ある死刑囚の告白から、“先生”と呼ばれる死の錬金術師による史上稀に見る凶悪犯罪が明るみに出るまでを追ったベストセラーノンフィクションの映画化『凶悪』。山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキーら豪華キャストによって、この恐るべき実話がスクリーンに映し出されることになった。


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 3人は「喜ばれることも、得することもない」という思いを口にする一方で「世に出さなければいけない」という強い使命感を抱いている。近年では珍しく、メジャー俳優陣総出演の邦画でありながら、本作に対する映画関係者の支持率は異常なほど高い。新人監督・白石和彌が放った『凶悪』の魅力とは何か? 主要キャスト3人に話を聞いた。

 闇に埋もれるはずだった“先生”による犯罪を白日のもとに晒した雑誌ジャーナリスト・藤井役の山田は「藤井というキャラクターもそうですし、脚本を読み終わって、即決という感じでした。この作品に携わりたい、この作品を世に出さなければという気持ちだった」と振り返る。リリー、ピエールとの共演にも惹かれたが「実際の事件であり、今後も同じようなことが起こるのでは? という問題提起をしたかった。娯楽エンターテインメントだけじゃなくて、色々なことを意識させる要素のある作品。自分をひきつける要素がそれだけあるということ自体が魅力的」と出演意義を改めて強調する。藤井は観客の視点となるべきポジションに位置するのだが、事件を深追いする中でその立ち位置は揺らぐ。山田自身「脚本上で気持ちの変化する部分に線を引いていったけれど、最終的に11段階もの気持ちの変化を作って演じました。髪の毛や洋服の乱れ、目の下のクマなど見た目も意識していった」と役者としてのポテンシャルを総動員して対応していった。 善良な市民の皮をかぶりながら、その裏では保険金殺人に嬉々として手を染める木村を演じたのがリリー。
優しげなおじさん、というパブリックイメージを見事に裏切り、通称“先生”を体現している。絞殺、撲殺、虐待と非道の限りを尽くす役どころだが、リリー自身は「今回の場合は、誰が悪人で誰が善人でという区別がないので、実はそこまで悪人を演じたという意識は希薄なんですよ」と意外なことを口にする。「その言い方も、もしかしたら先生の言い分に似ているのかもしれませんね」と実際の人物とのシンクロを挙げながら「映画では殺人はあくまで擬似ですが、演じていく中で高揚する気分も出てきて、実際の人たちも同じような気持ちだったのではないかと思いました。僕たちが世間話をして盛り上がって、加速して、それが日常化していくように、彼らにとって殺人はそんなことの延長だったのではないか」と分析。「バンジージャンプと一緒で、2回目からはもう怖くない、みたいな。そんな感覚があったのかもしれませんね」と一線を越えた人間の危うさを追体験した。

 そんな“先生”の存在を雑誌ジャーナリスト・藤井に告げたのがピエール演じる死刑囚の須藤だ。「こんな人が居酒屋にいたら逃げる」とリリーも太鼓判を押すほどのなりきりぶりとコワモテぶりは一見の価値あり。だが冷酷な殺人マシーンを演じたピエール自身は「被害者の数が多いということは遺族も多いということ。演じることでそことの繋がりも持たないといけないから、正直嫌でした。でも悩んでいたらリリーさんから電話がきて『やっちゃおうよ』という感じで、悪の道に引きずりこまれました」と苦笑い。かなりのバッドガイという役どころだが「実在の人をやるのも初めてだったし、悪いことをし放題という部分が単純に魅力的だったんでしょうね。
人間の心の底にあるような憧れと言うか」と抗えぬものが琴線に触れた様子。その一方で「俳優としてのスキルがない分、その人になりきるしかなかったんですね。想像して成り切ることに面白みがあったし、演じるキャラクターが自分から離れれば離れるほど面白いものなのかも」と熱演の舞台裏を明かした。

 映画『凶悪』は9月21日より全国公開。
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