10月期ドラマも中盤に差し掛かってきているが、それにしても、特に今クールは『相棒』をはじめ、警察ドラマのラインアップが多い。しかも、来年1月の新ドラマでも檀れい稲垣吾郎主演『福家警部補の挨拶』(フジテレビ系列)や、杉本哲太古田新太『隠蔽捜査』(TBS系列)と警察ドラマの放送が発表されている。


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 なぜここまで警察関連のドラマが多いのか…。そこで、音楽評論家でありながら著書「『警察ドラマ』のトリビア」(竹書房)を執筆するほどの警察ドラマフリークである市川哲史氏と竹書房・編集担当の藤岡啓氏に昨今の警察ドラマの人気とその魅力を伺った。

 市川氏は「事件解決がメインなので、登場人物たちの色恋沙汰を描かなくてもいいから」と警察ドラマ人気の理由を分析。「この四半世紀、一般視聴者も現実場面で散々恋愛を経験してきていますから、生半可のラブストーリーでは嘘くさくてそう簡単に納得しなくなったのではないでしょうか。視聴者が、今最もリアルさを感じないのは、恋愛ドラマ。警察ドラマはその対極にあります。そして、基本的に1話完結なので、1週見逃しても大丈夫。そんないろんな意味での“安心感”こそが、警察ドラマブームの根幹と言えるでしょう」と話す。

 確かに日常茶飯事な恋愛と違い、警察組織や事件は視聴者にとって身近なものではないから多少現実離れしてもリアルさが損なわれることはないし、1話完結スタイルも多忙な現代に即しているのだろう。

 また藤岡氏も「昔はスポ根みたいな刑事ドラマやドンパチもので、やっぱり荒唐無稽だった気がするんですが、今はチームワークや警察内部の組織を描いた『踊る大捜査線』、謎解きのしっかりした『古畑任三郎』、その2つが合わさった『相棒』のような、大人の鑑賞に耐えうる作品が出てきて以来、いろんなドラマが粒揃いで出てきた気がします」と自身の見解を付け加えた。

 今シーズンは人気シリーズ『相棒season12』や、2時間ドラマの連ドラ化『刑事吉永誠一 涙の事件簿』のほか、『科捜研の女』『刑事のまなざし』『クロコーチ』『都市伝説の女2』『実験刑事トトリ2』と、まさに警察ドラマの百花繚乱状態。警察ドラマ視聴の達人というべき市川氏に、今期の作品を観ての感想を聞いてみた。


 「『相棒』はここ数年、物語的に懲り過ぎていた印象がありますが、今シーズンは若干“普通”に戻りつつある気がします。地味なネタの方が本来の『相棒』らしく愉しめるんですよね。『刑事吉永誠一』は、『踊る大捜査線』や『相棒』が登場するまで日本の探偵・刑事モノの系譜を支えてくれた、大雑把ならではの2時間ドラマのノリのまんまで製作してるその感じがいい。『都市伝説の女2』はやりすぎですが痛快です。一番キモのミステリー解明の部分をいい意味で“いい加減”にしてる姿勢が素敵です」。 洋邦問わず「ロック」を書き続けて30年、音楽評論家として活躍する市川氏だが、警察ドラマ好きがオーバードライブしてしまい、ドラマ『遺留捜査』のノベライズを執筆。この本に校正段階で監修として参加したのがドラマ本編の監修を担当した倉科孝靖氏だ。

 警察ドラマの監修を数多く携わる倉科氏は、刑事は当然、鑑識員、検視官、機動捜査隊長、科学捜査研究所長、警察大学校教授、渋谷警察署長と様々な役職を歴任。まさに“一人警視庁”というべきキャリアを歩んできているので、その話が面白くない訳がない。

 編集担当の藤岡氏は、「校正の場で市川さんと倉科さんの話がすごく面白いってことになりまして、いつか倉科さんの本を出せるといいなって話していたんです。やはり刑事ドラマは数字が取れますしブームですので、倉科さんの話を新書でお願いできたらって思っていたんです」

 10月に出版された著書「『警察ドラマ』のトリビア」は市川氏が倉科氏に質問するで、警察組織の詳細な解説はもちろん、日本人の心象風景の1つとなっている取調室の実際、さらに被疑者へ出されるカツ丼の有無まで、様々な謎が余すところなく解明されている。

 藤岡氏は「警察組織はすごい多岐に分かれてますから、どこにスポットを当てても面白いし、まだまだブームは続くと思いますよ。
「『警察ドラマ』のトリビア」を読んでドラマを見ると意外なことがよく分かり、ドラマをさらに楽しめると思います」と話している。(取材・文:しべ超二)
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