漫画やゲーム、映画に小説、ジャンルはなんだっていいのだけど、そうした創作物の中には「俺はこれが! これが描きたいんだ!」という作り手の魂の叫びが聞こえてきそうな作品がたまにあって、そういうものに出会えたときはすごく嬉しくなる。作者の情熱やパワーがこもった作品は、たとえ荒削りであっても絶対に面白いからだ。
最近何かと話題の『テラフォーマーズ』もまた、そんな作者の情熱が伝わってくる熱い漫画ではあるのだが、情熱の方向性がちょっと特殊である。
この漫画でフィーチャーされているのは、「ゴキブリ」なのだ。
【関連】漫画『テラフォーマーズ』1巻から5巻までの表紙画像
……ここでページをそっと閉じようとした方、わかる、その気持ちはすごくわかる。ゴキブリなんて現実でも見たくないのに、ましてやなぜわざわざ漫画で見なければならないのか。筆者も知人から説明を受けたときは、同じように思った。
しかし、である。たとえば「もやしもん」では菌があんなにかわいく表現されていたではないか。「みなしごハッチ」など虫をキュートに擬人化した作品だってないわけではないし、ならばゴキブリだってがんばればかわいくデフォルメできるのではないだろうか。
そう思いながらページをめくって驚いた。かわいくデフォルメどころか、さらにキモくなっていたのである! 『テラフォーマーズ』の舞台となるのは、現代から約600年後、西暦2577年というはるか未来の世界だ。しかし、物語のそもそもの始まりはそこから500年前にさかのぼる。
21世紀後半、地球の人口増加によって引き起こされる環境破壊やエネルギー問題などを懸念した科学者たちは、火星を人の住める世界に変えようと計画。
このテラフォーミング計画の内容が常軌を逸したものだった。なんと、火星に特殊な苔と、それを食べて繁殖するゴキブリを火星に大量に放ったのだ。こうすることでゴキブリが繁殖し、地表を覆い尽くし、真っ黒に染める。それが太陽光の吸収を促進し、星を暖められると考えたのである。……理屈はわからないでもないが、どう考えたってやばすぎる計画である。この設定だけで、作者の鬼才っぷりが伺えるというものだ。こんなやばすぎる設定、よく思いついたものだ。
そして、それから500年の時が経ち、西暦2577年。十分に暖まった火星から、今度はゴキブリを駆除するために地球から15名の乗組員を乗せたバグズ2号が飛び立った。星を覆うほど大量のゴキブリの駆除。失神しそうに気持ち悪い任務だが、しょせんは虫だ。
たとえばスズメバチをベースに手術を受けた小町小吉は獰猛な性格と毒針を、ニジイロクワガタの力を持ったマリア・ビレンは両腕が盾状に変化するといった特殊能力をそれぞれ持っており、この力を使ってゴキブリたちと戦いを繰り広げることになるのである。
おそらくこの「ゴキブリと人の戦い」こそ、作者が描きたくて描きたくてたまらなかった部分なのだろう。設定がぶっ飛んでいるとか、ツッコミどころが多いとか、そんなことはどうだっていいのだ。「ゴキブリ VS 人」の戦いを描くことを作者が心底楽しんでおり、それが突き抜けた面白さの原動力になっているのだから。
キモいかキモくないかでいうと間違いなくキモいし、ページのほとんどは戦いか残虐シーンばかりだし、ダメな人は本当に受け付けない作品だとは思うが、それだけにハマったときの破壊力はすさまじい。いったい今後の展開がどうなるのか、今続きが一番気になる漫画の一つである。(文:山田井ユウキ)
現在『週刊ヤングジャンプ』で連載されている『テラフォーマーズ』は、5巻まで発売中。
最近何かと話題の『テラフォーマーズ』もまた、そんな作者の情熱が伝わってくる熱い漫画ではあるのだが、情熱の方向性がちょっと特殊である。
この漫画でフィーチャーされているのは、「ゴキブリ」なのだ。
