映画『言の葉の庭』は万葉集の一篇から始まる“孤悲(恋)”の物語。靴職人を目指す高校生のタカオと謎めいた年上の女性ユキノが日本庭園で偶然出会うことから物語はつむがれていく…。
そんな作品で、実年齢よりも年上の役柄に初挑戦した人気声優花澤香菜に映画について語ってもらった。

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 本作は、『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』など、鮮烈なビジュアル表現で知られるアニメーション監督・新海誠の最新作。

 オーディションでヒロインの役を手にしたという花澤の演じたユキノは27歳。「自分より年齢が上で、そんな役は初めてなんですが、どうしても演じてみたくて25歳以上というオーディションを特別にお願いして受けさせていただいたんです」と語りだす。当時23歳だったという花澤は、役を手にしたとき「決まってびっくりしました」と驚きを隠せない。「舞台になったものを見せていただいたことがあって、ユキノさんに想いをはせ続けることができて、うれしいなって思いました」と素直な胸中を吐露した。

 ユキノとの共通点を聞いてみると「仕事をしてる上で、『自分はもっと変わりたいのに、何をしたらいいのか分からない』とか、常に自分と向き合っている仕事をしていると、自分との葛藤もあったりして、ユキノさんとは共通する部分がたくさんありました。働いている女性ならだれでも共感できる部分があるのでは…」と役柄を振り返る。さらに「(仕事の)辛いトラブルを抱えているユキノさんに同情してしまったりしながらも、普段の自分を自然に出していっていいんじゃないかなと思いながら演じていました」と語った。

 完成品を観た感想を尋ねると「まだ客観的に見れていないのですが、DVDを手元において、何度も観てみたいと思います」と心に染み入る物語表現や映像の美しさと映像にぴったりの音楽との相乗効果にすっかり魅了された様子。劇中、主人公のタカオとユキノ、2人を結びつけるきっかけとなる雨の描写は特に美しく、印象的だ。中でも公園で2人を襲うまるで台風のような豪雨シーンは圧巻だ。
「2人が嵐に巻き込まれる場面はすごく印象的でした。ずぶぬれで、もうどうなっちゃってもいいやって…。あんなときはもう笑っちゃうしかないですよね」。

 雨の日本庭園でのタタオとユキノの出会いに触れると「自然でしたね。なかなかあんなふうには出会えないかな。私ならよく電車で一緒になる人がいて、お互い意識し合って…。みたいな出会いに憧れますね…」と恋への憧れを楽しそうに話した。花澤は、実際に日本庭園を訪れており、気持ち作りに役立ったことも明かしていた。
 メガホンを取った新海監督の印象については「監督はほめ上手な方なんです。『今の良かったよ。でも、もうひとつのパターンも聞いてみたいな…。』って感じで(笑)」となごやかだったというアフレコ現場を振り返った。


 声優として大活躍中の花澤だが、普段からのどのケアは欠かせないと話す。普段からどんなことをしているのだろうか?「しっかり睡眠をとること。7時間は寝ないと滑舌が悪くなるんです(笑)。それと、マスクは欠かせません。豆乳はいつも飲んでいるし、生姜湯も飲んだりしています」と説明した。

 エンディングテーマ『Rain』は、大江千里作詞・作曲、KASHIWA Daisukeのピアノ曲と秦基博によるカバー曲。花澤は「秦さんの曲がエンディングテーマになると聞いて、秦さんのCDを買って聞いていて、すっかりはまっています(笑)」と語り、秦の透明な歌声と繊細でありながらも力強さを併せ持つ歌声にすっかり魅了された様子。

 最後に花澤は「今回実年齢よりも年上の役を演じさせていただいて、いい経験ができました。この作品に出会えて幸せだったと思います」と愛おしそうに作品についてコメントし、「どんどん惹きこまれていく作品で、観終わった後に、自分も前向きになれるなって思わせてくれる作品です。出演者の誰に共感するかで気持ちも変化すると思います。タカオとユキノ、2人にはこれからまだまだ時間があるなって…、余韻が残る作品になっています。美しい作品なので、とにかく観ていただきたいですね」とメッセージした。


 まるで小説を読むような味わいとテーマ性を持った作品。新海監督の手腕が冴え渡り、美しい映像から想いが、繊細な言葉からは情景があふれ出す。(取材・文・写真 福住佐知子)

 映画『言の葉の庭』5月31日よりロードショー
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