第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムードールを受賞した是枝裕和監督最新作『万引き家族』で、同居する家族から年金を当てにされる祖母・初枝をリアルに演じた樹木希林。カンヌの公式記者会見で、是枝監督から「いつも作品と向き合う姿勢に助けられ、頭が下がる思い」と称賛された樹木が、本作への思いとともに、自身の人生観についても赤裸々に語った。


【写真】柔らかな笑顔を見せてくれた樹木希林

 本作は、家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人との“真”のつながりとは何かを問い掛ける人間ドラマ。高層マンションの谷間にポツリ取り残された古い民家を舞台に、息子と協力して万引きを重ねる父・治(リリー・フランキー)、その妻・信代(安藤サクラ)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)、そして家主の祖母・初枝(樹木)らが織りなす人間模様を描く。

 映画監督で一番大切な資質は、「人柄」だと語る樹木。今回で6度目のタッグとなる是枝監督に対して、「どんなに才能があっても、大勢のスタッフ、キャストを一つにまとめる器の大きさがないと、映画監督は務まらないもの。是枝さんにはそれがある。もの作りの苦しさを背負いながら、彼は常に心が安定しているところが素晴らしい」と太鼓判を押す。役づくりに関しては、「自分なりに考えていっても却下されるので、最近は身一つで行って、帰ってくるだけね(笑)」とうそぶく樹木だが、是枝監督が「樹木さんを想定して脚本を書いた」という初枝役は、「人が壊れていく姿を表現したかった」という思いから、普段より髪を伸ばし、入れ歯を外し、形相を変えて役に臨んだ。

 今回、舞台となったのは、都内北部に実際にある古い平屋の一軒家。「この映画は、世の中から捨てられてしまった人たちのお話だけど、周りが高層マンションだらけのあの家は、“取り残された感”がすごく出てたわね。」とロケを振り返る樹木。ただ、不思議な磁力で肩を寄せ合う彼らに対しては、「私はどんな状況になっても、全て“自己責任”と考えるから、決して“かわいそう”という視点では見なかった」と思いを明かす。

 この家族のつながりについても、「私は“絆”という風には捉えていないの。お互いが“必要”とする気持ちでつながっていて、それはいつまでも続くものではないと思っているから。
ただ、行きがかり上、あるいは責任上、長くつながっちゃった、というのはあるけどね」とあくまでも冷静。さらに、「そもそも私自身、“絆”というものをあまり信用していない。それは、人に対しても、家族に対してもそう。信用しすぎたり、期待しすぎたりすると、お互いに苦しくなっちゃうから」と持論を展開した。 絆に対する考え方はもとより、体調の悪さを乗り越える術を“瞬間芸”と例えたり、オークション番組で「売るものがない」と自身の旧芸名(悠木千帆)を競売に出してしまったり、樹木の生き方は、人生を達観しているようで、どこか破天荒。それは本人も認めるところで、「私としては普通のことなんだけれど、芸能人としては珍しい生き方かもしれないわね。名前をどんどん売って行かなきゃいけない職業なのに簡単に手放すところなんか、全く執着心がない。絆に対しても頓着しないのは、そういうところから発生しているんじゃないかしら」。

 1970年代、『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』などで、樹木と共に一時代を築いた演出家・久世光彦氏が2006年に他界した。時を合わせるように、戦友を失った樹木は、「もう私がいる必要はない」と、スピードを要するテレビ界から、じっくりと作品と向き合う映画界へとフィールドを移したという。以降、樹木の活躍は説明不要、名実ともに日本を代表する映画女優となったことは言うまでもない。

 そんな樹木が出演する『万引き家族』が、いよいよ公開の時を迎える。
「世の中に対しても、政治に対しても、常にきちんと“人”を見ている是枝監督が思いを込めて作った渾身の一作。どうぞ、面白がって観に来てください」と最後はチャーミングな笑顔で締めくくった。(取材・文・撮影:坂田正樹)

 映画『万引き家族』は6月8日より全国公開。
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