岩井俊二監督の傑作ドラマをアニメ映画化する『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で、脚本・大根仁、総監督・新房昭之、アニメーションスタジオ・シャフトという最強タッグが実現した。「どのようにやればいいんだ」と戸惑いもあったという新房監督だが、そこで道しるべとなったのがヒロインの存在。
魅力的なヒロインを生み出す鍵や、自身にとっての転機を聞いた。

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 1993年に放送された岩井俊二の監督・原作・脚本によるドラマを劇場アニメ化する本作。転校してしまうヒロイン・なずなを救おうと、彼女に想いを寄せる少年・典道が夏の一日を繰り返す姿を描く。新房監督とシャフトによる『魔法少女まどか☆マギカ』や<物語>シリーズに魅了されていた川村元気プロデューサーから熱烈オファーを受けたが、「岩井監督のドラマはとても映画的。どのようにアニメに落とし込んでいけばいいんだろう」と悩んだ新房監督。

 はっきりと進む方向が見えたのは、「川村さんから、『キャラクターデザインは渡辺明夫さんでやれないか』とお話があったとき」と<物語>シリーズなどで新房監督と組んできた渡辺の存在が上がったときだという。「渡辺さんの描く女の子というのは、それなりの存在感がありますから、そのときにやっと『そういうことなのか』と落ち着いた」と描くヒロイン像が見えたことで、霧が晴れたという。

 ドラマでは奥菜恵がなずなに扮し、少女時代のきらめきを見事に演じきった。アニメとして登場したなずなも、正体をつかもうとするとスルリと逃げてしまうような、なんとも魅惑的なヒロインとなった。「ヒロインの存在感を意識しながら進めた。なずなの魅力は神秘性」と分析し、「男から見たら、よくわからないところが魅力。そういうところが出ればいいと思った」と話す。


 <物語>シリーズのヒロインたちも、「もっと知りたい」と思うようなキャラクターばかり。吸引力を持ったヒロインを生み出す秘訣を聞いてみると、「アニメは共同制作なので、描き手にも何らかの意思があるとそれが強く出たりする。もしかしたらスタジオに女の子を描くことにこだわっている人が揃っているのかもしれないですね。強い思いは画面に乗ってくるもの」とニッコリ。 さらに、なずなの声を演じた広瀬すずの輝きが影響したと続ける。「今回は早い段階でアフレコができたので、声の芝居を聴きながら作画をすることもできました。芝居に影響を受けて、ヒロインが出来上がった部分もあると思います。広瀬さんの演技は自然体ですごくよかった。キャラクターがそこにいるような感じで、声の芝居が成立していた」。

 また「菅田将暉さんも声優さんたちがやるのとは違うリアクションを見せてくれたりと、とてもフレッシュだった」と典道役の菅田との仕事も興味深いものとなり、「2人の間に入って、リードしてくれた宮野真守さんの力も大きい。お忙しいこととは思いますが、またぜひ組んでみたいですね」と声優陣のバランスもとてもよかったと自信をのぞかせる。

 シャフトとの仕事として、新たなチャレンジを果たした新房監督。
常に注目を集める監督となったが、自身の転機は「初めてシャフトでやった『月詠 ‐MOON PHASE‐』。あれがなければ、今のラインにはなっていない」と告白。

 「それまでは万人受けしなくてもいいと思っていた。でもあまりにも売れない(笑)。ちょっとわざとらしくても、何らかの反響がもらえるものをやってみようと思ったのが『月詠 ‐MOON PHASE‐』です。それなりの反応をもらえて、その方が楽しいなと実感した。シャフトはいつもチャレンジをしていますが、それも誰も見てくれないような方向のチャレンジではダメ。それではみんな報われないですから」。シャフトは「同じ方向を向いている」と感じられるスタジオだとか。これからも強力タッグでどんな作品が生まれるのか、大いに楽しみだ。(取材・文:成田おり枝)

 『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は8月18日より公開。
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