俳優の山崎賢人が主演するドラマ『グッド・ドクター』(フジテレビ系/毎週木曜22時)の最終回が9月13日に放送された。小児科医を目指しながら自身も自閉症スペクトラム障がいを持つという難役に挑んだ山崎だが、1クールを通して視聴者に演技力が絶賛される結果になった。
“俳優・山崎賢人”のキャリアの中でも、大きく記憶に残る作品になったことは間違いない。

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 もともと、2013年に大ヒットした韓国ドラマのリメイクである今作。医療描写の細かさや癖のあるキャラクターたちの相関関係など見どころは多々あったが、好評となったのはやはり主演・山崎の演技ゆえだろう。

 これまでも、主人公が自閉症スペクトラム障がいやサヴァン症候群を持つ設定のドラマは、草なぎ剛主演の『僕の歩く道』(2006年)、中居正広主演の『ATARU』(2012年)などがあった。しかし、ナイーブな問題をはらむため、どうしてもその“演技そのもの”について賛否両論が起こりがちだったのも事実。

 しかし今回、蓋を開けてみれば、第1話放送終了後から山崎の演技を称賛する声は見られても、批判する声はほぼ見られない。また、実際にそういった障がいを持つ人が身近にいる人たちからも「違和感がない」という意見も。この作品の撮影に入る前、山崎はかなり入念に制作陣とリハーサルを繰り返したという。その役作りへの徹底した準備が、この好評へと繋がっていったことは確かだ。

 また、山崎演じる湊はサヴァン症候群の特徴のひとつである驚異的な記憶力を持つため、病名や医療用語を次々と口にしてゆくシーンも多かった。目線、指先、体の使い方…全身に神経を張り巡らせるような演技を求められる中で、この膨大なセリフ量。相当にハードな現場だったのではないだろうか。


 個人的に今作のハイライトだと思ったのは第6話。かつて自身を虐待していた父親が、息子が医師となったことを知り会いに来る。幼少期のトラウマから最初は怯えていた湊だが、優しく近づく父親のことをつい信じてしまう。しかし結局彼の目的は金であり、湊には心の傷となっていた“兄の死”に関しても「お前が死ねばよかった」という酷い言葉を投げかけて去ってゆく。このあとの自身を責める湊の慟哭シーンは、最大の熱演シーンだったと言えるだろう。 山崎にはこれまで、どうしても“王子様”イメージがつきまとっていた。2014年から2016年頃にかけて出演した映画が『L・DK』『ヒロイン失格』『orange‐オレンジ‐』『オオカミ少女と黒王子』といった少女漫画原作作品で、ヒロインの相手役を演じることが多かったからだろう。山崎は少女漫画から抜け出たような“理想の王子様”にぴったりだったのだ。

 しかし、昨年からの活動を見ていると、その“王子様”イメージを脱却する方へと舵を切っているように思う。映画では『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』『斉木楠雄のΨ難』と、同じ漫画原作と言っても別ベクトルのキャラクターが続いた。

 ドラマでも、2017年10月期の『陸王』では主人公の息子として思い悩む“今ドキのリアルな若者”を好演。今年1月期の初単独主演ドラマ『トドメの接吻』では、欲望に忠実に動いていくクズ男のホスト役、と続いた。
そういった“振れ幅”を広く見せてきた近年の集大成が、今作『グッド・ドクター』の演技と言えるだろう。

 『グッド・ドクター』のプロデューサーを務めた藤野良太氏は、山崎が出演した2014年の『水球ヤンキース』、2016年の『好きな人がいること』も担当。彼をよく知り尽くしたスタッフ陣がいたからこそまた、俳優・山崎賢人の新境地へと二人三脚で進んでいくことができたことは想像に難くない。

 有望株のひしめき合う若手俳優の中でも、一気に“演技派”への階段を登った山崎。次はどのような顔を見せてくれるのか、楽しみにしたい(文・川口有紀)。
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