2018年上半期のドラマは、特に“ホラーな女”が話題となった。『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)で主人公夫婦を引き裂く不倫相手を演じた松本まりか
モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』(フジテレビ系)で、目的のため邪魔者を軽やかに殺していく母を演じた山口紗弥加。そして、かつてない魔性の女っぷりが話題を呼んだ『あなたには帰る家がある』(TBS系)の木村多江だ。

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 2018年幕開け早々、「サレ妻地獄へ、ようこそ」という生々しいキャッチコピーでスタートした『ホリデイラブ』。夫に不倫された“サレ妻” 高森杏寿を仲里依紗、その夫・純平を塚本高史が演じた本作で、不倫相手・井筒里奈役を演じたのが松本だ。2児の母親に見えない茶髪ふんわりカールと舌ったらずな喋り方で純平を“運命の人”と信じ込み、夫婦の仲を裂こうとあの手この手で策略を巡らす姿は、ホラーそのもの。

 2000年にデビューした松本は、ドラマや映画、舞台など幅広く活動してきたが、特徴的なのはその声だ。アニメ声とも言えるかわいらしい声質は、実際『FINAL FANTASY X』のリュック役などゲームやアニメ界でも重宝されているが、ドラマでは少し浮きがちだった。しかし、里奈という“あざとかわいい”役柄にはぴったりとはまり、大きな反響が寄せられた。

 続く“ホラーな女”は、『モンテ・クリスト伯』で入間瑛理奈を演じた山口。警視庁刑事部長・入間公平(高橋克典)の後妻であり、入間の前妻の子・未蘭(岸井ゆきの)の家庭教師でもあった役だ。常に張り付かせた笑顔と猫なで声が違和感を喚起するキャラクターではあったが、目的のために邪魔者を平然と毒殺し続けていることが終盤で判明。その毒を平然と台所の調味料の中にまぎれこませて置いているあたり、サイコキラー感が満載だった。


 山口は『おんな城主直虎』(NHK系)、『女囚セブン』(テレビ朝日系)、『カンナさーん!』(TBS系)と、ここのところクールや役柄が多かったが、『モンクリ』のように厚化粧メイクと笑顔の裏に真意を隠すような役柄も得意。女優界の名バイプレーヤーとしての地位を確立している。 『モンテ・クリスト伯』にはもう一人、稲森いずみ演じた神楽留美という“ホラーな女”も。ディーン・フジオカ演じるモンテ・クリスト・真海の策略にはまり、かつて捨てた我が子と知らずに肉体関係を結んでしまうドロドロな役柄だが、真海に事実を明かされた瞬間、彼女は取り乱すでも絶望するでもなく、うれしそうに微笑むのだ。真海にまで“母の強さ”を感じさせ、ついには作戦変更までさせる、ある意味どんなホラー映画よりも恐ろしい瞬間だった。

 そして忘れてはならないのが、『あな家』の木村が演じた茄子田綾子だろう。一見、秀明(玉木宏)の妻・真弓(中谷美紀)と真逆のおとなしく貞淑な女性だが、「家庭を壊す気はない」と言いつつ「だから…時々でいいの。奥さんなんて呼ばないで、名前で呼んで」と涙目で訴えたり、自身の夫の前で堂々とアイコンタクトを取ってきたり…。第5話で出てきた「何で男ってああいう女にコロッとだまされるのかな。何で見抜けないかなー、ああいう女が一番たちが悪いって」という真弓のセリフに、首がちぎれるほどうなずいた視聴者は多いはずだ。

 “薄幸女優”とも呼ばれる木村。ドラマ『ブラック・リベンジ』(読売テレビ・日本テレビ系)や映画『東京島』などでは力強くしたたかな立ち回りを見せる女性も演じているのだが、それも幸薄いイメージがあってこそ。
一方で、『ボクの妻と結婚してください。』(BSプレミアム)のように、かわいらしく貞淑な妻もはまり役。今回はそんな“薄幸で儚げ”“理想の妻”イメージのままで“魔性の女”を演じるという、まさに木村多江にしかできない役柄だった。

 いわゆる“悪女”役は、ステレオタイプに演じてしまうとドラマ全体が陳腐になりがち。だが、この3作品でさまざまなタイプの“悪女”を演じた女優陣の“恐ろしい”演技力が、作品に深みと面白さを与え、さらなる話題性や高評価を得ることに大きく貢献した。下半期のドラマには、どんな“ホラーな女”=“恐ろしいほどの演技力を発揮する女優”が登場するか、注目したい。(文:川口有紀)
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