巨匠ジェームズ・キャメロンが長年にわたり熱望していた木城ゆきとのSFコミック『銃夢』の実写映画化がついに実現した。『アリータ:バトル・エンジェル』と名付けられた本作の主人公、圧倒的な戦闘能力を誇るサイボーグ少女・アリータを演じたのは、映画『メイズ・ランナー』シリーズのローサ・サラザールだ。
パフォーマンス・キャプチャーを使った最先端の映像技術と、エモーショナルなローサの演技の融合によって圧倒的な存在感を見せるアリータ――。その舞台裏をローサに聞いた。

【写真】ローサ・サラザール、『アリータ』インタビューフォト

 映画『アバター』『タイタニック』という世界興収1、2位を独占している映画を手掛けた稀代のクリエイターであるジェームズ・キャメロンが、構想25年を費やした本作。スケジュールの関係で、キャメロンは監督こそ務めることができなかったが、脚本・製作を担当し、映画『デスペラード』や『シン・シティ』のロバート・ロドリゲスがメガホンをとった。

 世界中で注目を集める本作のヒロイン、アリータをオーディションで勝ち取ったローサは、「ちょうど3年ぐらい前になりますが、オーディションのことはよく覚えています」と笑顔を見せると「ロバートは私の演技を見て涙を流したんです」と裏話を披露する。

 オーディションでは、1~2シーン程度の台本で演技をすることが普通だそうだが、この作品では5シーン、11ページにも及ぶ長い場面が用意された。「シーンが少ないと、あまり幅のない演技を見せることになるのですが、このオーディションでは、アリータに必要なさまざまな感情を見せることができました。すごくありがたかったですし、私の演技で彼を感動させることができたということは、すごく思い出深い出来事でした」。

 オーディションの最中は、あまり多くを語らなかったというロドリゲス監督だったが、机の上にあった大勢の女優の写真の中から、ローサを探すと「僕の友達が、君と仕事をするべきだと言っていたんだ」と語りかけてきたという。そのとき、ローサは「私もそう思うわ」と発言。部屋を出たあと、ローサは「なんて生意気なことを言ってしまったんだろう」と一瞬後悔したが、「でもアリータというのは、こういう発言をする一面もあるから」と思い直したという。結果は合格。
「これが運命というものなのかも」と述懐した。

 大役を射止めたローサ。キャメロン&ロドリゲス監督というタッグについて「2人とも大きな結果を残してきた偉大なる人たちなのですが、まったく自分たちが上の立場だということを主張しないんです。とてもオープンで愛を注いでくれる。特にロバートは俳優を一番に考えてくれる監督。私の意見を尊重し、輝かせてくれる。とても学びの多い現場でした」と大いなる実績だけではなく、人間的にも尊敬できる人物だと強調する。
 “くず鉄町”に捨てられたサイボーグのアリータは、そこから周囲の人々との触れ合いによって“心”を宿していく。「何もないところからスタートする彼女の気持ちはすごく理解できます。私もゼロからのスタートだったし、自分が取るに足りない人間だと思うことや、不安な気持ちになることもあります。若いころって、誰でも大きな世界のなかで、自分が小さな存在だと思うことがある。そんな中、アリータの持つ強さや理想主義的なところはとても共感できます」。


 アリータが繰り広げる“自己発見の旅”。ローサは自身に重ね合わせ、丁寧に、そして感情的にアリータを作り上げていった。パフォーマンス・キャプチャー(三次元の人間の動作に、表情の変化もデジタルデータとして映像に取り組む技術)による人物造形についても「この技術によって、私はサイボーグにもなれたし、14歳の少女にもなれた。普通だったらできない役を演じられるというのは、俳優としてはとても魅力的」と語る。

 「違う人間になるとき、普段ならヘアメイクや衣装も大きな助けになるけれど、今回はまったく違うプロセスを経験できました」と語ったローサ。映画作りの最先端での撮影は、彼女の知的好奇心をくすぐったようで「常に挑戦すること、新しいことに触れることが私の目標なんです」と目を輝かせていた。(取材・文・写真:磯部正和)

 映画『アリータ:バトル・エンジェル』は全国公開中。
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