【関連】漫画『テラフォーマーズ』1巻から5巻までの表紙画像
……ここでページをそっと閉じようとした方、わかる、その気持ちはすごくわかる。ゴキブリなんて現実でも見たくないのに、ましてやなぜわざわざ漫画で見なければならないのか。筆者も知人から説明を受けたときは、同じように思った。
しかし、である。たとえば「もやしもん」では菌があんなにかわいく表現されていたではないか。「みなしごハッチ」など虫をキュートに擬人化した作品だってないわけではないし、ならばゴキブリだってがんばればかわいくデフォルメできるのではないだろうか。
そう思いながらページをめくって驚いた。かわいくデフォルメどころか、さらにキモくなっていたのである! 『テラフォーマーズ』の舞台となるのは、現代から約600年後、西暦2577年というはるか未来の世界だ。しかし、物語のそもそもの始まりはそこから500年前にさかのぼる。
21世紀後半、地球の人口増加によって引き起こされる環境破壊やエネルギー問題などを懸念した科学者たちは、火星を人の住める世界に変えようと計画。
火星の地中から大量に発見された二酸化炭素を暖めることで温室効果を引き起こし、地表の気温を人が住めるまでに上昇させる「テラフォーミング計画」を実行に移したのだ。
このテラフォーミング計画の内容が常軌を逸したものだった。なんと、火星に特殊な苔と、それを食べて繁殖するゴキブリを火星に大量に放ったのだ。こうすることでゴキブリが繁殖し、地表を覆い尽くし、真っ黒に染める。それが太陽光の吸収を促進し、星を暖められると考えたのである。……理屈はわからないでもないが、どう考えたってやばすぎる計画である。この設定だけで、作者の鬼才っぷりが伺えるというものだ。こんなやばすぎる設定、よく思いついたものだ。
そして、それから500年の時が経ち、西暦2577年。十分に暖まった火星から、今度はゴキブリを駆除するために地球から15名の乗組員を乗せたバグズ2号が飛び立った。星を覆うほど大量のゴキブリの駆除。失神しそうに気持ち悪い任務だが、しょせんは虫だ。
そう難しくはないはず。――しかし、火星に降り立った彼らを待っていたのは、500年の間に巨大化し、人に近い姿まで進化を遂げた凶暴なゴキブリモンスターだったのだ! ……並のホラーなど軽く凌駕するほどの恐ろしい話である。 しかし、本作は単なる奇抜な設定を引っ張るだけの漫画ではない。このゴキブリと人との戦いがとにかく熱いのである。なぜなら、実はバグズ2号の乗組員たちは皆、特殊な手術を受けており、昆虫の能力を手に入れた超人だったからだ。
たとえばスズメバチをベースに手術を受けた小町小吉は獰猛な性格と毒針を、ニジイロクワガタの力を持ったマリア・ビレンは両腕が盾状に変化するといった特殊能力をそれぞれ持っており、この力を使ってゴキブリたちと戦いを繰り広げることになるのである。
おそらくこの「ゴキブリと人の戦い」こそ、作者が描きたくて描きたくてたまらなかった部分なのだろう。設定がぶっ飛んでいるとか、ツッコミどころが多いとか、そんなことはどうだっていいのだ。「ゴキブリ VS 人」の戦いを描くことを作者が心底楽しんでおり、それが突き抜けた面白さの原動力になっているのだから。
キモいかキモくないかでいうと間違いなくキモいし、ページのほとんどは戦いか残虐シーンばかりだし、ダメな人は本当に受け付けない作品だとは思うが、それだけにハマったときの破壊力はすさまじい。いったい今後の展開がどうなるのか、今続きが一番気になる漫画の一つである。(文:山田井ユウキ)
現在『週刊ヤングジャンプ』で連載されている『テラフォーマーズ』は、5巻まで発売中。
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