映画『修羅雪姫』でのスクリーンデビューから、20年。釈由美子が、カナダ発のパンデミック・ホラー『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』で世界進出を果たした。
釈にとっては、2016年に第1子男児を出産してから、初の映画出演。自己肯定感が低く、とりわけ20代は「“闇”由美子だった」という彼女だが、「この子が元気に育つならば、自分のことはどうでもいい。自分のことで言うと、“無”ですね。見てくれもどうだっていい」と母になって、心境に大きな変化があったという。「今のモットーは、ハクナマタタ(=心配ないさ)!」と楽しそうに笑う釈が、海外での撮影を振り返るとともに、人生の転機を語った。
【写真】釈由美子、キュートな笑顔は健在!
■好奇心を力に海外進出! マネージャーも不在、単身で乗り込んだ
あるホテルの一室で謎の殺人ウイルスによる感染爆発が起こり、やがてホテルの廊下がのたうつ感染者たちで埋め尽くされていくさまを描くホラー映画。コロナ禍の世界を予言したかのような展開に戦慄(せんりつ)する本作で、釈は、日本からやってきた臨月の妊婦で、運悪くそのホテルに宿泊してしまうナオミ役を演じている。
今回のオファーは、「(フランチェスコ・ジャンニーニ)監督が、“影のある女性”というイメージで日本の女優を探していたところ、『修羅雪姫』や『ゴジラ×メカゴジラ』での私の演技を見ていただき、目に留めてくださった」と、これまでの積み重ねがあって実現したもの。「プレッシャーはたくさんあった」そうだが、「海外のものづくりの現場を見てみたいという好奇心もあり、断る理由はありませんでした」と思い切って飛び込んだ。
カナダでの撮影に向けて「半年間くらい、英語のレッスンに励んだ」と話す。「『英語でしゃべらナイト』(NHK総合)の出演からかなり時間が空いてしまったので、またゼロからのレッスン。子どもが寝静まった時間に、オンラインで英会話の先生に教えていただいたり、メイク中も英語のかけ流しをしたり」と睡眠時間を削りながら励んだものの、「モントリオールで撮影をしたのですが、モントリオールって公用語がフランス語なんですよ! もちろん、みなさん英語も話せる方ばかりなので助かりました!」と苦笑い。
マネージャーも同行せず、単身で乗り込んだそうで「アテンドしてくれる人もいないし、次の日のスケジュール確認も、すべて自分でやることになります。新人に戻って、武者修行に行ったような感覚。これまで経験できなかったことにたくさんトライできて、本当に行ってよかったなと思っています」と充実の表情を見せる。
■苦しかった20代「闇や孤独感に苦しめられていた」――『修羅雪姫』が転機に
今回、新たなステージへとチャレンジした釈だが、女優としての転機は、スクリーンデビュー作の『修羅雪姫』だと明かす。
「グラビアアイドルからデビューをして、バラエティーでは“釈ちゃん”と、不思議キャラのような感じで親しんでいただいて」と述懐。しかし「実は自分の中には、闇や孤独感があって、20代は結構それに苦しめられていました。“なんで私はこんなに救われないんだろう”、“誰か助けて”」ともがいていたといい、「バラエティー番組などでは、求めていただけるものに応えられるよう、“明るい釈ちゃん”としてニコニコしていなければいけないと思っていました。背中にチャックがあるような感じで、“チャック”由美子だった(笑)」と茶目っ気とともに告白する。
その闇の部分でさえ「自分の武器になる。これも個性なんだ」と思えたのが、『修羅雪姫』だったと続ける。「『修羅雪姫』では、それまでのバラエティーのイメージから振り幅のあるアクションにも挑戦させていただき、どこか影のある役をやらせていただいて。私の中の闇を発散させていただきました(笑)。
自分の抱えている闇の部分も、さらけ出していいんだと思えた」と開眼。「そういう役をたくさんいただけたらうれしいな、と思うようになった」と女優業に希望を抱くようになったという。
一体、釈が抱えていた闇や影の正体とはなんだったのだろうか。すると釈は「私は四姉妹の次女で、父親が一番ちょっかいを出しやすいポジションだったのか、“お前はバカだ”とおちょくられることも多かったんです。今なら父なりの愛情だったんだと分かりますが、そういったこともあって、どんどん自信や自己肯定感を持てなくなっていったのかもしれません」と思いを巡らせていた。■“求める愛”から“注ぐ愛”にーー「今のモットーは、ハクナマタタ」
本作の中では、感染の恐怖に襲われながらも、おなかのわが子を守ろうとするナオミの姿が印象的だ。釈は「ガニ股で歩いたり、“ヨイショ!”と動く感じなど身のこなしも含めて、妊娠していたときを思い出しながら、役作りしていました。感染が進んでくると、ナオミは立てなくなって、ほふく前進をするんです。そのときもおなかをかばうことを忘れずに、“この子を守るんだ”という思いで、前に進みました」と母の思いも投影した。
“母の強さ”を感じさせるナオミだが、釈は「子どもを産んで、自分自身ものすごく変化した」といい、「自分のことを振り返る時間がなくなったので、いい意味でも、悪い意味でも、クヨクヨしなくなったと思います」と清々しい笑顔を見せる。「うちの子は、5歳の男の子。やんちゃ盛りで、毎日が戦場のよう。
ふと気づくと、お仕事以外では、ドライヤーで髪を乾かしていないかも」。
それは彼女の孤独感にも影響を及ぼし、「今までの私の自己肯定感のなさって、つまりは承認欲求の表れだったんだと思うんです。“自分を見てほしい”、“愛してほしい”って。そういった“愛をちょうだい”と求めていたものが、唯一かけがえのないものに対する、“注ぐ愛”へと変わった」としみじみ。「今は、この子が元気に育つならば、自分のことはどうでもいい。笑いジワがたくさんできてもいいと思っています。だって母親がニコニコして家にいるのって、子どもにとって一番いいことですよね。もちろん怒ることもたくさんありますよ! お風呂上がりに『ライオンキング』を歌いながら裸で走り回ったり、うちの子、なにをするか分からないですから」と楽しそうにほほ笑む。
せわしない日々を笑顔で過ごすうちに、身につけたのが「ハクナマタタ(=心配ないさ)」の精神。「こうして、今の私にお仕事をいただけていることは、本当にありがたいことだなと思っています。コロナ禍になって一層、エンタテインメントの重要性を実感しています。少しでも、皆さんに楽しさや勇気を与えられるお仕事ができたらうれしい」と心を込める釈だが、なんと海外進出第二弾も、すでに撮影済みなのだとか。
「『ゴジラ×メカゴジラ』の大ファンだという監督から、お声がけをいただいて。日本では、まだ公開が決まっていないんです。ハリウッド進出というつもりもなく、日本であれ、アメリカであれ、どこの国の作品であったとしても、“釈にやらせてみたい”と思っていただけるなら、そこに対して全力を尽くしたい」と力強く語る。これまでの経験が糧となり、彼女の周辺にいい風が吹いているよう。人生の年輪を刻んだ釈由美子は、穏やかで温かなオーラに満ちあふれていた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
映画『ロックダウン・ホテル/死・霊・感・染』は7月2日より全国公開。
編集部おすすめ