北朝鮮は、国内事情が厳しくなるほど、引き締めを図るために思想教育を強化する傾向にある。

「反韓流三法」と言われる反動思想文化排撃法、青年教養保障法、平壌文化語保護法を根拠に取り締まりと教育を強化している。

彼らを「共産主義の未来に向かって燃える革命戦士」にしたいと本気で考えているのかどうかはわからないが、若者が思想の押し付けを鼻で笑っていることだけは確かだ。

軍事境界線を挟み韓国と対峙している開城(ケソン)でのエピソードを、デイリーNKの内部情報筋が伝えた。

市内の食料工場では先月13日、定期学習会が開かれた。テーマは「自力更生の革命精神を高く発揮し、社会主義建設をさらに加速化させよう」という、いかにも内容がなさそうなものだった。

講師は講義に入る前、「終了後にこのテーマで討論を行う」と予告して、話を始めた。朝鮮労働党開城市委員会(市党)の宣伝扇動部は、今回の定期学習の資料を講師に渡す際に、受講者の集中度を高め、学習効果を拡大するために、その日のテーマで活発に討論を行うよう指示していた。

講師が話した内容は、「今こそ自力更生の旗の下に社会主義建設を進めるときだ」「自力更生の革命精神を発揮して、工場の生産力を高めることで、社会主義経済の発展に貢献しよう」という、何百、何千回も聞かされたようなくだらない話だった。

講義が終わり、講師は「さあ、議論を始めましょう」と促したが、挙手する者は誰もいなかった。参加者の多くは、眠気との闘いに負け、座ったまま居眠りをしていたのだ。

講師が再度、討論を促しても、口を開く者はおらず、その場には微妙な空気が流れていた。しばらくして、ある女性労働者が沈黙を破った。

「わが工場でも自力更生をしています」

その内容はこんなものだった。

「倉庫の扉が壊れたのですが、修理に必要な部品が足りなかったので、ペンチで針金を曲げて部品を作り、自主的に解決しました」

その場には何とも言えない空気が流れたが、やがてひとりが笑い始め、つられた他の人々も笑い、大爆笑となった。

困ったのは教壇に立っていた講師だ。

「それももちろん自力更生ではあるが、大切なのは工場の生産成果を挙げるクリエイティブな方法を探ることです」

そう言って、その場の雰囲気を収拾しようとするも、受講者はすっかり上の空。そのまま講義を終えた。

受講者は珍しく満足げな顔をして学習室から出てきた。

「あの発言のおかげで今日の学習は退屈しなかった」
「自力更生が何か知らずにあんなことを言ったわけがない。耳にタコができるほど聞かされて(嫌になって敢えてあんな話を)ぶつけたのだろう」

興味深いのはこんな感想だ。

「もしあれを言ったのが男性だったら、空気が凍りついていたはずだけど、女性が言ったから笑って済ませられた」

男性には真摯な議論が求められる一方で、女性にはその場の空気を和らげる感情労働的な役割を求められているということだろう。

このエピソードを聞いた市党の担当幹部は、「労働者が党の求めることをいかに実践するかを考えるきっかけとなった」とアクロバティックな擁護をした上で、今後も討論を積極的に開いていくとした。

国から予算や資材が供給されず、機械が故障しても部品すら交換できないような状態で、自力更生も何もあったものではない。地元の党委員会もそんな現状を知らないわけではないだろうが、平壌から指示されたため、それを伝えざるを得ないのだろう。

上部から指摘されたときに「言われたとおりにやった」と取り繕えるようにするために、時間と予算をドブに捨てながらやっている。

こんなくだらないことを続けている限り、北朝鮮の自力更生はいつまで経っても実現しないだろう。

編集部おすすめ