大人気シリーズ「キングスマン」の最新作『キングスマン:ファースト・エージェント』。コロナ禍による幾度もの公開延期を耐え、ようやく日本お目見えとなる今作の日本語版に、『進撃の巨人』『七つの大罪』など多くの代表作を持つ、人気声優の梶裕貴が参加した。
実は、洋画吹替のオーディションに合格したのは「初めて」と驚きの告白をした梶に、アニメのアフレコ、洋画吹替、それぞれの魅力や、「キングスマン」のキャッチコピーになぞらえ、「何が梶裕貴をつくったか」に迫った。
【写真】梶裕貴、“紳士”なスーツ姿 撮り下ろしフォト
◆人気声優のオーディション秘話にビックリ
第1次世界大戦前夜のヨーロッパを舞台に、スパイ組織キングスマンの誕生秘話を描く、エピソードゼロというべき今作。梶は、世界に迫る危機を前に立ち上がるオックスフォード公(レイフ・ファインズ/日本語版吹替:小澤征悦)の息子で、正義感の強い青年・コンラッド(ハリス・ディキンソン)を演じた。
「劇場公開される吹替作品のオーディションは、これまでにも受けさせていただいてきましたが…最終的に、その役で合格したのは初めてなんです」と驚きの告白をした梶。「ひとつの夢が叶いました」と感慨深げな様子を見せながら、それが本作になった喜びを口にする。
「過去2作を拝見し、噂に違わぬ…いや、それ以上の面白さと魅力をを持った極上のエンターテインメントだなと感じていました。硬く美しい印象のある“英国紳士”と、“スパイアクション”が見事な融合をみせた傑作! 本作では、ついに『キングスマン』の誕生秘密が明らかになります。そんなすてきな作品において、今回、非常に重要な役を演じさせていただくことができ、とてもうれしく思っています」。
◆『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は今でも自分の核
念願叶って合格をもぎ取ったオーディションだが、洋画吹替自体には、子ども時代からよく触れていたと振り返る。
「父が映画好きだったので、『金曜ロードショー』や『日曜洋画劇場』といったテレビ放送で、よく吹替映画を観ていましたね。なので、子ども時代の僕は、そんなふうに、ごく自然な形で、吹替というものに触れる機会と出会っていたのかもしてません」。しかし、幼い頃は、“声優”という職業を意識していたわけではなかった。
「よくよく考えてみれば…まだ今よりもグローバル化が進んでいなかった当時の日本の子どもにとって、外国の方が、流ちょうな日本語でしゃべっているというのは、どこか不思議な光景にも見えたはず。でも、それを何の違和感もなく、当たり前のように受け入れられていたというのは、きっと吹替えという文化や技術に、さまざまなものを超越した何か…すごみや面白さといったものを、無意識のうちに感じていたんだと思います」。
その超越させる力は、プロフェッショナルたる声優の技が生み出していることは間違いない。今では超越させる側となった梶。声優を目指し始めたのは中学2年の頃だが、子ども時代も今も、ずっと憧れ続ける役がある。
「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、自分にとってとても大きな作品。初めて耳にしたのは三ツ矢雄二さんのマーティで、永遠の憧れですね。僕もいつかマーティのような役を演じられたらと、ずっと思い続けています。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティと、『タイタニック』のジャックは、僕の吹替の原点です」。
◆「アニメアフレコ」と「洋画吹替」 似て非なるそれぞれの魅力
アフレコと吹替、それぞれの仕事を数多く経験してきた梶。似ているようで別物でもある、それぞれの魅力、楽しさをどこに感じているのだろうか。
「アニメアフレコの場合は、画に合わせる部分も当然ありつつ、声のボリュームや、クリアさ、言葉の粒立て方といったものは、基本的には声優に委ねられます。
なので、お芝居をゼロから作れる楽しさがありますね。それから相手役の演技を受けて、自分でも想像していなかったような表現が、現場で生まれることもあります。そういった部分が面白いですかね」。
対して吹替は「より専門的なスキルが必要になる」という。
「まず、自分より先に演じてらっしゃる役者さんがいますよね。なので原音を聞きながら、その方の呼吸に合わせてしゃべらなくてはならないわけです。そのうえで、役者さんが表現されている言葉の波や動きを汲みとってお芝居をしていく。ただ、俳優さんの演技そのままの声量やニュアンスをそのまま日本語として音にすると、逆にミスマッチしてしまうこともあるんです。その物語に生きている登場人物を、どうすれば、日本人がより楽しんで受け入れられる形にできるのか…そういった部分も考えていかなければならないんです」。
◆「何が声優をつくる?」&「何が梶裕貴をつくった?」
さて、『キングスマン』シリーズの印象的なキャッチコピーに、「マナーが紳士をつくる」がある。改めて、「何が声優をつくる」のか、尋ねてみると、「何が、声優を…。うーん…」とかなり悩みながら、次のような答えを出してくれた。
「経験値と想像力、ですかね。アニメも吹替えもゲームも、すべてのジャンルに言えることですが…やはりイメージする力がなければ、人に伝えるため・届けるための表現はできないと思うんです。日常ではまずあり得ないような、不可能なシチュエーションを想像する力もそうですが…それ以上に、自分以外の人の気持ち、他人の思考を想像する力も大事です。ドラマって、人と人との気持ち、そのやりとりから生まれるものだと思うので。
そして、経験値。これは声優としての経験値というより、人間として、自分自身が生きてきたなかで積み重ねてきた経験の数です。自分が今まで感じてきたことを、さまざまな形で、何倍にも膨らませて表現する。他人の気持ちを想像するには、自分自身の人間としての経験値が必要になってくると思うんです」。
最後に、では「何が梶裕貴をつくった?」とさらに突っ込んでみた。
「中学生の頃に声優になりたいと思い、目指しはじめ、そこから20年以上。気持ちはずっと変わりません。だから、僕のほとんどは『声優になりたい、声優をやりたい』という気持ちでできています。
常に、もっとうまい声の役者になるためにはどうしたらいいのか、それを考えています。だからもう『梶裕貴は声優でできている』と言ってもいいかもしれません(笑)」と、そうほほ笑む梶。強い思いで、これからもさまざまな世界へと観る者を引き込んでくれるだろう。(取材・文:望月ふみ 写真:松林満美)
映画『キングスマン:ファースト・エージェント』は全国公開中。
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