北朝鮮の「国会」にあたる最高人民会議では、形式的には選挙が行われており、代議員は選挙によって選ばれる建前になっている。しかし実際には、有権者は候補者の名前すら知らされず、投票所で「賛成」と書かれた箱に投票用紙を入れるだけ。

まるで儀式のような選挙が行われているのが実情だ。

2023年に実施された地方人民会議の選挙では、一部選挙区で複数候補制が導入された。しかし、それでも自由な立候補や多様な政策論争があるわけではなく、民主主義とはほど遠いものだった。

そんな「なんちゃって民主主義」の選挙ですら行われなくなっている。

前回の最高人民会議代議員選挙は2019年に実施された。憲法で代議員の任期は5年と定められており、その終了前に選挙が行われることになっている。ただし法律の条文には「やむを得ない事情で選挙が行えない場合は、選挙が実施されるまでその任期を延長することができる」とも定められている。

どんな「やむを得ない事情」があったのか、2024年に行われるはずだった選挙は未だ実施されておらず、国民の間では疑問や憶測が広がっている。

デイリーNKの内部情報筋によると、選挙が行われていないことに対する国民の反応は、「ひそひそと話題にする」人と「まったく関心を示さない」人に分かれているという。また、「今年は朝鮮労働党創建80周年にあたるため、大きな事業の準備があるのではないか」といった声もあるという。

さらに情報筋は、「すでに既存および新しい代議員のリストが中央に提出されており、現在精査中ではないか」という見方や、「代議員の入れ替えに伴い、選挙が延期されているのでは」という噂もあると指摘した。

ある幹部は「10月10日の党創建記念日あたりに選挙を実施すれば、新たな代議員団が80周年の式典に華を添える」と話しているという。

しかしその場合でも、6月までには選挙準備を終える必要があるが、現在の状況では今年中の実施も不透明だという。

一方で、公式発表はないものの、裏では代議員候補の選抜準備が静かに進められている可能性もある。

情報筋は、「党や内閣、法機関、軍など各部門に対して、50~60代幹部の実力評価と関連資料の整理を9月末までに完了するよう指示が出ている」と述べた。これは、次期代議員の人選と関係している可能性があるという。また、「新たな代議員構成は世代交代と実力主義を重視して決定される」との見方も示された。

現在の北朝鮮では、朝鮮労働党創建80周年記念行事の準備が最優先とされている。

情報筋は、「今年の政治日程の焦点は党創建80周年に合わせられており、全ての準備がそれに向けられている」、「代議員選挙や最高人民会議の招集よりも、記念行事の方が優先されているのは事実だ」と語った。

さらに、「今年10月の創建記念日や年末の第9回党大会を前に、幹部たちは2025年を『党・国家・軍・人民・社会の再構築の年』と位置づけている」とも述べた。中央からは宣伝扇動、組織思想の強化に関する厳しい指示が出され、全体的にその実行が進められているという。

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