「私、止まることは大嫌い。ともかく、ほんのわずかでも、日々、一歩前進したいんですよ」。
笑顔でそう語るのは、数多くの名作アニメで主人公の声優を務めてきた声優界の生ける伝説・野沢雅子だ。1986年から『ドラゴンボール』シリーズで孫悟空を演じ続け、14日より公開の劇場版最新作『ドラゴンボール超 ブロリー』で再び悟空に声を吹き込んだ野沢に、本作に対する思い、声優としての矜持などについて聞いた。

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 悟空とベジータが、ドラゴンボールを使って願いを叶えようとするフリーザ、ブロリーと繰り広げる激闘を描く本作。野沢は両者の関係性について「基本的には、悟空の友達だと思っているんです。悟空って、絶対に悪い人がいないって思っている人ですから。ただ、たまたまブロリーのわがままが出ちゃっているから『だめだよ』ということで、戦いが始まっちゃうんだと思うんです」と考えを述べる。

 アニメ『ドラゴンボール』は1986年に放送開始となったが、これだけ続くシリーズになると思っていたか問うと「私ね、始まったときから、どのくらい続くかって、思ったことないんですよ。悟空と一緒に生きている感じですから。『あ、来週も皆に会える!』って感じです。それで、ふっと振り返ったら『30年もやっているの?』って」と頬を緩ませる。

 今でも欠かさずオンエアチェックをするそうで「微妙なところで『ここはこうやった方が、もっと良かったなあ』というのはあります。100点はないです。
見方が厳しいですから。100点を取ったらおしまいですよね」とのこと。洋画の吹き替えを経て『鉄腕アトム』でアニメ声優デビューを果たして以来、日本のアニメを引っ張り続けてきた彼女だが、入浴時の鼻うがいをのぞいて、特別な喉のケアは行っていないという。「人間、過保護にしちゃダメだと思います。自分にくっついているものなんだから。自然体で生きればいいと思うんですよ」。 そんな野沢は、常に高みを目指すという部分において、悟空と「重なるところがあるかもしれない」と話し、キャリアを通じて立ち止まりかけたことはないと断言する。「私は修行しているなんて思っていないんですけどね。でも自然と、好きなことをやっているわけだから。その好きなことに対して、プラスになることをやって行かなかったら、前には進みませんよね。私、止まることは大嫌い。ともかく、ほんのわずかでも、日々、一歩前進したいんですよ。
人から見たら止まっていると思ったこともあるかもしれないですけど、私としてはないですね」。

 声優として最前線を走り続け、ベテランの域を超え「神」と称される今もなお、自らを高めんとまい進する野沢は、声優業だけでなく、今でも自身が主宰する舞台を大切にしている。その精力的な活動のモチベーションの源は、彼女が持つ芝居への愛にほかならない。「芝居が好きじゃなくなったときには、またきっと違う道を見つけるんだろうし…そんなことはあり得ないと思うんですけどね。生きている間。息をしている間は、それはないと思うんですよ(笑)」。(取材・文・写真:岸豊)
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