実力派俳優として、多くの個性的な映画監督から絶大な信頼を得ている若葉竜也。1歳3ヵ月で初舞台を踏むなど“芝居”と共に生きてきたと言っても過言ではない若葉だが、キャリアを重ねるごとに“演じる”ことに危機感が募ってきているというのだ―。


【写真】役柄とは違い髭を生やした姿でインタビューに登場した若葉竜也

 最新作映画『愛がなんだ』で若葉が演じているのは、深川麻衣扮する葉子に一途な思いを寄せる青年ナカハラ。デフォルメされた部分がなく、観客にとって等身大の非常に感情移入しやすいキャラクターだ。だからこそ若葉も「一番生々しくいなければいけない」と徹底的に“演じる”ということを排除することを心がけたという。

 「役者にとって、感情をあらわにするような演技ってすごく快楽だったりするんです。相手への思いが伝わらず、感情的になってボロボロ涙を流して気持ちを吐露するというやり方もあったと思うのですが、そっちにいくとナカハラという男が問題を解決できる人物になってしまう。それだとあまり共感できないと思ったんです。とにかく普通の一人の人間、誰もが感じるものを生々しく演じようと思ったんです」。

 本作のメガホンをとった今泉力哉監督は、若葉について「技術があるのにそれが前に出ない。人間味がめちゃくちゃある人」と評していた。今泉監督ばかりではなく、過去の映画出演作を見ると、石井岳龍監督(『パンク侍、斬られて候』)、冨永昌敬監督(『素敵なダイナマイトスキャンダル』『南瓜とマヨネーズ』)、宇賀那健一監督(『サラバ静寂』)、赤堀雅秋監督(『葛城事件』)など、作家性の強い監督たちとの仕事が多い。“力のある俳優”たちが出演している作品ばかりだ。

 若葉は「特に意識していません」と作品選びについては意図的ではないというが「自分が面白いと思った作品はどうしても参加したいという気持ちはあります。
自分の好みがたまたま作家性の強いものに偏っているのかもしれませんけれど」と語る。 現在29歳だが、キャリアは長い。今泉監督も「技術力がある」とコメントしていたが、そこに危機感を覚えているという。「ある程度映画をやってきて、悪い意味で技術がついてきてしまったという自覚はあります」と客観的な視線を向ける。続けて「そういう芝居って、観ている人にも小手先でやっていると見透かされてしまう。だからこそ、いつでもどんな役でも、その人物にならないといけない。演技したことない人がポンと作品に入ると、生々しかったりするじゃないですか。ある意味でプロになるということは、一番素人に近くないといけないと感じているんです。矛盾していますけれどね」と笑う。

 キャリアを重ねることによって、現場に慣れ芝居の技術も上がる。緊張感も薄れていく。若葉にとってそれが最も「危険なこと」だという。
最大のテーマは「慣れないこと」。そうしないと“限界”が来てしまうというのだ。現場へのアプローチ方法も変わった。以前は、クランクイン前日まで、きっちり台本を読み込んでいたというが、いまは撮影開始の2~3週間前までに一度セリフを入れて、そこからまったく台本を読まないようにしている。「現場によっては『セリフちゃんと覚えてねーじゃんか』と言われる危険性もあるのですが、演じる人物が発する言葉は、相手と対峙したとき生まれるもの。すごく怖いことですが、鮮度を失わない方法なのかなと」。

 普通ならキャリアを重ねることで、どんどん気持ちが楽になっていくと思われるが、若葉にとって“キャリア”が敵になる。「正直、これから30代、40代とやっていけるのかなと思う。本当は、バイトして普段の生活をしながら、5年に1回ぐらい映画に出演するというのが理想なのかも。いつでもバイトするぞ! という気持ちはあります」と苦笑いを浮かべる。

 とは言いつつも、本作で演じたナカハラはもちろん、若葉が演じるキャラクターがスクリーンに映し出されると目を追ってしまう。多くのクリエイターが放っておかない実力派俳優だ。
(取材・文・写真:磯部正和)

 映画『愛がなんだ』は全国公開中。
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