映画『リリイ・シュシュのすべて』で鮮烈な俳優デビューを飾ってから20年が経ち、34歳になった市原隼人。中学校の教師・甘利田幸男(あまりだ・ゆきお)とひとりの生徒が「給食をよりおいしく食べる」ために火花を散らす、キャリア十分にして新境地を開いたと言える主演ドラマ『おいしい給食』のシーズン2が放送中だ。

給食への愛がダダ漏れの教師・甘利田を演じ、役者として新たな顔を見せている市原。「ほかの作品とははっきり違う」向かい方をしていると言う本作に懸ける熱い思いから、役者という生業への持論、さらに、これからどんな“顔”になっていきたいかについて、思いを語ってもらった。

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◆「この作品への思いはとても強く、ほかの作品とははっきり違います」

 「僕は役者なので、笑わせたいのではなく、笑われたいんです。チャップリンが『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ』と言っていますが、甘利田もそうでありたいと思い演じました」と語る市原。2019年に放送されたシーズン1、熱心なファンを獲得して公開された劇場版で、甘利田として十分に“笑われて”みせた。

 そして「続編ができるというのは、ひとえに作品を支持してくださるみなさまのお気持ちの賜物(たまもの)です。シーズン2のクランクイン前日は、そんなみなさまの気持ちに応えたいと気持ちが入り、寝ることができませんでした。綾部(真弥)監督も、熱が入ってしまい、初日で声が枯れてしまって(笑)」。

 喜びゆえの反省が漏れるほどに市原の気合は十分。実際、シーズン2での甘利田はさらにパワーアップしている。給食を前に、校内放送で流れる校歌に合わせて、ついルンルン気分で体が動き、もはやダンスの域に入ってしまう甘利田。その姿は前シーズンでも話題を集めたが、徐々にギアを上げていった1とは違い、2では1話からフルスロットルだ。


 「実はシーズン2ではその回のストーリーに合わせて、校歌に合わせる動作を微妙に変えています。よく見ていただければ分かるかなと。ドラマで使われているのは少しだけですが、撮影では全力で何パターンも考えて動いています。夏の撮影だったので、汗だくでした。本当に大変な現場でした」とうれしそうに話す。そして「この作品への思いはとても強く、ほかの作品とははっきり違います」と断言する。

◆新たなヒロインが登場 前作のひとみ先生とはどうなった!?

 前シーズンの常節(とこぶし)中学校から転任し、黍名子(きびなご)中学校の3年1組の担任となった甘利田。新たに同僚となった、甘利田の給食愛をいぶかしがる、生真面目な学年主任・宗方早苗(土村芳)と徐々に距離が縮まっていくのも今シーズンの見どころ。なのだが、ここでどうしても聞きたいことが。前シーズンでそこはかとなくいい感じになっていた、新任教師・御園ひとみ(武田玲奈)とは、その後どうなったのか…。

 市原に詰め寄ると、「綾部監督いわく、甘利田は恋多き男で、不器用。寅さんのごとく、行く先々で恋をしてしまうらしいです(笑)。
もしかしたら、甘利田は恋愛だとは思っていないのかもしれませんね。ただ、甘利田が自然に発した言葉や態度が、周りにはすごく刺さるものだったり、翻ろうされるものだったり、道徳的な本質を突き魅了するものだったりするのかもしれません」。

 最初は突飛な言動を繰り返す、ただの個性的な教師にも映るのだが、早苗が葛藤し始めるように、まっすぐな甘利田の姿には、笑えるだけでなく、「道徳的な本質を突いている」ことが見えてくる。そして終盤に向かうにつれ、視聴者のハートも射抜く。◆リアル中1から中3に “神野ゴウ”佐藤大志の成長にビックリ

 寅さんぶりは横に置くとして、シーズン2でも、軸は給食愛と、中1から中3へと成長してふたたび甘利田の前に現れたライバル・神野ゴウとの対決だ。神野の成長に、シーズン1を見ていたファンは心底驚いたが、甘利田と同様、並々ならぬ給食愛を抱えた神野を演じる佐藤大志も、リアルに中1から中3に。市原も、佐藤とは前作以来の再会となった。

 「声変わりもしてましたからね」と衝撃を振り返る市原。「まさに甘利田が神野に言っていた通り、『デカく』なっていました(笑)。大志の本質は変わっていませんが、役者としても大きくなって、『甘利田をいじくりまわしてやろう』と憎ったらしい表情をするんですよ。本当にかわいらしいです。いつもモニターを見てほほ笑んでいました。
わが子を見るような気持ちです」と目じりを下げた。

◆「覚悟を持った“顔”になっていきたい」

 俳優デビューから20年。市原は役者という生業について、「常識と非常識を同じだけ理解して、同じだけ持ち合わせていないといけない」と分析しながら、「そうしたなかで、覚悟を持った“顔”になっていきたいです」と、真摯(しんし)に語る。

 「これまでに、さまざまな現場を経験してきました。ビジネス色の強い作品、精いっぱい夢を乗せて走らせている作品、いろいろな形がありますが、それらすべてが正解なんです。作品にはいろいろな作り方がある。そこで生きながら、自分が思う俳優像をしっかりと持ち得ていきたい。日本人ですから、いつか大輪の花を咲かせて散りたい。一世一代の芝居をしてみたいと思っています」と熱を帯びながら、同時に「でも芝居には正解はありません。いろんなことに感化され続けたいですし、常に未完成でありたいと思っています」と語った。

 新境地を開き、ますますいい「顔」を見せてくれる市原。未完成のままに進化していくそのさまを、見続けていきたい。
(取材・文:望月ふみ 写真:松林満美)

 ドラマ『おいしい給食 season2』は、テレビ神奈川、TOKYO MX、BS12トゥエルビほかにて放送。

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