きばかりが注目されがちになってしまう。しかし、繰り返す形になるが、美術・背景無くしてアニメが作品として完成することはありえない。

 すでに観た後のアニメ作品をもう一度視聴する時は、キャラクターの後ろに描かれた「背景」にも目を向けてみよう。それだけで、今後新しいアニメ作品を観る度に、楽しみにする要素がひとつ増えるはずだ。(文:蒼之スギウラ)
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