北朝鮮の外貨稼ぎの象徴ともされた「北朝鮮レストラン(通称:北レス)」が、静かに終焉を迎えつつある。

朝鮮料理を味わいながら、民族衣装に身を包んだ美貌の女性たちによる歌や踊りを楽しめる――そんな“異色のライブレストラン”は、世界中に約130店舗を展開していた。

めったに触れることのない北朝鮮文化を体験できるとあって、一時は多くの観光客で賑わっていた。

なかでも「川向こうに北朝鮮を望む」中国・遼寧省丹東市は、北レスの一大拠点だった。最盛期には「北レスの隣にまた北レスがある」と言われるほど密集し、15店舗以上が営業していたが、近年はその数が減少の一途をたどっている。

デイリーNKの現地情報筋によれば、柳京(リュギョン)食堂や大宝山(テボサン)食堂など、丹東市内にあった複数の店舗が最近になって相次いで閉店に追い込まれた。今年初めには10店舗が営業していたが、従業員が15人程度の小規模な7店舗がすでに閉業。スタッフとして働いていた女性従業員や管理職の幹部は全員、北朝鮮に帰国したという。

閉店の主な要因は経営難だ。情報筋は、「価格が高く、中国人客から敬遠されている」と語る。

「商売人が接待で使うことはあるが、一般の中国人には高すぎる。4人で食事をすると、700~800元(約1万3600円~1万5600円)はかかる」

一方で、北朝鮮の権力機関が関与しているとされる大規模店は、今も営業を続けている。松濤園(ソンドウォン)食堂や高麗食堂などがその代表格で、いずれも多数の北朝鮮人女性が接客や舞台でのパフォーマンスに従事している。

高麗食堂は、中国に駐在する北朝鮮の貿易関係者が商談や接待に利用する場でもあるという。

ただし、こうした大規模店も安泰とは言いがたい。

「松濤園は、後ろ盾の権力機関があるから閉店しないだけで、儲かっているわけではない」と、情報筋は明かす。「中国人は高額な北レスには足を運ばなくなったため、全体的にどの店舗も厳しい状況だ」とも。

なお、最近の中朝関係の冷え込みが北レスの不振に影響しているのでは、との見方については否定的だ。

「単に中国の景気が悪くなったから、北朝鮮側が自然とリストラしているだけ。中国政府が事業に圧力をかけたわけでも、北朝鮮政府が方針転換したわけでもない」

閉店の際、店舗運営の権利は現地の中国人に譲渡されており、今後は「北朝鮮政府直営のレストラン」ではなく、「中国人が運営する北朝鮮風レストラン」として生まれ変わる見通しだ。

なお、2017年9月には国連安全保障理事会が、北朝鮮の団体や個人との合弁事業を禁止する制裁決議を採択。これにより、各国は120店舗以上の北レスを閉店する義務を負い、北朝鮮国民の新規雇用や既存の就労継続も禁じられた。

当初は中国も制裁に応じる姿勢を見せていたが、その後は労働者の受け入れを拡大させている。北レスの姿は、そんな“制裁の隙間”を象徴する存在でもあった。

しかし今、ひとつの時代が静かに終わろうとしている。

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