川原礫の原作小説をアニメ化し、大ヒットを博した『ソードアート・オンライン』シリーズ。主人公キリトを演じる声優松岡禎丞は、キリトについて「一緒に成長してきた」と同志のような思いを口にする。
キリトを演じるようになって約5年。松岡にどんな変化・成長があったのか。『劇場版 ソードアート・オンライン ‐オーディナル・スケール‐』の公開を前に、胸の内を明かしてもらった。

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 シリーズ初の劇場版となる本作。AR(拡張現実)型の最新ゲームが登場し、キリトたちが新たな戦いに立ち向かう姿が描かれる。松岡は「まさかこう来たかと。進化していけばこういう世界が来るんじゃないかと思わせてくれる夢のある話。川原先生の頭の中をのぞいてみたい」と原作者が書き下ろした完全新作に大興奮。

 「キリトとアスナの物語でもあって。今回は、現実世界の問題が降りかかってきたりと、キリトのヘタレな部分も結構出てくる。どんどんアスナがお母さんのようになっていく」とキリトと愛を育んできたヒロイン・アスナの関係性も見どころだと言う。

 キリトを演じる上では「どんな状況でも諦めない心」を軸に演じている。
「劇場版でもそうですが、どんなに無理だと思うことでもキリトは絶対に最後まで諦めない。今回は現実問題に色々と不安を抱えたキリトも描かれますが、戦いに向かうキリトは絶対に不安がりはしない。僕も一ミリも不安に思わないよう、とにかく前に進むということを大事に演じています」。

 まさにこの姿は、松岡自身の声優業への挑み方にも重なる。「最初はどんなに不安がってもいいけれど、本番が始まったら絶対に出すものは出すし、絶対に迷わない。迷いは絶対に声に出てしまいますから。“足りないからもうちょっと”と言われるより、“出し過ぎ”と言われる方がいいのかなと思っています」。その全力の大切さは、本シリーズでのオーディションでも実感した。「受からないと思ったんです。とにかく、落ちてもいいから自分の考えてきたものを出そうと思って受かることができたので、それが自信につながっています。キリトと一緒に成長して来たという感覚がある」

 声優人生8年のうち、5年間をキリトと過ごしてきた。「最初は共演者の方とも全く話さなかった。
あの頃の自分には無理です(笑)」と自他共に認める人見知りな性格。先輩の松風雅也から「物語の主軸をやるならブレてはいけない。大黒柱として芯を持ってみんなを引っ張っていかないと」と言われたことが大きな力となった。 「最初は“大黒柱としてちゃんとしなければ”と、とにかく台本を読み込んで。だんだん演技だけでなく、現場の空気も良くしなければと思えるようになりました。昔は“怖い顔をして台本を読んでいるから、何を考えているかわからない”と言われたりして。共演者の方に不安を与えてしまっていたので、今は自分から現場の空気をよくしようと心がけています。今では『ソードアート・オンライン』の現場は勝手知ったる我が家のよう」。

 もうひとつ、松風からもらった言葉で成長の糧となったことがある。「違う現場の時でしたが、初主演作品の飲み会で、松風さんから“あの演技だったらお前以外でもできるよな”と言われたことがあって、僕はその時 “じゃあ、誰がよかったんですか!誰なら良かったんですかぁ!!”ってボロボロ泣いて。でもそこで松風さんが“他の役者ではなく、お前にしかできないことをやれよ”って。8年立った今でもそれがずっと頭の中に残っていて、あの言葉がなかったら自分は今ここにいないんじゃないかな」。


 「今でも現場は怖い。この仕事には正解がないし、年月を重ねるほど期待値やプレッシャーがどんどん上がっていきます。でもこの仕事に正解を見つけたら、成長できないと思う。たぶん死ぬまで苦悩していくんでしょうね。それ以上にみんなと一緒に進んでいくことや、友達や親友もできたりと楽しいこともたくさんあります」。彼の全力がキリトにピタリと重なる。やはり、松岡禎丞のハマり役だ。(取材・文・写真:成田おり枝)

 『劇場版 ソードアート・オンライン ‐オーディナル・スケール‐』は2月18日より公開。
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