待ちに待ったふたりの顔合わせが実現! スマイルとペコ(映画『ピンポン』より)、もとい井浦新と窪塚洋介が、前田司郎、第1回監督作品『ジ、エクストリーム、スキヤキ』で11年ぶりにガッツリと組み、息ぴったりの演技で魅せる。劇団五反田団を主宰し、「生きてるものはいないのか」で岸田國士戯曲賞を受賞。
小説家や脚本家としても活躍する前田の世界は、たびたび前田ワールドと称される通り、独特のものがある。観客をクスクスっと笑わせる、ちょっと“ダメ”なふたりを演じた井浦と窪塚が前田ワールドの魅力を語った。

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 「脚本は前田さん、そのまんま」と口を揃えるふたり。「これ、誤植じゃねえの?」と思うような、たとえば「、」から始まるセリフなども監督の狙いなのだというから驚きだ。物語はフリーターの大川(窪塚)のもとに、学生時代のある出来事以来、15年もの間絶縁状態だった洞口(井浦)が現れたことからスタート。なんやかんやで大川の彼女・楓(倉科カナ)、大学時代に洞口の恋人だったらしい京子(市川実日子)を巻き込んで、ドライブへ旅立つことに。

 最大の魅力は、洞口と大川の絶妙なセリフの掛け合い。アドリブのように自然だが、井浦いわく「セリフに関してはかっちり監督の言葉そのまま」。窪塚も現場で足したものは「ほぼない」と言い切る。とりとめがないようで、時に、これって実は大切なことを言っているのでは? と思わせる会話の数々。それは井浦も窪塚も強く感じていた。だが監督は、セリフの意味、ひいては物語全体で言わんとしていることを、ふたりにすら教えなかった。


 「監督、これってすごく大切なことを言おうとしてません? って聞くと、恥ずかしがりながら、いや、そんなことないみたいに逃げるんです(笑)(井浦)」。

 「肝心なことを言わない。設定に関しても言わないし、大川と洞口の絶縁のワケ、洞口は冒頭でなぜあんな行動をとっているのか。すべて教えてくれない。そこは汲んでくれってことなんだろうけど。この作品ってすごくアイリーな(気持ちいい)優しい雰囲気を持っているけれど、実は優しくない。勝手に感じて想像してごらん、みたいな。前田さんからの挑戦状(窪塚)」。井浦も「攻撃的だよね」と頷く。

 さらに監督から言われた衝撃的な言葉を窪塚が激白。「初日に、この作品は何の意味もメッセージもないので、掘り下げるようなことはしないでください、みたいなことを言われて。『監督!?』って。
でも逆にそれにみんなやられてしまって、掴まれてしまった。大黒柱じゃなくて、空気みたいな監督なんですよ」。 とはいえ、役作りは必要。洞口役の井浦が言う。「純粋に、目の前にいる洋介くん演じる大川との関係性から作っていった感じ。映画作りには珍しく稽古の期間が二週間あったんです。現場で初めて生まれるものも尊いけれど、この作品の場合は、現場に入る前に役者もスタッフもみんなが前田司郎という共通認識を持って入ったほうがよりよくなるというのが、稽古をやりながら確信できた」。

 「そうして作った緻密なことの匂いを感じさせないように、いかに力を抜いてやるかが本番の勝負だった。稽古やってよかったなんて現場はホント珍しい。俺も洋介くんも赤くメラメラ燃える炎をぼわっと出すのは割と得意だと思うんだけど、今回は炎の色を変える必要があった」。また実現した窪塚との再共演を「案の定」素晴らしいものだったと振り返ると、窪塚も「新くんには、ぶれようがない芯がある」と称え、互いへの信頼の固さをうかがわせた。

 窪塚が役作りで影響されたのは一番に、「前田司郎」。
「それと子供。自分の子供とか、それよりもうちょっと小さい子供のイノセントさを意識したかな。あとは俺の周りにいる天然の人も意識した。それを要所要所で使い分けるんじゃなくて、1回全部鍋の中に入れちゃう。すごい味のスキヤキになっちゃいそうだけど、まぁ、いいやみたいな。起きて二度寝しようか悩んでるくらいの自分を前面に押し出す感じでね。まぁ、とにかく一番は監督。意識せざるをえなかったし、インパクトないからある意味あるというか。かゆいところに手が届かないというか(笑)。でもそれはあえてで、そこを楽しんでもらう作品だから」と初体験の前田ワールドに多分に影響された様子。

 「すごく緩く感じるんだけど、頭の中はめちゃくちゃ緻密で繊細で、でもちょっと乱暴なのが前田監督の頭の中」と井浦も言う。「それを自分の血肉にしていくには、ライブ感だけじゃいけないんだなと感じました。
あと、監督は不完全なものを愛おしく感じるタイプの人なんだと思います」。ただ映画の現場を何も知らない前田監督が、最初からモニター前ではなくカメラ横にいたことに対しては、井浦も窪塚も「天才的だった」と驚いていた。

 出来上がった作品は「ものすごくホームビデオに近いノリ」と認めるふたり。その上で井浦は言う。「なんでもないことにも実は絶対に意味があって、なんでもない生活の中にも幸せは散りばめられている。そこを細かく漏らさず目を向けているのが前田監督。洞口は大川に再会して、一番輝いていたときの自分の気持ちを一瞬でも感じられた。でもそれが今後にどう繋がるかは自分次第。1歩も前に出る必要なんてない。ただ洞口にとってこの旅は、1歩前に出るきっかけのきっかけにはなったんじゃないかな」。

 そして窪塚も。「ちょっとダメなふたりがこんな映画になっちゃうところがいいっていうか。
観ている人も、自分の人生にもう一回スポットライトを当ててみるみたいなことを感じてもらえたら嬉しいし。否が応にもそうなっちゃったらもっと嬉しい。それこそ司郎前田の術中にはまったと。ゆるい空気の中で知らん間にホームビデオの5人目にされているっていうね。それが意外と心地よくて、ふと自分の見え方や道だったりが変わってしまう、そんな映画じゃないかな」。(取材・文・写真:望月ふみ)

 『ジ、エクストリーム、スキヤキ』は11月23日より全国ロードショー。

井浦新 スタイリスト:上野健太郎/ヘア&メイクアップ:樅山敦(Barber MOMIYAMA)
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