是枝裕和監督の最新作『真実』が現地時間8月28日、第76回ヴェネチア国際映画祭で日本人監督作品では初めてコンペティション部門オープニング作品として公式上映された。主演のカトリーヌ・ドヌーヴらキャスト陣と共に記者会見を行った是枝監督は、「今回作ったのは日本映画ではないものとしてみられているなと一番感じましたね」と語った。


【写真】是枝監督&メインキャストが集合 『真実』第76回ヴェネチア国際映画祭フォトギャラリー

 ドヌーヴ演じるフランスの国民的大女優ファビエンヌと、ジュリエット・ビノシュ演じる娘のリュミールとの愛憎を描く本作。是枝監督は「脚本が完全に固まる前の段階で、何度もお二人にお会いして、インタビューをさせていただき、女優という人生を送られている方の生の言葉を、どのように脚本に落としていくかという作業を、継続的な信頼関係のなかで、数年に渡って行っていきました」と明かした。

 主演のドヌーヴも「是枝は映画の中で演じる人物を少しずつ私たちに近づけることを考えていました。私の場合、映画に出演する時は、人物を演じるにしても、自分というものを作品に投入します」と語った。

 公式上映では約1030席の会場が満席となり、上映終了後は6分間のスタンディングオベーションが続き、是枝監督やカトリーヌ、ジュリエットらは、満面の笑みを見せながら、割れんばかりの歓声を全身で受け止めた。

 上映後の囲み取材に応じた是枝監督は、観客の反応について「最後にリュミールが娘を使ってお母さんにお芝居をしかけて、娘が戻ってくる前に自分でセリフを繰り返しているシーンで、結構いい反応が、笑いがおきていたので、あそこで笑いが起きるという事は物語全体をちゃんとつかんで1時間40分ついてきてくれたんだなという事なので、『あっ大丈夫だ』とホッとしました」と安心した様子を見せた。


 今回が3度目のヴェネチア映画祭参加となるが、「カンヌに比べるとレッドカーペットは階段がないので、すごくフレンドリーなんですよね。集まってきてくださった観客の方もフラットで、垣根がないので、なんとなく気楽にサインに応じられるところもあります」と笑顔。

 記者会見については「集まっている記者の数が、僕が経験した中でも圧倒的に多かったので、カトリーヌさんとジュリエットさんが揃うとこういうことなんだなと思って、驚きでした」と述べた上で、「今回作ったのは日本映画ではないものとしてみられているなと一番感じましたね。ヨーロッパの映画祭ってヨーロッパの文化の中で育ってきたものだから、日本映画含んだアジア映画ってどこか違う目線でみられている。今回はこちら(ヨーロッパ)の土俵で作った作品だと見られているとちょっと感じました」と、これまでの出品作とは違う感触を受けていることを明かした。

 受賞への期待について問われると、「僕はオープニングで満足ですね。
作るたびにコンペで受賞を期待されるのは作り手にとってはプラスではなくて、色んなものを作りたいと思っているなかで、今回は本当に軽いタッチで秋のパリの水彩画を描くように、日差しに溢れてほかほかするような読後感で、観客の方には劇場を出ていってほしいなと思っています」と語った。

 映画『真実』は10月11日より全国公開。