『惡の華』など若い世代から圧倒的な人気を誇る漫画家・押見修造が初期に描いた『スイートプールサイド』が実写映画化された。メガホンをとった映画『アフロ田中』の松居大悟監督が「どうしても映画化したい」と切望したコミック『スイートプールサイド』の生みの親である押見氏に、作品の誕生秘話や、実写化された作品への感想を聞いた。


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 毛のない男子と毛深い女子の秘密の関係を生々しく描いた本作。“剃毛”というマニアックなテーマの作品だっただけに、実写映画化の話が押見氏に来た時には「マジっすか」という驚きと喜びの感情と共に「大丈夫ですかね」という戸惑いもあったと言う。「ほぼ毛を剃っているだけで終わるマンガですからね。よく大人が許してくれたなって(笑)」。

 監督は映画『男子高校生の日常』などを撮った松居大悟。思春期の男女の悶々とした思いを生々しく描くことに定評のある監督だ。「『アフロ田中』を拝見して、作家性の強い監督だなって思ってたんです。自分とはスタンスも似ているのかなって。監督が『生々しくドキュメンタリーみたいにしたい』って仰っていて、僕もその意見には大賛成だったんです」。

 完成した作品は、息を飲むような剃毛シーンなど、思惑通り非常に生々しく仕上がった。「とても面白かったですね。自分の漫画の映画化ですが、前半の毛を剃るシーンが連続するところは、生の現場をのぞき見しているような感じで恥ずかしかった。
剃る方、剃られる方の感情が画面から伝わってきて、ドキドキしました。後半は松居監督らしく作家性がバシっと伝わってきて、観終わった後、心の底から『面白かったです』って言えました」。

 「青春剃毛映画」というキャッチフレーズがついている本作。押見氏はなぜ“毛”をテーマにした作品を描こうと思ったのだろうか?「この作品の前に書いていた『アバンギャルド夢子』というマンガが、男性器がテーマの作品で(笑)。男性器を見たくてしょうがない16歳の女子高生が、どうにかして男性器を見るためにヌードデッサンのある美術部に入部したり……という話だったんです。売れなかったんですけど、アンケートの結果が良かったので、そのラインでもう少しフェティッシュなものをという話になって“毛”にたどりついたんです」。 「僕が毛深くて嫌だったことだったり、肌がつるつるの男友達がいて、女の子に触れられていたり、そんなことを思い出しながら描いたんです」と執筆秘話を語ってくれた押見氏。実写化されたことにより、押見氏が描き出したキャラクターは須賀健太、刈谷友衣子という若手実力派俳優が演じることになった。「絶妙なキャストだなって思いました。でも試写で刈谷さんにお会いした時、とりあえず謝っちゃったんです。そうしたら『何で謝るんですか』って(笑)。こんな演技の上手な女優さんに演じてもらったのは嬉しかったのですが、原作者としては(剃毛される役なので)一抹の罪悪感がありましたね」と胸の内を明かした。


 映画公開を受け『スイートプールサイド』の読み切り番外編が「別冊少年マガジン」(6月9日発売)に掲載されている。「ノリノリで書きました。最初は登場人物の10年後、20年後を描こうという話になったのですが、映画を受けて、自分なりに毛を剃るシーンをもう1回正面から描いたらどうなるんだろうと考えました。それでマンガで描かれていない夏休みのある一日を取り上げたんです。映画の演出を重ねつつ、映画とマンガの両方を見て楽しんでいただけるようにしたいなと思って描きました」。

 今後の作品について「『惡の華』の連載が終わり、全部出し切った感があるので、今は全然違うモードになっているんです。『ぼくは麻理のなか』の連載は続いているので、それをやりつつ、さわやかな作品を描いてみたいですね」と押見氏は含み笑いを浮かべたが、「さわやかと言っても、これまで描いてきた作品も自分のなかでは、人の持つ普通の感情だと思っているので、そのあたりのテイストは変えず、表面的な部分で間口が広いさわやかさみたいな……(笑)」と抱負を語ってくれた。(取材・文・写真:才谷りょう)

 映画『スイートプールサイド』は6月14日より全国公開。
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