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自転車ロードレースにかける高校生たちの姿をそれぞれの背負うドラマと共に描く本作。自転車ロードレースならではの迫力に満ちた戦いも話題を呼び、TVアニメ化が実現。多くのファンを獲得した。劇場版で描かれるのは、アニメ第2期のその後の物語。シナリオは渡辺の書き下ろした新作ストーリーとなるが、「各校がインターハイでできなかった部分を劇場版でやりたかった。箱根学園も絶対にリベンジしたいだろうしね」と坂道が所属する総北高校はもちろん、ライバル校である箱根学園にも思いを馳せる。
ドラマのひとつの軸となるのが、坂道と卒業を控えた3年生との関係。中でも、イギリス留学を決意した巻島との心の掛け合いが見どころとなる。「進路を決めた時に、巻島が心残りにしているのは、自分が抜けた後のチームのこと。そして初心者クライマーの坂道のことだと思うんです。巻島は坂道に託したいことがあったはずですが、そのタスキを渡す部分はアニメでは描かれなかったので、そこはすごく書いてあげたいと思いました」。
様々な出会いを通して成長を遂げてきた坂道。スポーツ漫画の主人公が「アニメ好きなオタク少年」という設定が斬新だ。「以前、コミカライズをやらせていただいた『電車男』の主人公が、一歩進みながらも半歩戻って、それでも一歩一歩進んでいくというキャラクターだったんです。そういう男の子をもう少し描いてみたいと思って誕生したのが坂道」。また、「普通は、“絶対に勝ってやる!”みたいな人が主人公だと思うんです。でも、僕自身ロードレースをやっていますが、“人を押しのけてでも勝ってやる”というメンタルがあまりなくて(笑)。坂道には僕の中にある部分を相当、盛り込んでいます」と自らの思いを投影したキャラクターだと明かす。 さらに「主人公がエースのパターンがスポーツ漫画のほとんどだと思うけれど、エースを任される人は世の中の一握り。ほとんどがその周りにいて、助ける人。ロードレースだとアシストと呼びますが、アシストの人たちの動きって献身的で自己犠牲的で、見ていてとても面白い。坂道を主人公にすることによって、アシストの目からロードレースを描けたということで、すごくいいものができているいう気がしています」と晴れやかな表情。「主人公が、一番下から上を見上げて様々なことを知っていくからこそ、色々な人が描けた」と共感度抜群の坂道を主人公にすることにより、豊富なキャラクター勢が生まれたという。
「“ライジング坂道”と呼んでいるんですが、地平線の向こうから、あの頭と丸いメガネがドン!と上がってくると、“キターッ”という気持ちになるんです。彼から夢と希望をもらっています」と愛情たっぷりに語るが、こうして愛をたっぷり注ぎ込むからこそ、キャラクターがいきいきと輝いているようだ。「この人はこんな段階を経てきたんだろうなと想像したり、本当に“この人がいる”と思ってキャラクターをつくっています。すると口調も決まってくる。例えば、今泉と鳴子は言い合いをするけれど、今泉は絶対に鳴子を“チビ”とは言わない。今泉は性格が悪そうに見えるけど、身体的なことを指摘するようなことは絶対に言わないんです」。
キャラが豊富だが、「キャラ表はつくっていない」のだとか。「ある程度、かっちりと口調や設定を決めますが、それが縛りになってしまってはいけない。指先から出てくるものがすべて」と瞬間、瞬間の滾りをキャラクターに込める。ぜひスクリーンで、血の通ったキャラクターたちが魅せるドラマを堪能してほしい。(取材・文・写真:成田おり枝)
『劇場版 弱虫ペダル』は8月28日より公開。