北朝鮮で「庶民の敵」と言えば、権力を振りかざしワイロを搾取する保衛員(秘密警察)や安全員(警察官)がまず思い浮かぶが、それだけではない。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、清津(チョンジン)市に住んでいた女性Aさんは、年齢は20代半ばながら、ヤミ両替商を営む美人社長で知られていた。
自国通貨を全く信用していない北朝鮮の人々は、資産を米ドルや中国人民元に両替して貯蓄する。当局は、「両替するなら国営銀行や両替所を使え」と呼びかけているが、レートが悪い上に、どれくらい資産を有しているかが筒抜けになり、地元政府の幹部からたかられるリスクがたかまるので、利用する人はあまりいない。
代わりに町の至る所にいるヤミ両替商を利用して両替するのだが、これは違法行為だ。当局は、昨今の通貨安やそれに伴う物価高騰をヤミ両替商のせいにして、取り締まりを強化している。
情報筋によると、清津市検察所の検事である30代半ばの男Bは、取り調べと称してAさんを呼び出しては、泣き叫んで嫌がる彼女に様々な「ワイロ」を要求した。
B検事からの強要を振り切れる状況になかったAさんは、泣く泣く要求に応じていたが、そんな関係についに耐えられなくなり、今年4月には別の男性と結婚することにした。それを聞いたB検事は逆上し、Aさんを真夜中に呼び出し、何らかの鈍器で殴って殺害した。
検事がこのような事件を起こすのは珍しいが、普段から安全員や保衛員の横暴に苦しめられてきた市民は、怒りをあらわにしている。
「この社会は無法地帯も同然だ」
「司法機関の人間のほうがもっと恐ろしいレベルで法を破っている」
Aさんの母親は、娘が5年間にわたり性暴力被害に遭ってきたことを触れ回り、「B検事がまだ生きているのはおかしい」と厳罰を求めている。また、司法機関は身内の犯罪に甘いことから、軽い処罰で済まされるのではないかと懸念している。
「ここ(北朝鮮)では、検事になることそのものが非常に大変なことで、B検事の妻の実家が非常に太いため、Aさんのお母さんの懸念はあながち間違っていない」
「B検事が死刑を免れるだろうと見ているひとはかなりいる」(情報筋)
安全部や保衛部だけでなく、検察や裁判所に対する北朝鮮国民の信頼は非常に低い。北朝鮮のみならず、腐敗した権威主義国家では、役人の持つあらゆる権限が「ワイロのネタ」に化ける。
彼らに逆らってワイロを出し渋れば、どんな目に遭わされるかわからない。最悪の場合、死刑さえもあり得るのだ。
A検事は現在も取り調べを受けている。
「今回、まともな判決が下されなければ、もはや司法機関を信じる人はいなくなるだろう」(情報筋)