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過ちのために病院で子どもが取り違えられたことを知った2つの家族。自分の“本当の”息子を決めるのは、血のつながりなのか、それとも一緒に過ごしてきた6年間なのか…。人生の勝ち組として成功の道を歩き続けてきたはずの父親を福山が演じ、その妻に尾野真千子、取り違えた相手の息子の両親をリリー・フランキーと真木よう子が演じた本作は、これが3度目のカンヌ映画祭コンペ部門の参加となる是枝監督の最新作とあって、公式上映前の記者会見も世界各国の記者が詰めかけて、質問が途切れることがなかった。
『誰も知らない』(04)で柳楽優弥に同映画祭の最年少主演男優賞をもたらしたところからも、俳優、特に子役への演出方法に世界のジャーナリストも関心が高く、質問が集中した。福山が「子役には台本を見せず、どういう撮影をするのか知らずに現場に来ていた。子どもたちにとっては、大人の俳優と遊んだ、という記憶になっていると思う。我々も演技をしたというより、子どもの感性に導かれて表出したものを切り取っているのが実情で、そこが良かったのでは」と撮影現場の裏側を明かす。「台本を見せないといっても、必ず子役に言わせないといけないセリフがあって、それを演出するのは難しいと思うのだが…」とさらに突っ込んできた質問に対して是枝監督は、父親の福山を子役の黄升炫くんが「なぜ?」と訊き続ける印象的な場面は、実際に現場での黄くんの口癖を取り入れたことを例に挙げ、「セリフは事前に書いてはいるが、彼らの会話を通して書き換えて、文字ではなく口頭で伝えている。だから言いづらくないのではないかな」と、独特の演出方法について解説した。そもそも子役の二人も、あらかじめ「こういう子どもを」と想定して探したのではなく、子どもたちに会ってみて「この二人を撮りたい」と、個性にあわせて台本を書き換えたことや、「映画の『ここを観て欲しい』というのは、撮影前も完成後も自分にはなく、観た人の感想を受け止めて初めて、自分が作ったものを確認できる。
また、カンヌの印象を問われて「カンヌはいつも映画について深く考える時間を与えてくれる。ゆうべもディナーでフランソワ・オゾン監督とお互いの作品について立ち話をしたが、そういった豊かな時間を過ごしたいですね」と、舞い上がりを感じさせない、常連の貫禄を見せた。その是枝監督の落ち着きがキャスト陣にも良い影響を与えているのか、真木と尾野が映画祭に参加できたことへの喜びや興奮を笑顔で述べると、リリーは「ゆうべのパーティーで飲んだけど、みんなが帰ったあともホテルでひとりで飲み続けた」と会場の笑いを誘い、福山は「撮影本番の直前に『ねえ、福山さんはいつスターになろうと思ったの?』と黄くんに聞かれて困った」と暴露すれば、(そんなこと、言ったかな?)といぶかしげな表情を浮かべる黄くんに対して「言ってたやん~」と苦笑いを浮かべるなど、元々は他人だった人たちが、<家族>になろうとしている直前の空気を捉えた、まさに映画の続きを見ているかのような、和やかな雰囲気に包まれたまま、会見を終えた。
(文・撮影:岡崎 匡)