大ヒットアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のスタッフが贈る完全オリジナルアニメーション映画『心が叫びたがってるんだ。
』。大きな注目を集める本作で、主人公に抜擢されたのが今、最も勢いのある若手
声優のひとり、
水瀬いのりだ。「言葉を失ってしまった少女」という難役を演じきり、彼女に起きた変化。自身にとっての転機までを明かしてもらった。
【関連】「水瀬いのり」インタビュー<フォトギャラリー> 話題作への抜擢に、「プレッシャーはすごくありました」と水瀬。悩みを抱えた高校生たちが、ミュージカルの発表を通して人との絆に気づき、心の殻を破ろうと葛藤する青春ストーリーだが、「普段、私が出ているのは魔法を使ったりだとか、女の子がたくさん出てくる作品が多くて。今回はアニメではあまり描かないような生っぽい、人間味のあるお芝居や描写が多いので、そういったお芝居の要素が自分にできるのか不安でした」とリアルで繊細な演技が要求される現場だったと話す。
演じるのは、何気なく発した言葉によって、家族がバラバラになってしまった少女・成瀬順役。そのトラウマから言葉を失ってしまった少女だ。「声が出せない人がいきなり叫んだときってどういう音になるんだろうと、(長井龍雪)監督とも相談をして。もうちょっとうわずるかもしれないとか、人との距離感がつかめなくて、割と近くにいるのに大きな声を出してしまうかもしれないとか、正解がわからない中で、監督と一緒に作り上げていきました」と演じる上では試行錯誤があった様子。
アフレコ現場では、思い切って演技プランをぶつけた。
「失敗を恐れていた部分もあったんですが、考えてみるとアフレコ現場は失敗してもいい場所なんだなと思ったんです。本番ではあるけれど、何度もそれをよくしていく作業なので、“失敗を怖がる必要はないんだ”と思うことが自信につながって。今回を機に、少し大きくなれたかなと思います」とにっこり。また、「順ちゃんがなんでも完璧にこなせる人間ではなくて、ダメなところがあって当然というヒロインだったんです。そう思うことがとても助けになりました」と、殻を破ろうとするヒロインと自身を重ね、難役に挑んだ。 「声優になりたい」との夢を抱いたのは、6歳くらいの頃。中学3年でデビューし、19歳となった2015年は『
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』『がっこうぐらし!』などメインヒロインを担う機会も増え、一躍人気声優となった彼女。「順調にステップアップしているイメージがあると思うんですが、デビューしてから初めてのレギュラーが決まるまで3年くらいかかっています。その3年はとても不安でした」と振り返る。
そんな中、今作のように「殻を破れた経験があるか?」と聞いてみると、2013年に出演した『恋愛ラボ』の存在をあげた。「学業の方も考えないといけないし、このまま頑張っていても将来どうなるんだろうと。自分のなりたいものにはなれたけど、お仕事が全然ない。
“これで最後にしよう”と思ってオーディションを受けたんです」と一度は
声優業への夢を諦めかけたことを告白。「そう思って受けた『恋愛ラボ』のオーディションで、受かることができたんです。それが私の初のレギュラー作品。毎週自分の名前がエンディングに流れるのを見て、本当に途中でやめないでよかったと思ったし、やっぱりこのお仕事がしたいんだと心から思って。同時に、ふわふわとした気持ちでやっていいお仕事じゃないんだという思いが芽生えた瞬間でもありました」。
かわいらしい声と容姿の裏側には、苦労の下で培った驚くほどの芯の強さがあった。「正解がわからなくて、もどかしさに振り回されている人たちのお話。誰かの背中を押せる作品になりました」と胸を張る本作で、水瀬いのりの魅力をたっぷりと感じてほしい。(取材・文・写真:成田おり枝)
『心が叫びたがってるんだ。』は9月19日より公開中。