佐藤健を主演に、人気マンガ原作実写化へのプレッシャーを跳ねのけ、伝説をスタートさせた第1作『るろうに剣心』。その撮影時から、10年にわたって神谷薫を演じてきた武井咲が、シリーズラストとなる『るろうに剣心 最終章 The Final』で、剣心の過去に大きな衝撃を受けながらも、支えることを決意する薫を見事に演じきった。
しかしクランクイン前、武井自身は「不安だった」という。打ち破ったのは、大友啓史監督の言葉と、シリーズの仲間たち、そして「自分より大切な存在」を得た武井自身だった。
【写真】第1作の撮影時から10年、すっかり大人の美しさをまとう武井咲
◆「10年」――当時とは全く違う重みを感じている
第1作の撮影時、武井は17歳。「ポンっと子猫が入ったような、すごく頼りない存在だったんじゃないかなと思います」と、今やすっかり大人の女性としての雰囲気を漂わせる武井が当時を振り返る。
「お芝居の経験もまだ浅い時期に、こうした大作に携わらせていただいた。10年経って、当時と今とでは全く違う重みを感じています。健さんたちは、あの頃から、これだけの責任を背負ってやられていたのだと思うと、なんだかぞっとするくらいです」と、信じられないといった表情を浮かべる。
なにしろ世界中にファンを持つ大きなシリーズだ。その重みを改めて実感しつつ、完走した今は、安堵(あんど)の笑みを見せる。だが前作から時間を経てのクランクインには不安も。特に10代から20代になったことでのビジュアル面の変化が気掛かりだったという。
「男の人って、あまり変わらないですよね。
もちろんコントロールされているのだとは思いますが、みなさん全然変わらない。私なんて10代の時は、顔がパンパンでしたから」と苦笑い。「10代と20代ではやっぱり大きく違うんですよね。心配な部分はたくさんありました」と吐露。しかしそんな心配など軽く吹き飛ばし、武井は、『The Final』で過去作の薫の瑞々(みずみず)しさそのままに登場する。
実際、現場に入ると、すぐに薫に戻ることができたという。というのも、「『るろうに剣心』のメンバーとは、10年間ずっと一緒にいるような気持ち」だから。
「離れていてもずっと気にしているし、青木(崇高)さんとは毎年年賀状でお互い元気? とやりとりしたりして、みんな本当に親戚のような気持ちです。だから顔を見るだけで、『帰ってきたな』と、一気に当時に戻れました」と振り返る。
とはいえ、『The Final』だからこその緊張感もあったと口にする。「美術もすごいことになっていましたし、健さんの、最終章にかける熱量も、今までよりもさらに増していました。さらに“アップデート”していかなければという意識がひしひしと伝わってきて、またすごい景色が見られそうだという高揚感を覚えましたね」と、その興奮を思い起こした。
◆私の変化をどう受け取ってもらっているのか…
『The Final』のクランクインは2018年の11月。その年、武井には個人として大きな変化があった。前年に結婚した武井は、第1子出産を経ての撮影であり、本作の公開が、女優としての映画復帰作。クランクイン前の大友監督との久々の再会は、正直、「不安だった」と告白した。
「大友監督に、私の変化をどう受け取ってもらっているのだろう。私がどう見えているだろうと。でもお会いしたとき、監督はすごく温かな声で『おめでとう!』と言ってくれて、娘が生まれたことも喜んでくれました」と、心からホッとしたといった様子をにじませる武井。
本作で薫は、これまで自分が全く窺(うかが)い知ることのなかった剣心の過去を知るのだが、監督からは、「お芝居することの重みは、いろんなことを経験してこそ出るものがある」と声をかけられた。「すごくうれしくて。とても衝撃的な出来事に直面する薫を、今の私が演じるからこそ、監督は『重みのある成長した薫を見せられるんじゃないかと思っている』と。すごく心強い言葉でしたし、そこから、とてもフラットに、自分が素直に感じたように演じて大丈夫なんだと思えるようになりました」と、その言葉がとても大きかったと述懐した。
そんな監督の期待に、武井は応えた。
当時と変わらぬ若々しさを伴って登場した薫は、後半、剣心を包み込むような「母性」を感じさせるようになる。武井本人は自分自身から出る「母性」については考えたことがなかったと言うが、それでも「自分より大切な存在がいる。それは自分の中での大きな変化なのかもしれません」と今の自分を見つめる。『The Final』には、この10年が武井個人にとっても大きなものだったからこそ、生み出せた薫が、確実にいる。◆思いの乗ったアクションを観てほしい
これまでの邦画アクションの常識を凌駕(りょうが)してみせた大友組の『るろうに剣心』。完成した『The Final』と『The Beginning』を続けざまに観たという武井は、「圧巻でした」と感想を漏らした。
そして「2本が全然違った雰囲気で、同じシリーズなのにとても対照的なんです。それぞれを観て、本当に満足できるストーリーに仕上がっていると思います。やっぱり大友監督はすごいです」と感嘆しながら、『The Final』の戦いには、これまでと違うものを感じたと続けた。
「敵として縁(新田真剣佑)が登場しますが、単純にそうとは言い切れない相手なんです。今回は剣心の思いが乗ったアクション。アクションに、こんなに感情を感じさせられるのかと。
健さんの技だと思いますし、その“思い”の乗ったアクションは、『The Final』の大きな見どころだと思います」。
衝撃を受けたというアクションシーン。ちなみに武井ならどんなアクション“技”に挑戦してみたいか尋ねてみると、「え! 技!? やりたくないです。全然やりたくない!」と即答。「できないと思うくらいすごすぎたから?」と重ねて聞くと、「できないと“思う”というか、できません!(笑) 裏側を知っているからこそ、なおさら。到底できないことですが、だからこそぜひ観てほしいです!」と力説した。
ついに幕を開けた緋村剣心、最後の旅。剣心たちの戦いはもちろん、武井自身、「剣心のことを改めて知って乗りこえていく薫が、新鮮に映っていると思います」と振り返る、母になった武井だからこそ演じられた薫を、その後ろ姿まで、しっかりと目に焼き付けたい。(取材・文:望月ふみ 写真:ヨシダヤスシ)
映画『るろうに剣心 最終章 The Final』は公開中。
編集部おすすめ